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新聞とはパンツに似ている

新キャラ登場

「ネタが無い……」


 女子高生――春色文香はるいろあやかは、器用に紙パックのジュースを口だけで咥えながら、両手で頭を抱えて呟いた。


 目の前には、300文字の原稿用紙。

 無邪気なショタっ子の心のように真っ白である。


 もうちょっと心汚れてるほうがおねーさん好みだよー?

 と心の中で冗談を言ってみるも、勿論原稿用紙は真っ白のままである。


「文香、大丈夫? さっきから何してんの?」

「うー……新聞部の原稿ですよぉ、来週までに仕上げなきゃいけないんですよ……」


 一緒に昼ごはんを食べていた友達が、心配から声をかけてきた。

 そんなに自分は追い込まれているように見えているのだろうか。いや、実際相当追い込まれているけど。


「何かネタ無いですかぁ? 何でもいいですよ?」

「んないきなり言われても……」

「ですよねぇ……」


 はぁ……っと溜め息をつきながら、机に突っ伏す。

 机のひんやりとした感触が、心地よい。


「こら、行儀悪いわよ」

「うー……」


 渋々顔を上げる。

 目の前の友人が、突然爆発したらネタになるのに……。


「今変なこと考えなかった?」

「いえ、別に? ゴミ捨ててくるね」


 勘の鋭い友人だ。

 すでに空になった紙パックを手に持って、椅子から立ち上がる。


 昼休みとだけあって教室内は騒々しい。

 くー……誰か騒ぎに乗じて何かやらかさないかなー……。

 リア充とか爆発しないかなー、いっそのことでっち上げでも――。


(やばい、発想がわりと危険な域に達してる……)


 もっとこう、平和な感じの記事を――。


「ん?」


 ふと、教室の隅を見ると、そこには隔離されているように置かれた3つの席。

 確か、このクラス――どころか学校中――否、町中からハブられているという、斉藤白黒、古谷茶児、赤坂……なんだっけ、の最悪の男子三人組。


 高1のころ転校してこっち来てから、漠然と怖い人たちと聞かされていたし、色々事件も起こしていたから近づけなかった三人組だ。

 確か、つい先日も教室をぶち抜くような喧嘩や、テロリストとのバトルもしたと言われる、異常者軍団。


(これは――もしかしたらネタになるかも!)


 そうよ、よく考えたらこれ以上ないくらいのネタの宝庫じゃないか。

 なんで今まで気付かなかったのだろうか、自分でも驚きだ。


(よし、早速色々調べてみよう、まずは友達に聞き込みを……)


 してみた。


 その時の反応をまとめたものが、こちらです。


「よくわからないけど怖い」

「変態」

「リーダーっぽいやつが変態」

「パンツ食われた」

「目が合うと孕まされるぞ」

「マッチョ怖いです」

「訳分からないということだけは分かる」

「白黒と茶児はまだマシ、会話できるレベル。もう一人は駄目」


 などなど。

 普通の人ならこの時点で関わりを持ちたく無くなる筈だが――ていうか春色文香も平常時なら自身の提案を却下していたところだが、今は緊急事態。


 物書きという人種は締め切りという悪魔に追い詰められたとき、恐怖心とか猜疑心とか吹き飛んで好奇心と使命感のみが残るのだ。


(んんー、有益な情報は、斉藤白黒、古谷茶児の二人はまだ会話できるってところですねぇ、赤坂なんちゃら君には近づかないほうが無難……ですかね)


 けど、無難な道が正解ルートとは限らない。

 むしろ、無難で安全なルートを通って書いた記事を誰が面白がるというのだ。


 それに、この赤坂なんちゃら君は、謎が多い。

 分かっているのは、女装が上手いこと、パンツが主食なこと、頭が良くて運動もできることくらいだ。


 ていうか、クラス全員に訊いても名前が分からなかったのはどう考えてもおかしい、名簿を見ても、何故か擦れて消えてるし……。


「くっくっく……記者魂が燃えるじゃないですか。てってーてきに調べ上げて見せましょう!」


 春色文香17歳。

 この時の決断が、自分の将来に大きく関わってくることを今はまだ知る由もないのであった……。






*****






「……で、『渡り歩く魔剣』は今何処に?」

「駄目だ、今日一日探知してたけど、一向に見つからねえ、まだ宿主は見つけてないっぽいな」


 夕方、僕たち3人以外誰もいない教室で、話し合いタイム。

 議題は『渡り歩く魔剣』について、珍しくシリアスな議題だ。


「『渡り歩く魔剣』は宿主がいないと、その、魔力を探知できないのか?」

「まあ、ほぼ不可能なレベルまで魔力が落ちるからな、白黒の探知魔法じゃ余程近寄らないと難しいと思う」


 逆に言えば、宿主を見つけてない状態で遭遇できれば、ほぼ確実に撃破できるわけだが……まあ、難しいだろうな。


「ふぅん……じゃあ俺が町中走り回って見つけ次第ぶっ壊すってのはどうだ?」

「この町にいるっていう確証が無い以上、有効な手とは言えないな。それに、『渡り歩く魔剣』をぶっ壊すってのは不可能だ」

「不可能? この俺の筋肉を持ってしてもか?」


 ムキッと上腕二頭筋を膨らます茶児。

 制服が張り裂けそうだ。というか、本気を出せば張り裂けるらしい。


「うん、信じがたいだろうけど、大体の『魔剣』ってのは『壊せない』んだ」

「……はぁ?」

「具体的に言うと、『魔剣』を壊せるのは、その『魔剣』と対になる『聖剣』だけなのさ。それ以外の『聖剣』でも封印自体は可能だけどな」

「封印……また異世界チックな単語が出てきたな」

「『渡り歩く魔剣』と対になる『聖剣』を僕たちが持って無い以上、封印を狙うことになる。『聖剣』自体は、白黒が持ってるしな」


 な、っと白黒に視線を向けると、白黒は無言で頷いた。


「まあ、『聖剣』を持っているのがこいつしかいないから、単独で『魔剣』と出会ったら急いで白黒を呼ぶことをオススメする」

「了解。まあにわかには信じがたいから、とりあえず一発本当に壊れないか確認させてもらうけどな」


 茶児が指をごきごきと鳴らしながら言う。

 自分に壊せないものがあるかもしれないというのが、筋肉達磨的に納得いかないのだろうか。


「……ところでさ」

「ん? どうした白黒、なんか分かったのか?」

「いや、そうじゃなくて、いちいち『渡り歩く魔剣』って言いにくくない? なんかあだ名付けようぜ」

「む、確かに」


 『渡り歩く魔剣』、『渡り歩く魔剣』、言うのにも入力するのにもめんどくさい名前だ。


 白黒にしては珍しく、良い意見だ。今日は珍しいことが多いな。


「ようし、じゃあ一人一つずつ案出しな」

「えー、俺そういうの苦手なんだけど」


 んー、何がいいかなぁ……。

 ワタポン……わたある……うーん、妙に可愛げがあるから駄目だな……。


「はい!」

「いや別に挙手しなくてもどんどん意見を言っちゃって結構なんだけど……まあいいや、なんか浮かんだか? 白黒」

「『巡り廻る輪廻の剣』!」

「……長くなってるから却下」


 格好いいからそれでいいや、と言いそうになった……危ない危ない。


「回りすぎだろ……その名前だと、……単純に『歩く剣』でいいんじゃないか?」

「えー? 格好悪くね?」

「お前の考えたのも大概だからな?」

「えー?」

「え?」

「え?」


 …………。


「……ていうか、格好よさはいらねえだろ、要するに呼びやすくて、分かり易ければいいんだから」

「そ、そうだな、もう『歩く剣』でいいと思うぞ僕は」

「えー、まあ、二人が良いって言うなら俺は文句ないけど……」


 決定。


 ん? 僕の案?

 『漆黒の剣』とかしか浮かばなかったし別にええやろ。


 ……ところで、何の話してたっけ……なんかわりと真面目な雰囲気だった記憶があるんだけど……。


 うーん……。


 まあいいや。

 ちらりと時計を見る。


 もう5時近いなー……。


「あ、やべ、もうこんな時間か、今日は稽古の日だったわ、わり、先帰る」

「おう、頑張れよ茶児」

「ばいびー」


 急いで荷物を纏め、茶児は教室を出て行った。


 まだ稽古続けてたんだな、アイツ。

 これ以上強くなってどうするつもりなんだろう。


「おっと、オレも帰るわ、見たいアニメがあるんだった」

「おー、僕はもうちょいゆっくりしてから帰るわ」


 言って、白黒も教室から出て行った。


 あとには静寂のみが残る。


「…………」


 ……あー、そういえば、異世界に召喚された日も、こんな風に一人で黄昏てたっけか。


 エリーゼ姫、元気かなぁ。


「…………」


 もうほぼ沈み掛けの夕焼けを見ながら、異世界での日々を思い返そうとした、矢先。


「あ、話し終わりました?」


 と、突然声をかけられた。


 いや、きっと気のせいだろう。

 この世界で僕に話しかける人物なんて、数人しかいない。

 ましてや学校なら茶児と白黒しかいないはずだ。


 キョロキョロと辺りを見回すも、教室内には僕と、僕に話しかけた(かもしれない)見知らぬ女子しかいない。


「あの、聞いてます?」

「えっと……もしかして、僕に話しかけてる?」

「他に誰がいるっていうんですか、この教室に」


 それはそうだ。

 もし、僕じゃない誰かに話しかけているとしたら、このシチュエーションなら幽霊くらいなもんだ。


 さて、どうしようかこの状況。

 まず、相手の意図が見えない。

 見覚えが無い女子だし、とりあえず自己紹介してもらうか、いや、その場合僕から自己紹介した方が良いのか。

 それとも、僕と話してると、変な噂が流れるかもしれないと忠告してあげるべきか。


 いや。

 待て、待て僕。


 そんな些細なことよりも、そんな微細なことよりも。


 もっと大事なことがあるだろう。

 一番に言うべきことがあるだろう。


 ましてや相手は美少女だ、黒髪ショートの活発系っぽい美少女だ。

 いや、待て、なんか手にペンとメモ帳持ってるぞ、もしかして文学系美少女か?


 や、そこについてはどうでもいいか。


 とにかく重要なのは、僕の目の前には美少女がいて、僕が誇り高きパンツァーだということだ。


 つまり――、


「色々言いたいことはあるが――これだけは言わせてもらう」

「はい?」

「パンツください」

「嫌です」


 …………………………。


 笑顔で断られた。

 初めて遭遇するパターンだ。


「ならば、力ずくで……! っ……!?」


 相手に視認されない程度の速度でスカートを捲り、パンツを掠め取ろうとした、が……!


「スパッツを……履いている……だと……!?」

「おお……よく分かりましたね……流石は自称パンツマイスターなだけある……」

「貴様……まさか……スパッツァーの一員か!?」

「いや、意味わかりませんし……」


 ふむ? これまでの反応を見る限り、彼女は普通の一般人だろう。

 じゃあいよいよ分からない、僕という人物は、一般的な生き方をしていくうえで最も関わり合いたくないであろう人物だと自負しているというのに。


「しかし、貴方はどんな女子でも容赦なくパンツを奪い、食すと聞いていたのですが、何故スパッツ程度でそれを諦めるのです?」

「いやだって、パンツ脱がせるなら兎も角、スパッツ脱がせるとか変態の所業もいいとこじゃないか」

「なんという超理論、もうすでに原稿用紙が埋まりそうな程ネタの宝庫ですねこの人」


 やはり私の眼に狂いはありませんでした、と彼女は笑う。


「で」

「はい?」

「一体、何の用だよ、ていうか君誰だよ」

「あの……同じクラスなんですけど……」

「え、うっそ」


 嘘だろ、僕はこんな美少女がクラスに居たというのに気付かなかったというのか、なんてこった、僕、人生最大から四番目くらいの不覚。


「ま、まあ予期してた事態です……自己紹介しておきましょう、私は春色文香。新聞部です」

「新聞部……ってことは」

「はい、今日は貴方を……」


 彼女――春色文香は、手でカメラの形を作り、こちらに向けて、言った。


「取材しに来ました」


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