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急展開とはパンツに似ている

「998円……だと……?」


 ゲームショップを出て、スマホの充電器でも買おうかと入ったコンビニで、白黒は慄きつつそう呟いた。


 現在の所持金は832円、微妙に足りない。

 これではスマホの充電が出来ないじゃないか……!


(くっ……さっきのゲームショップで『ドキッ!? 妹だらけの新生活!』のフィギュア付き初回限定版に釣られなければ……)


 まあ、買ってしまったものはしょうがない。

 スマホも、そろそろ帰れそうということを親友二人にメールでも送ろうかと思っただけだし。


 なにも買わずにコンビニを出ることに抵抗の無い男なので、白黒は店員さんの「ありがとうございましたー」という声を背に、コンビニの自動ドアを抜け、まだ肌寒い外の気温に触れたところで――


 ――酷く懐かしい、気配を感じた。


 チリチリと肌が焼けるような感触と、自分の中に眠る魔力がざわざわと蠢く。

 異世界で、幾度となく相対した、この感じ。


気配の方向を見ると、魔力を持つ者にしか見えない、黒い柱が、ビルの隙間を縫って、白黒の視界に入った。


 間違いなく、魔力。

 それも、撒き散らすような、黒い、黒い、『悪』の魔力。


「っ…………はっ」


 少しずつ、少しずつ。


「は、ははははは」


 白黒の口角は上がる。


 やっと。


 やっと来たか、と。


 笑う。


 何故。

 何故この世界で自分たち以外に魔力を使う者がいるのか。


 そんな、真っ先に疑問に思うであろうことも考えず。

 後先も、何も考えず。


 白黒は立ち上がる柱の元へ、全速力で駆けて行った。







*****






 斉藤白黒は馬鹿だ。


 学校の成績は悪いし、クイズやパズルも苦手。

 深く考えるということが苦手なのだ。


 口より先に手足が出る典型的な馬鹿。

 後先考えない、自分の欲求に素直な馬鹿なのだ。


 まるで漫画に出てくる熱血系主人公のように、

まるでアニメに出てくる直情系主人公のように、


 真っ直ぐに、生きている。


 だからこそ、白黒は勇者足り得たのだろう。


 名誉も、名声も、風評すら考慮せず、ただ愚鈍に、悪である魔王に立ち向かった、勇者白黒と、そのお供である道化師パンツマン英雄譚ものがたりは、


 ――異世界で教科書に載るほどの、有名著書である。


「――ようやく見ィつけた」


 距離的には、大した距離ではなかったかもしれない。

 それでも、白黒は、無意識に『ようやく』という、言葉を使っていた。


 こっちに戻ってきて、数週間。

 毎日が異常だった異世界編と比べて、平和だった毎日は、確実に白黒を焦らしていたのだ。


(さて……)


 ここでようやく、白黒は思考を巡らす。


 黒い魔力=悪役、という方程式は絶対的なので、何かされる前にぶちのめしたいところだが、その敵の見た目は、どうみても普通の一般サラリーマン。


 目は虚ろで、よだれを垂らし、明らかに正気じゃない様子で、目の前のビルを見つめている。


(そして極めつけに……右手に長剣……周囲には人も多いし、どう仕掛けるか)


 むしろ最大の問題点は、人が周りに多いことかもしれない。

 街中、しかも半都会みたいなところだ、もうすでに対象を指差し、携帯電話(おそらくお相手は警察)で何か話している人もいる。


 まあ、どう見ても正常じゃない人間が長剣持ってブツブツうわごとを呟いていたら当然の対応だろう。


 さて、どうしたもんか。

 ここでドンパチして、警察に事情聴取を受けるのは勘弁願いたい。

 さっきは直情的で何も考えないといったが、考えなくても分かることは流石に理解できるのだ。


 しかし、まあとりあえず殴ってから考えるかとさっさと思考放棄した白黒に構わず、おもむろに悪役が剣を振り上げた。


(あれ……?)


 そいつの動向を見逃さないようにしていた白黒の眼には、

 必然的に、白黒の眼に振りあげた剣が映る。

 そこで、やっと気付いた。


(あの――剣は――黒い、剣は――!)


 剣が、軌跡を描いて、振り下ろされる。


 それだけで、何十階立てか分からない程、巨大なビルが、



 真っ二つに、切り裂かれた。



「はっははあああははあははは! あはははははは! あははあ!」


 笑い声と共に、さらに斬撃は続く。

 巨大なビルは、何度も、何度も、切り裂かれていき、当然、大量の破片を撒き散らしながら倒壊を始めた。


 遠巻きながらも彼を眺めていた一般人ギャラリーが、悲鳴をあげ、わけもわからず逃げ出して行く。

 少しでも遠くへ、生存本能に従って、不審者の凶刃に巻き込まれないように、倒壊に巻き込まれないように、走り出す。


 そんな中、流れに逆らって、白黒はにやりと笑い、一目散に走りだした。


「人払いしてくれるたぁ……っ! 気が効いてるじゃねえか!」


 とは言っても、一時的な人払いだろう。

 その内警察とか報道陣とかが来ても、おかしくない。


 なら、やるべきことは一つ。


 短 期 決 戦 !


「ジカード・ゴル・バリ……!」

「!?」


 詠唱を始めると同時に、やつは白黒に気が付いた。

 虚ろな目を歪ませると、持っている剣から・・・・・・・・機械的な女性の叫び声がした!


「貴様っ! 勇者シロクロ!?」

「――やっぱお前か……上級雷系魔法……」


 やつの反応よりも早く、詠唱が完了し、右手が高電圧の雷に包まれた。


 それを全力で――剣に向かって叩きつける!


「――『イナズマブレード』!」

「がぁっ!?」


 雷を纏った右手は、狙いを外しサラリーマンの腹部を貫いた。

 男の腹部は無残にも穴が開き、身体中に雷撃が流れその身は黒く焦げる。


 しかし、その手にはもう何も握られてはいない。


「なっ!?」

「危ない危ない……」


 声が聞こえた方を振り向くと、黒い長剣は、男の手を離れ、宙に浮いてこちらを見ていた。


 いや、剣には目など存在しないから、見ている、という表現は正しいかは定かではないが。


「まさか魔王を打倒し、こっちの世界に戻ってきているとはね……驚きましたわ」

「こっちも驚きだよ、どうやってこっちの世界に来たんだ?」

「まあ、問答はまた今度にしましょうよ……さらば!」

「逃がすか……っ」


 空へと飛び立とうとする剣を追いかけようと、足に力を込めようとするも、急に自身を覆う影に気付き、上を向いた。


「あ」


 倒壊するビルの破片が、今まさに白黒の頭上へと降り注がんとしているところだった。

 このまま、何もしなければ即死はまのがれない程の物量だ。


「……あーくそ、考えるのは後だ、タンフェス・イーブ・ムーブ……」


 詠唱しながら、走り出す。

 助かるには、数秒足りない、なら、数秒止めればいい。


「最上級時空間干渉魔法――



 ――時よ、止まれ」






*****






「『渡り歩く魔剣』?」

「ああ」


 茶児がそう訊き返し、僕は頷いた。


「これも長い旅の中で出会った魔剣の一つなんだけどさ、これまた珍しい、意思がある魔剣で、人間の『悪意』とか『嫉妬心』とかの負の心を求めて『渡り歩く』魔剣なんだ」

「んで、見つけた人間に取り憑いて操る……っと、嫌ーな剣だな」

「結局、壊せず仕舞いでこっちに戻ってきちゃったんだよな……、まさかこんなことになるとは……」

「さっきの白黒から電話で聴いた話だと……こっちの世界に来てんだろ? まさか世界を『渡り歩いた』とでも言うのかよ」

「それが今のところ……一番有力な説、かな」


 でももし、もしも異世界へと『渡り歩く』方法があるのなら。


 もう一度――。


(いや、何考えてんだ僕は、もう戻らないって決めたじゃないか)


 そこで思考を打ち切り、時計を見る。


 そろそろ……かな。


 ガチャリ、と病室の扉が開いた。

 入ってきたのは、白と黒が織り交ざった服装の、よく見知った顔。


「久しぶりー」

「久しぶり、白黒」

「おーう、久しぶり。怪我したんなら早く連絡寄越せよ」

「スマホの充電切らしてたのはてめーだろうが」

「ふひひサーセン」


「さて、と、久しぶりに3人揃った」

 と、僕が言うと、


「やるべきことは、一つだな」

と、茶児が言う。


「ああ……せーので言おうぜ」

 と、白黒。


ようし、せーの!


「モン○ンやるぞ!」

「ス○ブラだ!」

「マリオ○ーティだな!」


 …………

 ……………………。


 ……揃ってねー。


突然のシリアス風味

でも白黒とパンツマンは一回世界救ったので余裕ぶってます。

茶児はガチで誰が来ても大抵余裕なので余裕ぶってます。

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