全ての始まり
「もう、こ、ろして・・・」
目の前にいる女は朱に染まったその手で涙を滲ませながらそう言った。
視線を移す。隣のそれを少女は見下ろし、恨みのこもった瞳でそれを見つめた。
「私だけ・・・・・・生きたって、もう・・・・・・っ」
嗚咽を含んだ声でその女は言ったが、その言われた少女は眉を八の字にしながら、不快感をあらわにした。
「・・・・・・うるさい、アンタが悪いんでしょ・・・・・・」
力ない声で視線を落とした。
「わかってるよ・・・・・・でもっ」
「でもじゃない!!!」
女はポロポロと泣き出すが、それを見て、少女は更に機嫌をそこねた。
そして、少女は手を伸ばし詠唱を始めた。紫紺の光の粒子が少女の手の周りを舞い、それから泣いている女――リーラの身体を包み込むように舞ったあと、リーラの身体の中・・・・・・心の中に消えていくようだった。リーラは自分の身体を見つめ、少女に回答を求めた。
「ねぇ、リーラ?貴方はもう、光なんて見れない。この男は言ったわ。"助けてくれ"って。だから私は貴方を助けた。最悪の方法でね。」
リーラはまるでこの世の終わりのような顔をし、それ――自分の父親を見て、号泣した。リーラは全てを悟ってしまったのだ。リーラの断末魔は少女の心には届かない。リーラは「ごめんなさい」と何度も叫んでいた。
そろそろ、空が暮れてきた。この空さえも、もうリーラは見ることができない。
「今日は、月がキレイね。リーラ。」
リーラは狂ったように泣いているだけで返事をくれなかった。いや、もう少女の声はリーラには届いてないのだろう。
少女は近くに落ちていた短剣を拾い、その短剣を自分の心臓に向けた。
「キレイな黄色の月もいいけど・・・・・・」
グサリと肉が裂けるような音がした後、少女――ラミナの口から紅い紅い花弁が飛び出した。
『紅い月もいいと思わない?』
「アアアアアアアアアアアア!!!」
リーラは壊れた。リーラは哀しみと罪悪感に押し潰されてしまったのだ。だが、もうリーラには紅い月など見えるはずもない。リーラの瞳に映ったのは痛みを伴う雨と、ラミナの朱に染まった笑顔だけだったのだから・・・・・・
こうして、大魔法使いラミナはたかが13歳の若さで命を絶ったのだ。




