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パンチとはパンツに似ている

 翌日。

 教室のドアを開けた瞬間、茶児に殴られた。


「がふっ……!」


 腹に突き刺さった拳は、勢いを止めることなく、そのまま振りぬかれ、まるで漫画やアニメの世界の如く、僕は宙を舞った。


 吹き飛んだ先は、当然廊下。

 窓に叩きつけられ、呼吸が止まる。


「ぁあ゛ああああああぁああああああああっ!」


 咆哮を上げながら、茶児は追撃を仕掛けて来た。

 強烈な飛び膝蹴り。僕に避ける術は無かった。


「――――っ!」


 腕をクロスし、どうにか防御態勢を作るも、そんなもの意味は無く。

 僕は廊下のと共に、校舎外へと落ちて行った。


 ちなみにここは3階である。

 落ちたら普通にやばいだろう。


「げほっ……――詠唱、破棄、下級風魔法ウィン……!」


 呪文を唱えると、風が僕を包み込み、身を守るバリアとなる。

 ふわり、とグラウンド隅にある花壇の花を撒き散らしながら、僕は態勢を立て直す。


 無事、着地。


 ふぅ……。異世界冒険編で手に入れた風魔法で、どうにか落下時の衝撃を抑えたが腹が痛いし腕が痛い。腕は間違いなく両手とも折れているだろう。


 回復魔法は使えないんだよなぁ……白黒め、何故こんな時に限って旅に……。


「……さて、と」


 何故、筋肉が膨れ上がり、眼光は鋭く光り、数えるのも面倒なほどの青筋を茶児が立てているのか検討を始めようか。


 まあそんなの考えるまでも無く、昨日渡した僕のチョコレートの所為だろう。


 万が一のことを考え、『ぷぎゃww女の子からチョコ貰えたと思った? 残念、僕でしたwwねえねえwww今どんな気持ちwwねえねえww教えろよwwwねえねえww今どんな気持ちぃwwww? 明日学校で教えろよwwpgrwww』と書かれた手紙を同封しておいたからな、こうなるのは覚悟していた。


 だが! しかし! 男にはやらねばならないときがある! 故に! 僕は自分のこの行動に!何一つ後悔をしていない!


「来いよ茶児! 謝罪はしない! 弁明もしない! でも出来れば手加減してください!」

「するか馬鹿」


 気付けば、茶児は目の前にいた。

 3階から飛び降りたのだろうか、それにしてはダメージがなさげだ。


 片手で頭を掴まれ、地面に叩きつけられる。


「ぐぅう……」


 土が口に入ったぞ、コンチクショウ……。


「お前さぁ……」


 そのまま持ち上げられ、宙に吊るされる。


 あ、やばい。

こいつ目がマジだ。


 今まで「何だ、いつものあいつらか……」と静観を決めてた周囲の生徒らも、いつもと違う何かを感じ取ったのか、ざわつき始めた。


「彼女いない歴=年齢の男に……」


 そのままぐるぐるとジャイアントスイングの要領で僕を回し始め、


「バレンタイン詐欺は一番やっちゃいけないことでしょうがぁああああああああああああああ!」


 ぶ ん 投 げ た。


「ちょ――――」


 発した言葉が、空間においていかれる。


 校舎一階の壁をぶち抜き、廊下をコンマ秒で通り抜け、教室に窓からダイナミックインし、さらに教室の窓が仰々しく割れる音と共に僕は反対側の校長が育てている花畑に頭から突っ込んだ。


 あー、流石だ、茶児。『古谷』茶児。


 僕ら三人の中で、最強の戦闘力を持つ男。

 『古谷』の名は、裏社会だとちょっと知らない人がいないレベルで有名だ。


 生まれた時から『古谷』を受け継ぐ者として、父親からマンツーマンで指導を受けていたらしい茶児は、実践投入はされてないらしいが、その実力はすでに世界最強クラスらしい。


 異世界冒険編にて、茶児がいればもっと楽だったのにと、常々思ったものだ。


「茶児ぉ……お前異世界で戦った魔王よりも強いよ」

「そうか」


 制服の襟を掴まれ、無理矢理持ちあげられる。

 あー……血を流し過ぎた、フラフラする。


「保健室行っていい?」

「後で病院に連れてってやるよ、ていうかさ、反撃せえよ、お前」

「いや……今更騙した罪悪感とか色々が込み上げてきてな、大人しく殴られることにした」

「なら最初からやんなや」


 全く持ってその通りである。

 ぐうの音も出ないお言葉だ。


 はぁ……、と茶児は溜息一つ。

 許してもらえたか? と茶児の顔をちら見するも、その眼光は相変わらず鋭いまま。


「あーあ、残念だ」

「残念?」

「ああ、久しぶりに本気でお前とやりあえる理由ができたと思ったのによぉ」

「……戦うのに理由がいるのかよ」

「そりゃ、いるだろ。理由の無い暴力は、悪だぜ?」


 いや、如何なる理由があろうとも、暴力は悪だと思うぞ。僕は。


 その辺は価値観の違いなのか。


「ていうか、バレンタインの件は結局怒ってないの?」

「いや、ガチギレしたけど、それとこれとは別だろ」


……チッ。

っと、僕は内心舌打ちをする。


「まあ……お前とやり合うのは御免だよ、どうしてもやりたいなら僕を怒らせてみろよ」

「怒らせる……」

「おうよ、まあ僕は怒らねーけどな、僕を怒らせたら大したもんですよ」


 どさっ、と地面に落とされる。

 尻もちを付いてしまった。地味に痛い。


「いたた……離すなら言え……「パンツってさ」


 僕のセリフを遮るように、茶児は言う。



「ただの布じゃん」



――プツン。と、僕の堪忍袋が切れる音が、ハッキリと聴こえた。


「――てめぇは僕を怒らせたぁああああああああああああっっ!」


 パンツはなぁ! そういうんじゃないんだよ! 夢が! 希望が! 愛が! この世に溢れるありとあらゆる幸福が詰まった! まさに世界とも言える代物なんだよぉ!

 パンツは世界のために、世界はパンツのために!

 パンツフォーオール、オールフォーパンツ!

 パンツは全てのために、全てはパンツのために!


「それを! その世界の至宝……いや、世界そのものを! 『ただの布』だとぉおおおおおおおおお!? 許さん! 貴様は死ね! ここで死ね! 殺す! ぶっっっころぉおおおおおおおおおす!」

「キャラ崩壊してんぞ……いや、ある意味してないのか」


 呆れながらも、茶児はにやりと笑う。

 その表情は余裕そのものだ――吠え面かかしてやる。


「行くぞ……! シュトルム・ビュン・ソニッキ――」

「お?」


 体内の魔力が両足に収束していく。

 ただのエネルギーでしかない魔力を、魔法という形に昇華させていく。


「……中級加速魔法シュトライム!」


 中級加速魔法。

 その名の通り自身の速度を加速させる魔法で、足元に展開された魔法陣を蹴ることで、自動車並みの速度を出すことができるのだ。


 さらに――。


「かける……6!」

「!?」


 足元の魔法陣が重なるように六つ展開。

 それを蹴り出した瞬間、僕の身体は自動車など話しにならない速度まで加速する。


 そう――この魔法シュトライムは重ねがけが可能なのだ。


 六つ重ねた時の速度はマッハ一歩手前。

 音の壁を超えることはまだ出来ないが、それでも。


 それでも時速1000km近い速度で放たれた拳は、それはもうえげつない威力な筈だった。


 鉄をも砕く拳――なのに。


 砕けたのは、僕の拳だった。

 爪の先から肩の付け根まで、余すことなく粉々に。


 砕け散った。


「――――は?」

「舐めるなよ、その程度のパンチで貫けるほど、俺の腹筋は柔じゃない」

「いや、あの、魔王ですらこれ喰らったら血反吐を吐いたんですけど」

「知らん」


 茶児は拳を大きく振りかぶった。

 舐めているのか、そんなテレフォンパンチ、当たるわけがないだろう。


(……よし、あのパンチを直前で避けてクロスカウンター決めてやる)


 僕は吹き飛んだ。


「――え」


 息が出来ない。

 血が口に。鉄。鉄。鉄の味。


 何が、起きた。

 何も、見えなかった。


「強くなったのが、お前だけだと思うなよ?」


 茶児が、パンチを放った後の態勢のまま、言う。


「中学の頃と比べて、俺はもっと強くなった。異世界冒険編だかなんかで、お前も見違えるほど――見間違えるほど強くなったが、それでも、まだ俺の方が上だ」

「…………」


 ……敵わないなぁ、茶児には。

 これで、0勝3敗。


 当分、僕の負け越しは続きそうだ。


 視界がぐるぐるする。

 血が止まらない。まじで気絶する5秒前。略してMK5。


「……最後に、一つだけいいかな、茶児」

「……何だ?」


 落ちそうになる意識をどうにか保つ。

また勝てなかった。けど、僕は、この戦いで一つ、確信を得た。


「パンチとパンツって……似てあべし!」


 とどめを刺された。


茶児の戦闘力は魔王最終形態のちょい上くらいです。

不等号で表すとこんな感じ↓

1章最終話の覚醒白黒+パンツマン本気モード>茶児>魔王最終形態>白黒+パンツマン>魔王通常形態>パンツマン単独>白黒単独

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