かたるもがな
キーンコーンカーンコーン
朝礼の始まる時間になりそれを知らせるチャイムが鳴る。この時間になると教室には生徒がそろっておりガヤガヤ騒いでいる。チャイムは時間を知らせるものだが今のこのクラスには関係がない。そもそも学生にとってチャイムを守る理由としては先生に怒られない為ということが大きいだろう。つまりチャイムとは時間を知らせる為ではなく先生が来る合図と言えばいい。勿論例外もある。反抗意識の高い生徒は先生に怒られる事をなんとも思わず授業をボイコットするだろう。だがこいつらはこの例外にも当てはまらない。例外ではなく論外だ。なぜなら、僕が先ほど語っていた概念が根本的に当てはまらない。こいつらは先生に怒られるという事はありえないからだ。怒られない理由それは…
ガララ
「こら!チャイムが鳴っているぞ、毎朝毎朝お前は反省せんのか!」
「…………」
「お前だ!お前の事を言ってるんだ!早く立たんか!」
ギギィー
「はい」
僕の存在である。
「解ってるならどうしてすぐに返事しなかった!先生を舐めてるのか!」
先生は教室に入り僕に近づいてくる。
「すみません」
僕は謝った。例えこの状況で周りが五月蝿くて聞こえませんでしたと答えても、ならなぜ静かにさせなかったと叱られるだけだ。つまり何を言おうが先生は僕を叱る理由を見つけて怒鳴るだけだ。ならば面倒な反抗をするよりも謝罪して無駄な時間を使わない方が賢明だ。
「おい…謝り方が違うだろ?」
「………」
「土下座だよ土下座…謝る時は土下座しろって言ってんだろ」
周りの連中がクスクスと笑っている。
僕は何も言わず床に座り土下座をした。
「いつもやってるだろう!しっかり床に頭をつけろ!」
そう言って先生は僕の頭を強く踏みつける。僕は痛みを堪えながらも謝る事しかしなかった。
周りが静かになっていき先生も満足したのか僕の頭を踏みつけるのをやめた。
「出欠を取るぞー秋山」
「はい」
「井上ー」
「はーい」
先生が出欠を取り始める。僕の名前は蟻坂…つまり僕の名前はこのクラスではないに等しいらしい。現に先生も同級生も暫く僕の名前を呼んではいないだろう。
「高村」
「…」
同級生達がまたクスクスと笑う。
高村からの返事がない…それもそのはずだ高村は1ヶ月前から学校にはいない、理由は至って簡単であり語る必要がない…高村の机を見れば物語っている。高村の机も僕と変わらず黒く染まっているからだ。唯一違う点と言えば机の上に花が飾られている位だ。花に興味のない僕は種類も花言葉も知らないが、明らかに悪意しか感じない。高村が最後に来たのはこの机に飾られている花を見た日が最後だ。あの日は高村は誰からもいじめられなかった…つまりは誰からも認識されなかった…。結果を言えば死んではいないが、学校では死んでいた。これを聞けばいじめられなくなって良かったじゃないかと考える奴もいるだろう…しかしよく考えて欲しい。学校に来ているのに来ている事を認識されない…つまりそれは生きているのに生きていると認識されていないのだ。生きていると認識されなければ死んだ事と何も変わらない。そんな学園生活を…いやそんな人生をおくりたいと思うだろうか。僕は思わない…言うなれば高村は、いじめの被害者ではなく、いじめの犠牲者と言えるだろう。そして
「おい、お前」
隣の席から声が聞こえた。
「お前はいついなくなるんだ」
また僕も………