大すすき
箱根は仙石原へすすき草原を見に行った。同期の男と女と、僕の三人で行った。
車は同期の彼が出してくれた。彼女が助手席に、僕は後部座先に座った。僕たちが学生時代に流行した曲をかけながら、首都高を抜け、箱根に向かった。
空は快晴とは言えなかったが、雲の合間には青空が見えた。
渋滞にはまりながらも、三人で懐メロを口ずさみながら、道中を楽しんだ。途中のサービスエリアから眺めた富士山がとても大きく、まるで絵のように見えた。「大きいね」「そうだね」「上の方はもう雪が降っているんだね」そんな会話をした。
すすき見物には僕から行こうと言い出したくせに、最寄りの駐車場を調べていなかった僕は、携帯で調べながら行けばいいと甘く考えていて、山中に入り電波が途絶えて内心とても慌てふためいた。どうしよう。迷惑をかける。「ごめん、電波きれた」
僕がそんな失態をやらかすと大抵助けてくれるのは助手席の彼女で、すぐさま代わりにルートを調べてくれて、僕らはなんとか無事に到着した。電波が切れたのは僕の携帯だけみたいだった。道案内の不備を謝ると、二人は笑って許してくれた。
駐車場から10分ほど歩くと、T字路にぶつかった。そこに目的地はあった。山を切り開いたのか、斜面にそって一面すすきが広がっていた。程よい風が吹いていて、黄金色の草原に静かな波を起こしていた。その草原の間に、斜面を登る、まっすぐな一本道があった。どこまで続いているのか、その先は見えなかった。その道を歩くたくさんの人々が見えた。「天国に続いてそう」運転してくれた彼が言った。
その道に入る前に、腹ごしらえをしようと、近くのそば屋に入った。寒かったので温かいそばを注文する。つもりが、彼女が頼んだ梅蕎麦は冷たいメニューだったみたいで、店員が持ってきた時に「冷たいやつかー」と小さくつぶやいたのを僕は聞き逃さなかった。
食べ終えて草原の入口に立つ。「金色に輝く大地」と彼が言ったので、「ナウシカか」と返すと、彼は「え?」という顔をしていた。
案内板を見ると、どうやら一本道は草原の終わりまで続いていて、道の終わりからは山林が始まっているようだった。多くの観光客がいたが、歩けないほどではなかった。僕たちはゆっくりと遊歩道を進み始めた。
すすきは背が高く、僕たちの身長以上にあった。背の高いすすきに挟まれた一本道が、まっすぐに伸びている。
道幅は狭くないが、ごろごろとおおきな石が転がっていて歩きにくかった。道の端に、縁石のようにコンクリートがまっすぐに伸びていて、みながその上を歩こうとしていた。しかし縁石は道の片方にしかなくて、下ってくる人たちとすれ違う時にはどちらかが道に降りなければならなかった。そんな歩きにくさも、整備されていないごろごろと石の転がる一本道も、この草原の雰囲気に合っていた。
三人で写真を撮りながら草原を歩いた。縁石に上り脇を眺めると、山々を背景にすすきが広がっていて、雄大な自然を感じることができた。空は青かった。寒さは忘れていた。
ススキと言う言葉に隠して、「ねぇ。す、すきだよ」とか言って、「え、うん。そうだね」わかってるけど? みたいな反応をされたいとか、伝わらない、その感じがいいとか、そんなことは、その時には考えていなかった。その時の僕の心は、きっと美しい自然に浄化されて、きれいなものだった。
遊歩道の最後には「ここが終点です」との看板があった。来た道を振り返る。草原の間を茶色の一本道が下りていき、降りたところから灰色の道路が山に向かって真っすぐ上っていて、実際に二つの道は続いていないのだけれど、けれど、続いているように見えた。またゆっくりと降りていく。たわいもない会話をしながら、遊歩道を抜ける。少し離れたところで、草原を振り返った。
少し遠くから見る草原は、黄金色の絨毯を広げたかのように、柔らかく波打ち、美しかった。「遠くから見たほうがきれいだね」「そうだね」それは皮肉でもなんでもなくて、僕たちの正直な感想だった。
すすきだけ見て、帰途についた。海沿いを走って帰ろうということになり、西湘バイパスを茅ケ崎方面に走る。途中、また渋滞まき込まれ、ずっと運転してくれている彼に疲れが現れた。眠気が出てきたのか、いつもと変わらない口調で、「ねぇ、ビンタしてくれない」と彼女にせがんでいた。
「変態だ」「変態だ」彼女と僕は笑って、けど誰もビンタはしなかった。代わりに眠気を吹き飛ばすように、彼は車内で熱唱し始めた。
海に目を向けると、厚い雲の隙間から光が差し込んでいた。天使のはしご、というのだったか。空からのスポットライトを浴びて、海や、遠くの山々が輝いている。その黄金色のせいだろうか、先ほどのすすきを思い出した。
タイミング悪く休憩所がなく、彼はずっと、休むことなく運転を続けてくれた。「あぁ、ケツが痛い。ケツにビンタしてくれ」そんな発言をしながらも、クールに運転を続けてくれた。
すすきの感動と同じかそれ以上に、車中の楽しい時間が記憶に残っていて、僕は今、二人に「ありがとう」「大すすきだ」と伝えたい。




