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とんとん相撲とはパンツに似ている

毎日更新を目指す

 友情とか、愛情とか、そういう類の感情なんてくだらない。


 人間は結局一人で生まれ、一人で歩き、一人で死ぬのだと、思っていたことが僕にもあった。


 でも、白黒と出会って、茶児と出会って、当時6歳児だった僕は、その考えをあっさりと捨てた。


 友情は素晴らしいもので、愛情が無くては人は生きられない。


 人が生まれる時と、死ぬ時は、確かに一人なのかもしれない。

 しかし、人の人生の歩みは、一人では進めない。


 隣に誰かがいるから、人は進むことができるのだ。


 だから、僕は――。





*****





「下着泥棒ー?」


 僕は興味なさげに聞き返す。


 今は茶児とタイマンでトントン相撲をやっている最中なのだ。

 真剣勝負。負けるわけにはいかない。


「そうなのよ、私の下着が盗まれちゃってさー」


 さよか。

 残念ながら彩さんの下着がどうなろうと欠片も興味は無い。


 茶児の操る紙力士、『サンライトハートNEXT』が、必殺の奥義、『燃え盛る夏のメモリーズ』を繰り出す。

 辛うじて体勢を整えたものの、やはりあの技は脅威としかいえない完成度だ。


「それは残念でしたね」

「……それでね、アンタたちに下着泥棒を捕まえてきて欲しいのよ」


 僕は愛機の紙力士、『ダークネス・スピア』を操り、秘儀『ブラック・オブ・カオス』を繰り出した。

 黒い波動が茶児の『サンライトハートNEXT』を襲い、その身を削っていく。


「くっ……やるな」

「くくく……今までの僕と思ってちゃ痛い目みるぜ?」

「おーい、私の話聞いてるー?」

「ん? ああ聞いてる聞いてる。ちくわって美味いよね」

「全然聞いてねー!」


 せやかて僕、彩さんの下着が盗まれたって別にどうでもいいし。

 むしろ、下着泥棒という存在には親近感が沸くほどである。


「……まさかアンタが犯人じゃないでしょうねー」

「はは、無い無い、僕だったら真正面から頼むか、履いてるのをハンティングする」

「まあ、そうよねー……」


 はぁ、と彩さんは溜息を吐いた。

 今の弁解で納得される辺り、彩さんの中で僕というキャラがどうなっているのか問い詰めたくなった。


「……あれ? そういえば白黒は?」

「あー、白黒は旅立ったよ、姉ちゃん」

「へ?」

「こんな置き手紙を残してね」


 『まだ見ぬヨメをさがしに旅立ちます。さがさないでください。……さがすなよ? 絶対さがすなよ? 白黒より』

 と、書かれた手紙を彩さんに見せる。


「……何これ? 探せと?」

「多分白黒のことだから彩さんや僕の妹に触発されたんでしょうね」


 わりと影響されやすい男なのである。白黒というやつは。


「馬鹿だねぇ……」

「馬鹿ですからねえ」

「馬鹿だもんなぁ」


 どれくらい馬鹿かと言うと、中学に上がってようやく掛け算の筆算が出来るようになったくらいである。


「おっとぉ、話がそれた。下着泥棒! 忘れるとこだった」

「ちっ、誤魔化せなかったか……、でもめんどくさいから嫌――」

「お母さんの下着だって盗まれたんだしさぁ」

「――下着泥棒だと!? 絶対に許さん! その下着泥棒、僕が絶対に捕まえてやる!」


 茶児の母さんのパンツはまだ僕ですら拝んでないんだぞ!

 許さない! 絶対に許さないぞ! 犯人めぇええええええ!


「……何でツッくんこんな急にやる気だしてんの?」

「あー……こいつウチの母さん大好きっ子だしなぁ、昔から。何度母親を交換してくれとせがまれたか……」


 さぁて、そうと決まれば行こうか。

 愛機、『ダークネス・スピア』を仕舞い、立ち上がる。


「――っと、ちょい待ってよツッくん、やる気になってくれたのは嬉しいけど、どうやって探し出すつもりなの?」

「パンツァー同士は惹かれ合う……その下着泥棒もまた、パンツを愛する者ならおのずと会合することはできるだろう」

「そんなスタ○ド使いは惹かれ合うみたいに言われても……ていうかパンツァーって何?」


 説明しよう!

 パンツァーとは、パンツを愛し、パンツこそが全てだと、パンツこそが世界であり宇宙であると! 三度の飯の代わりにパンツを食べることこそが夢だという甘美な思想を持ち合わせている人間のことだ!


 まあ僕以外見たことないけどな!


「じゃ、いってきまーす!」

「あ、ちょ」


 茶児が何か言いかけたが無視して、部屋を脱出。


 一目散に、外へ駆けて行った。






*****






 ブロック塀に囲まれた、狭い裏路地。

 こういう所に来ると、小学校の頃、塀に登って、落ちたら死ぬーとか、落ちたら地獄ーとかやってたなぁ、とつい思い出に浸ってしまう。


 まあ、それはさておき。


「よう」


 茶児の家を飛び出て数分後。

 パンツァー波に惹かれて走っていると、それらしき男を発見した。


 黒い帽子に黒いサングラス、そして紙マスク。

顔隠し三大神器でリュックサックを背負った、どっからどう見ても怪しい男だ。


 ……まさか本当に見つかるとは……。


「見つけたぜ……下着泥棒」

「な……何のことかな?」


 くぐもった男の声。

 誤魔化しても無駄だ、貴様のそのリュックサックからは隠しきれない程のパンツ臭がしている。


「聞こうか……そのリュックに詰まった下着……一体何に使うつもりだ?」


 男は観念したのか、それとも、僕に同類の匂いでも感じたのか、ぼそぼそと話し始めた。


「そりゃ……匂い嗅いだり……被ったり……、その手のマニアに売りつけたり……」

「馬鹿野郎!」


 勢いよく拳をブロック塀に叩きつける。

 ブロック塀は、その一撃で、粉々に砕け散った。


 唖然としている下着泥棒を睨めつけながら、僕は叫ぶ。


「貴様に言いたいことが、3つある! ひとぉつ! 真にパンツを愛するものなら盗んだりせず、正面から頼みこめ! それか抜き取れ! ふたぁつ! 泥棒は最低の行為だ! 今すぐ自首しろ! そして、みぃっつ! パンツは嗅ぐものでも被るものでも、ましてや売るものではないっ! 食べるものだ! 主食だ!」

「な……」


 僕の魂の叫びに、下着泥棒は慟哭しながら口を開く。


「何言ってんだこの変態は……?」

「ふぅ……」


 ……僕のこの崇高なパンツ理論が理解できないとは……やはり僕レベルのパンツァーはそうそう居ないか……。


「僕は変態ではない、パンツが大好きなだけだ」

「ふ、普通に変態じゃねえか!」


 全く……言っても分からない馬鹿野郎か……。

 まあ、パンツに性的な意味しか見出せない愚者に高説を説いても分かる筈もない。


 馬の耳に念仏、というやつだろう。


「もういい、とりあえず一緒に警察に行こうか。その前に私怨で数発殴るが」

「ひっ……!?」


 僕が素手でブロック塀を壊したのを思い出したのか、後ずさる下着泥棒。

 異世界冒険編で、比喩でなく世界を救ったことだってあるのだ。僕の戦闘力は一般人のそれを遥かに超越している。


 下着泥棒の体格は、見たところお世辞にも良いとはいえない。

 僕が負ける要素は無いだろう。


「わ……、わかった! このリュックに入ってる下着、半分やるから見逃してくれ!」

「命乞いか……見苦しいぞ、お前は悪さを働いたんだ、因果応報、年貢の納め時だぜ」

「ちょ……ちょっと待ってくれ! よし! 全部! 全部やろう! それでどうにか……!」


 ヒュン、と風切り音が鳴った。

 僕の手刀が、下着泥棒のリュックのショルダーベルトを切り裂いたのだ。


 音を立てて、下着の詰まったリュックサックが地面に落ちる。


「――――っ!」

「おっと、外してしまったか」


 リュックサックを拾い上げて、中身を確認する。

 その中には、ぎっちりと色々な女物のパンティーやブラジャーが詰まっていた。


 全くけしからん……。コイツは責任持って僕が警察に届け……届け……。


 ――……コイツを警察に届けると、僕の物にはならないんだよなー……。


 ……………………。


「うあああああ!」

「ひっ! な、何?」

「目がー! 目にゴミがー! くそー! これじゃー下着泥棒追えないなー! 今逃げられたらやばいなー!」


 我ながらものすごい棒読みである。

 僕の言いたいことを察してくれたのか、下着泥棒はわき目も振らず逃げ出したようだ。


 足音が遠ざかっていく。

 それを確認して、僕はにんまりと笑いながら独り言を喋る。


「ふぅ……逃げられたか。いやーざんねんだなー、したぎどろぼうとかゆるせないのになー」


 そんな風に体裁を保ちつつ(保ててない気もするが)、僕はリュックサックを漁りだす。

 ふほほ、大量大量、ブラジャーは邪魔だからいらないとしても、この中に茶児の母親の下着もあると考えれば絶頂モノである。


「さぁて、家に帰ってじっくりと……」

「下着泥棒という単語が聞こえてきたから走ってきたが……」


 ガチャリ、と手錠が僕の腕に掛けられる。

 突然すぎて、状況がよく飲み込めないまま、僕は手錠をかけた張本人であるモミアゲがやたらと長い警官を見つめる。


「やはり犯人はお前だったか……ったく、お前は何度警察のお世話になったら気が済むんだ?」

「……ちょ! ちがっ!」

「何が違うんだ、その下着がたっぷり詰まったリュックをお前が持っているっていうことは、そういうことだろう」


 成程、普段からパンツを連呼している補導常習犯+下着の詰まったリュック+最近下着泥棒が出没中=そいつが犯人。か、言い訳出来ないほど素敵な方程式だった。


「……あ、もしもし、はい、例の下着泥棒と思わしき犯人を捕まえました……はい、やはりあの小僧でした」


 トランシーバーで何処かに連絡を入れるモミアゲ警官。


 繋がれた手錠はがっちりと僕の手を掴み、自力で外すことは難しそうだ。


 ……それでも、それでも!


「それでも僕は無実だー!」

「暴れるなって、大人しく捕まっとけ、なぁに、カツ丼くらいは出してやるさ」


 世界は救えても、警察には勝てない。

 いくら僕でも、社会的に死ぬのは流石に不味いのだ。


「ちくしょおおおおおおおおお!」

「ほら、歩け」


 モミアゲ警官に背中を押されつつ、僕は次下着泥棒に会ったら決して容赦しないことを誓うのであった。


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