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物語の始まりとはパンツに似ている

今、冒険が始まる。

 世界を救う存在とは常に超人や人外だと相場が決まっている。


 世界を壊す存在とは常に悪人や狂人だと相場が決まっている。


 だが――世界を救う存在や、世界を壊す存在の拠り所となる存在は――


――いつだってどこにでもいる一般人だ。






*****






 パンツとは哲学に似ている。

 人によって、千差万別に変化をし、そこに答えは無い。


 水玉、縞、レース、様々な趣味趣向があるも、真なる柄はなく、また、偽りの柄も無い。


 それはまさに哲学と同じではないかと、僕は思う。


 たかがパンツ、されどパンツ。

 勿論男の下着になど興味は無い、僕が言っているのは女性のパンティーだ。


 僕には取り立てて、好きなパンツは無いが、それは僕に確固たる信念が無いという哲学的なアレな感じなんじゃないだろうか。


 そんな真理にも近い事柄について思考を巡らせていると、僕以外誰もいない教室の扉が勢いよく開いた。


「た、大変だ!」


 息を切らせて教室に入ってきた男は、僕の大親友である斉藤白黒さいとうしろくろ

 斉藤という名字に死ぬほど似合わない爽やかな面と、今どき珍しくもないキラキラネームの持ち主である。


「何が大変なんだ? 白黒、もしかして……」

「ああ……恐れていた事態が……起こってしまった」


 目を見開いて、白黒を見る。

 奴の瞳は、冗談を語る時のそれではなく、かつての【修学旅行女子風呂爆発事件】の時の如く、本気の瞳をしていた。


「ま、まさか、今、こんな時間にも関わらず、誰一人生徒が見えないのは……!」

「……そのまさかだ」


 彼の口から、言葉が紡がれる。


 それは、僕が今、最も聞きたくない言葉であり、そして、受け入れなければいけない、最悪の事実だった。


「――――今日、日曜日だった」


 僕は泣いた。白黒も泣いた。

 声をあげて、無様ったらしく、年頃の男子高校生二人は泣いた。


 現在の時刻は4時少し過ぎ。


 下校の時間だった。


 絶望。

 まさに絶望だ。これを絶望と呼ばずして何を絶望と呼ぶ。


 高校2年生の日曜日というのは概算で52日しかないのに、その一つを、学校で、誰一人としていない教室で、始まらない授業を待つという空虚なことに使ってしまったというのか。


 何たる無様。


 何たる無意味。


「……とりあえず、帰るか」

「……おう」


 貴重な青春の1ページを無駄にしてしまった僕たちは、涙を流しながら、帰路に着くことにした。


 今度からカレンダーはちゃんと見よう。

 そう胸に誓い、教室から出ようとした、


 次の瞬間。



「――お待ちしておりました」



 そこ・・には、森が広がっていた。


 黒く、暗い木々が生い茂り、不気味なカラスが飛びまわっている。

 日の光など一部も刺さない、闇の森。


 背後にある教室の扉から漏れる光と、眼前に悠々と待ち構えていた馬車についた松明だけが、この空間を照らしていた。


 ――まるで地獄のようだ。

 僕はそう思った。


 そして、特筆すべきは、というより、まず一番に注目すべきは、その森に似合わない、明らかな異物・・


「おめでとうございます、貴方・・は、『選ばれた』」


 ぱち、ぱち、ぱち、と、渇いた拍手を奏でるのは、目の前にいる老婆だ。

 身長は100cmも無いだろう小柄に、今にも地面に突き刺さりそうなほど長い鼻を持つ老婆。


 それだけでも異色なのに、並みのボディービルダーより盛られた筋肉。

 後ろに控える豪華な装飾の施された馬車も、その異様さを醸し出すアクセントとして、僕たちの恐怖を煽る。


「さあ、では参りましょうか」


 そう言って、筋肉鼻長老婆は馬車の御者台に乗り込む。


 僕は。


「――何処に?」


 僕は、やっとのことで、口を開けた。


 他に聞くことが沢山あるのに、沢山あった筈なのに、そんな、重要とは言えないことを、訊いた。


 老婆は、不気味な笑顔を浮かべ、言う。


「【異世界】、『ファンタニウム』でございます」




*****





「お、おう……それで、どうなったんだ?」


 次の日。

昨日とは打って変わって賑やかな教室で、僕のもう一人の大親友である古谷茶児ふるやちゃこは眼鏡の奥で目を丸くしながら聞いてきた。


「ああ……あの後は……大変だったな」

「全くだ……」


 僕と白黒はお互いに目を合わせ、頷きあう。


「な、何があったんだ?」

「その老婆に無理矢理馬車に入れられてな? 気付いたら異世界の森の中でさ、よくあるチート特典とか特殊能力とかも無しでふざけんなと思ったね」

「は?」

「そうそう、そしたらなんやかんやあって魔王を倒すハメになったんだ」

「ちょ」

「2年以上の冒険の末……魔王を倒して終わりかと思ったら、僕たちを異世界へ放り込んだ原因の『次元老婆』……さっき言ったマッチョ老婆と最後戦うことになってな……あいつは強かったが、僕たちは勝った。そして戻ってくることが出来たんだ」

「あのなぁ……」


 茶児は物凄く冷めた眼で、溜め息を吐きながら僕等を見渡す。


「作り話としても酷いと思うぞ。それに騙されるアホなんていねえよ……そもそも日曜日から一日しか経ってねえよ」

「その辺説明すると長くなるからご都合展開的な何かがあったと思ってくれ」

「余計に信憑性が薄れた!?」


 そんな否定されても、僕たちの冒険は間違いなく有ったんだから仕方が無い。


 あー……エリーゼ姫、元気でやってるかなぁ……。

もうあの時の約束は果たせないけど、僕はこっちの世界で生きていくと決めたんだ。


 後悔は、無い。


「ちょっと待てよ! なんでそんなエピローグ的なノリなの!?」

「なぁ……異世界での旅を通して、オレたちは成長できたのかな?」

「さぁな……それは、僕たちが決めることじゃあない、これから、決まっていくものなのサ……」

「無視かよ!」


 茶児のツッコミが教室に響く中、始業のベルが鳴った。


 冒険の旅は終わった。

 あの世界での、仲間との出会いと別れ、そして、育んだ思い出。

 それは僕の心の中に深く刻みつけてある。


 エリーゼ姫や、アインハルト隊長、黒騎士ソラ……あいつらとの絆は、まだ断ち切れちゃいない。

 永遠に残っている。永劫、切れない。

 ポケットに入っている赤いペンダントを握りしめ、僕は誓う。


 決して忘れない、と。




 ~第1章 異世界冒険編・完~


彼らの長い戦いが、ついに終わりを迎えました。

沢山のキャラクター達が志半ばに倒れていくのを書くのは、

途中辛くなることもありました。あらすじやタグにシリアスは

少ないという旨を書いたにも関わらず、結果としてこんなにも

作者の心すら痛い程シリアスかつ残酷な展開になるとは、執筆を

始めたころは思いもしませんでした。

さて、終わった物語のことをいつまでも語るわけにはいきません。

次回からは第2章、帰還後の日常編です。

2章は1章とはうってかわってコメディ一辺倒になる予定ですので、

読者の腹筋にダメージを与えられるように頑張りたいと思います。

それでは改めて、第1章異世界冒険編を最後まで読んでいただき、

本当にありがとうございました!

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