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アルバイトとはパンツに似ている

アルバイトは学生の内に体験した方が良いよ。

就職で有利になるからね、やっぱアルバイトとはいえ社会に出たことが

あるという経験は面接側からしてもプラスの要因になり得るからね。

特に接客系の仕事に就きたいって考えている人は絶対やった方が良いね、

勿論接客業のバイトを。経験があるのとないのとじゃかなり違ってくるからね。

ていうか「私コミュ障だし……」っていう根暗も接客業をやってみるといい、

最初は辛いかもだけど、3ヶ月くらいで最低限のコミュニケーション能力

付くし自分に自身も持てるから。

 朝。

 と、いうよりも、昼と言った方が正しいであろう時間に僕はベッドで目覚めた。


 見知った天井だ。ていうか普通に僕の部屋だ。

 昨日マヨの誕生日会は延長に延長を重ね、明朝4時になったところでようやく帰ったあいつらを見送ってから寝たのだ。むしろ早起きしたほうかもしれない。


「ふわぁ……起きよ」


 つぶやいて、ベッドから降りる。

 まだ眠いが、これ以上寝るのはなんだか時間を無駄にしているようで嫌だった。


 折角の春休みだ。


 廊下に出て、階段を降りる。

 リビングに入る扉に手をかけた瞬間、中から『ガシャーン!』とガラスか何かを割ったような音が聞こえてきた。


「……何ごと!?」


 勢いよく扉を開く。

 リビングを右左と見渡すも、窓が割れた様子は無い。


 一体なんだったのか……、と思案するまでもなく、答えは目の前にあった。


 机の上で錯乱する豚の貯金箱の残骸。

 その中身であっただろうお金を数えるマヨ。


 なるほど、さっきのはただ単に貯金箱を割っただけの音か……。


「マヨ、おはよう」

「お、兄貴おはよう……つってももう昼だけどね」

「別にいいだろ休日だし」


 流石に小学生であるマヨは日が変わる前に寝たので元気そうだ。


 床に落ちていたテレビのリモコンを手に取り、電源ボタンを押す。


『――それでは、次のニュースです。未だ捕まらない、黒い刀剣らしきものを持った不審者が、四人目の犠牲者を出しました。被害者はまたも――』

「うへぇ、結構近所じゃん、春休みだってのに、この不審者のせいで外出は控えるように言われてるんだよ」

「…………へぇー、まあ、言いつけは守れよ? 絶対に外出るなとは言わないけど、夜に外出はやめとき」

「分かってるよ、兄貴」


 ニュースは終わり、CMが始まる。

 それを確認した後、僕は朝ごはん(という名の昼ごはん)を食べるために台所へ向かった。


「よし、ある!」突然マヨがうれしげに笑ったので、僕は戸棚からレトルトカレーのルーを取り出しながらそっちを見る。


「どした?」

「ほら、あと一ヵ月くらいで任○堂の新ハード、ニンテンドー4GTSフォーギャラクシートリプルスクリーンが発売されるじゃん」

「……ああ、そういえばそうだな」


 ニンテンドー4GTS。

 任天○から発売予定の超銀河的マルチスクリーンハードである。


 最先端デスクトップPC並みのCPU性能と、歴代最大の画面サイズが売り文句の次世代ゲーム機である。

 最早パソコンが出来ることで4GTSに出来ないことはないという化物スペックだ。


 ……まあ値段もそれ相応に高いんだけどね。


「そういえば二人で予約したんだっけ、楽しみだな」

「だねぇ、兄貴は大丈夫か? お金」

「はは、僕はもう高校生だぜ? 中学生おまえに買えるようなものが僕に買えないわけがないじゃないか」


 ふとテレビに目を向ける。

 丁度そのゲーム機のCMをやっていた。


 宇宙を背景に、子どもたちが4GTSを遊んでいるというCMである。

 『この面白さ、宇宙的!』がキャッチフレーズらしい、僕的には銀河的の方が良いと思う。


『ニンテンドー4GTS、4月30日発売! 定価4万2000円! 予約受付中!』


 なるほどなるほど、思い出した、4万2000円か。

 ふむふむ、はっはっは。


 ふざけんな。


「……マヨ、何でお前4万なんて大金持ってんの?」

「お年玉とか、母さんの仕事の手伝いとか、そういうのでこつこつと貯めたよ、……あ、親父の仕事の手伝いもしたなぁ」

「ふ、ふぅーん…………て、ちょっと待て、父さんの手伝いって何したの!?」


 父さんエロ小説家なんですけど!?

 小学生の娘にナニさせたのあのおっさん!?


 まさかマヨにあんなことやこんなことを!?

 お、お兄ちゃんそんなの許しませんからねっ!


 勿論録画しているんだろうな親父!


「別に飲み物運んだり、夜食作ってあげたりだけど……」

「お、おう……、そうか……」


 予想以上に普通な答えだった。

 普通すぎてボケようがないじゃないか。


 ……まあいいだろう。

 そんなことより、今はお金だ。


 以前貰った彩さんからの給料は、まだほぼ丸々残っているが、まだ全然足りない。


 ウチの両親は、ゲームをいくらしようが不干渉だが、ゲームを買ってくれることは無い。

 要するに自分で買ったものにはケチは付けないのだ。土地は買うくせにゲームは買ってくれないとかちょっと僕には理解できない。


「どうしよっかな……」

「何? 兄貴金無いの?」

「学生が4万も持ってる方がおかしいんだよ……」


 さて、どうしたものか。

 今からこんな大金を用意するとなると……やっぱバイトするしかないよなぁ……。


 まあ丁度春休みだし、タイミングが良いといえばいいのか。


「今日は茶児は稽古で白黒は補修、バイト探しには絶好の日だな」

「母さんと親父に許可は取らなくていいの?」

「いいんじゃね? あの二人だし、反対されることはないだろ」


 よし、そうと決まればカレーを食ったらバイト探しに行こうか。


 そう思いながら、僕はレトルトカレーの袋をお湯を張った鍋にぶちこむのであった。







*****






「え、あ、そのすいません無理ですごめんなさい」

「ひぃ!? こ、来ないで!」

「うわぁ!? お、女共を隠せ! 奴が来た!」

「え? バイト? ……すいません、客としてならまだしも、それは勘弁してください」

「あーごめんね、ウチ今女性店員しか募集してなくて……(嘘)」

「悪餓鬼を雇う店なんかねえよ」

「君が店員の店に、僕は通いたいと思えない、つまりはそういうことだよ」

「高校生はねー、学校にばれると面倒だから」

「ウチ深夜しか営業してないよ」

「ごめんなさい生理的に無理です」

「やめてー! パンツ取ろうとしないでー!」

「パンスト履いてれば捕られないって噂本当だったのね……」

「やだぁ! 私のパンツ食べないでよぉ!」

「変態! 変態! 変態!」


 以上、僕が40社ほど受けたバイトの面接(面接の約束の時点で言われた言葉もある)で言われた言葉の一部抜粋である。


 こいつはひでえや。

 まさか僕の噂がここまでひどいものになっているなんて流石に思ってなかったぜ。


「どうしよう」

『いや、それ後半何かおかしくねえ?』


 電話口から、茶児の冷静なツッコミが炸裂した。

 確かに後半ヤケになって店員さんのパンツをハントしてたけど、面接自体はわりとまじめに受けに行ったんだがな。


「もう発売まで3週間だよ、茶児ん所の道場でバイト募集してない? ほら、道場の掃除とか雑用とか、技の練習台とか」

『掃除も雑用も受け身も修行の内だからなぁ……それに素人に練習台とか危ない真似させられないよ』

「ぐぬぬ……」

『隣町なら働けるとこあるんじゃないか?』

「もう行ったけど駄目だった、思ったより噂が広がってるんだよなぁ」


 もう隣の県に行くしかないかなぁ……。

 でも交通費と手間を考えるとなぁ、とても効率的とは言えないんだよなぁ。


 茶児にお礼を言い、電話を切る。


 どうしたもんかなぁ……、とため息を吐きながらベッドに寝転がった。


(普段の行いって大事なんだなぁ……)


 これからは外でパンツパンツ叫ぶのは自重しよう……とか反省すらしないのがいけないんだろうなぁ……、僕は。


 これからもパンツへの信仰を自重したりなんかしないし、パンツを無差別に追い求めることをやめるつもりなんて無い。


「まあその結果がこの村八分ですよ畜生」


 途方にくれて天井を眺めてると、いきなり部屋の扉が勢いよく開いた。

 びっくりしながらそちらを見ると、そこには何やら大きな紙袋を抱えて立つマヨの姿があった。


「……びっくりしたなぁ、ノックしろよ、マヨ」

「次からは気をつける」

「この注意何回目だったっけなぁ……まあいいや、何の用?」

「母さんが兄貴にこれ渡して来いってさ」


 そう言って、紙袋を差し出してくるマヨ。

 僕はベッドから立ち上がり、それを受け取った。


「確かに渡したからねー」

「うい、センキュな」


 用事はそれだけだったようで、マヨは足早に僕の部屋を出て自分の部屋へと帰っていった。

 自分で渡せばいいのに、なして母さんはマヨに託したんだろ、謎だ。


(まあ、あの母さんの行動理念を理解するなんて不可能だし、どうせどうでもいい理由なんだろう)


 さて中身はっと……。

 メモと、封筒と、服?


 まずはメモから読んでみようか、何々……『必要になるだろうから買っといたよ』……?


「またいつもの予言か……封筒には……履歴書か、思ったより普通じゃん」


 一枚しか入ってないが、僕の財布を考えると正直ありがたかった。

 履歴書って意外と金かかるんだよね。履歴書も見ずに門前払いのパターンがほとんどだったけど。


 となると最後の服はリクルートスーツかな?


 なんて。


 僕の淡い常識的な心は見事に打ち砕かれることになった。


「め――」


 黒を基調にしたふわふわのドレス、白いふりふりの付いたエプロン。

 其れは男のロマン、其れは男の夢、そう、その正体は――。


「メイド服……だと……!?」


 …………。

 ……………………。


 ……ああ、なるほど、その手があったか。

 何処までも先を読んでいる母だ、わが母ながら気持ち悪い。


 適当に履歴書を書き埋め、机の中に放置しておいた化粧道具を取り出す。


 プライドとか、尊厳とか男の意地とか。

 そんなもの投げ捨ててでも、欲しいゲームが僕にはあるのだ。








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