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僕も異世界に行きたい  作者: 十条王子
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日焼け

 夏の日差しに焼かれて真っ黒になった皮膚は、数日を経過してぼろぼろと剥がれ始めた。腕と背中に、それは顕著だった。腕をさすれば、圧力を受けて細かくはぎ取られた皮膚が丸まって塊となり、それは垢の様で見るに不快だった。一方で、はがれかけの部分を指でつまんでゆっくりと引きはがすと、ひらひらとして向こう側が透けて見える一枚の皮膚が取れて、だけど、だからといってそれを綺麗だとは決して思わなかった。結局そうしてはがした皮膚もまるめて捨てるのだった。1週間も経たないうちに、いつの間にか肌は生まれ変わっていて、つるつるになっていた。かつて自分だったものを気付かぬうちにまき散らしながら、僕はその数日を生きていた。家の中をよく掃除しないとなと思う。

 皮膚が剥がれて、一皮向ける。脱皮する。進化する。また一つ、大きな人間になれた。そういうことになるだろう。断言する。なるだろう。(ならねぇよ)

 日焼けしたことで、僕のステータスは何があがったのだろうか。メラニン保有度だろうか。やめて。そういうの、無視できない年頃になってきたのだから。

 熱耐性とかが上がっているのだろうか。それとも黒くなったことで闇属性のレベルが上がっているだろうか。

 そういえば、日焼けしたことで、「イケイケのパリピに見える(これまでは陰キャだったくせに)」という評価を友人からもらった。そういう意味で言えば属性変化を手に入れたのかもしれない。だけど僕はそういうタイプではないから、手に入れてしまった変化とそれについていけない心に葛藤している。なにそれ悲劇の主人公みたいかっこいい。

 日焼けで進化ができるならばいくらでも日焼けしようと思うし、何度でも脱皮しようと思うし、果たしてあの真っ黒な芸能人はレベルいくつなんだよとか思う。日焼けで進化なんてできない。だけど確かに鏡に写る日焼けした自分はイケイケのパリピに見える気がしたし、それに引っ張られて気持ちも少し明るい奴になった気がした。見た目に気持ちが影響されるということはあるかもしれない。ならば、筋トレしたり、姿勢を整えたりして勇者みたいな見た目になれば、心も勇者みたくなれるだろうか。世界を救う英雄みたいな見た目をすれば、それに見合ったメンタルを持てるのだろうか。

 人間的に成長できているかなんて知ったこっちゃないけれど、この日焼けはこの夏、南の島に行ったことで生じたもので、南の島に行って楽しかったという思い出は確かに僕の中に刻まれている。それは僕の財産だし、一緒に行った人と共有する大切なものであることは間違いなくて、だから進化とかはいっそどうでもいいんだけれど、だけどここで矛盾するように、大切な思い出とか経験の分だけ、大きくなれている気はする。

 ぼろぼろと剥がれ落ちて部屋中に散らばる自分の皮膚を掃除しようと思い立ち部屋を見回すと、Tシャツやら靴下やら、違った自分の抜け殻が散乱していて、だらしなくて、あぁ、まだまだ英雄には程遠いなぁと思った。

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