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魔王の血を引く者達  作者: 前田炎蔵
第一章 魔王の心臓を持つ姫 
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第9話 運命の出会い

「えっ?嘘・・・でしょ」

包帯が取れて現れたのは、人の腕ではなく、

肘から上は人と変わらないのに、肘から先は獣のような毛むくじゃらで、

どんな物でも切り裂き、突き刺す事が出来るであろう研ぎ澄まされた鋭い爪があった。


「コイツ、バケモノじゃないか。なんなんだその手は?これは夢か?夢だろ

 最近、ずっと遠征だからな。もう、1年近く家に帰ってないから疲れているのか」


『ガキッ』


人外の手でスピアを握り潰す。


「ひっ!!」

その行動に、腰が抜けて座り込む兵士。

もう、当分は戦線に戻る事は出来ないだろう、と

何か独り言を、呟いている兵士の姿を見て、ナタリーは思った。

少年の右手を見てからか、誰も少年に攻撃を行おうとする者はいなかった。


「おい、お前が新入りか?」

少年はナタリーの横に立ち、アルベルトに視線を向けたまま話しかける。


「はぁ・・・、嘘でしょ?信じたくないけど、あなたと同じ目に合ったのは間違いないわ」

自分が深淵の魔術師に、魔王の一部を与えられ、それは心臓だった。

それが事実か、嘘かは、胸を切り開くしか知る術がないから、

ナタリー自身にも、信憑性はなかった。

もしかすると、壮大なドッキリを仕掛けられている可能性もあるとも、思っていた。

でも、目の前の少年の腕は、作り物には見えなかった。

また、作り物だったとして、兵士達の突きに真っ向から挑めるわけが無い。


「そうか、なら、お前は俺達の仲間だな」


「ちょ・・・っと、勝手に仲間だって決め付けないでくれる!?」


「なら、ここでこの連中と、同じように始末する」


{勝手な事をするなと釘刺されているのを忘れたのか}

その声は包帯と一緒に落ちた宝玉から響いた。


「ふん、俺は面倒な事が嫌いなんだ。仲間じゃないって言うのなら敵だろ」


{また、そんな極端な・・・}


「ヘルムートが黙っていれば、良いだけだろうが」


{はぁ、で、今まで結局、何度もバレてたのは何故だ?}


「ヘルムートが、チクッたからだろう」


{馬鹿だろ、お前}


「はっ!?ふざけんな。馬鹿はこの女だろ?」


「はぁ、何言っているの?頭おかしいのはアンタでしょ」

宝玉からいきなり声が聞こえて、唖然としていたナタリーだったが、

少年の話す内容と、視線で自分の事だと咄嗟に判断して、良くわからないまま抗議する。

帝国軍一同は、宝玉から声が聞こえた事に驚いて、身構えていた。


「決めた、今、決めた。この女ここで殺す」


{じゃあ、あれだな。お前は夢の最強になる前に、あの人に殺されるな}


「ヘルムート、夢じゃねーって言ってるだろ?最強になるんだ俺は!!!!」


{だったら、なおさら、その子に手を出せば最強にはなれない}


地面をダンッと、蹴る少年。

血走った目で、ナタリーを見る。

ナタリーは、蛇に睨まれた蛙のように、身動きが取れない。


「チッ」


「はぁ!?あんた、今、私に舌打ちしたわね。確かにあんたの方が強いのは認めるわ。

 でも、だからって、舌打ちされなければいけない理由にはならな・・・」


「お前、あのおっさんに、勝てなかったんだろ?」


「えっ?」

少年の話題がいきなり変わったので、一瞬何を言ったのか、把握するのに時間が掛かった。

しかし、彼の視線が自分に向いていない事に気付いて、その視線先を見ると

そこには呆気に取られたアルベルトが立っていた。


もしかすると、先ほどのナタリーのように、蛇に睨まれた蛙になってしまっているのか、

アルベルトは汗を拭う事すら、出来ずに少年見ていた。


「そう・・・ね、他の兵士の人の動きは見えたのだけど、アルベルトの攻撃は見えなかった。

 そして、彼の鎧に短剣を突き刺したのだけど、傷一つ付けられなかったわ」


「そうか、そういう事か。お前・・・もしかして」


「何よ?」


「死んだままじゃねーか」


「・・・・・・・・・えっ!?」


「だったら、このおっさんは倒せないだろうな」


「私が!?私は死んでいない!!ここに生きている。私は!?」


「お前は死んだままだ。本当の力を見せてやる」

そう言うと、右手をギュッと一度だけ握って構える。


「おい!!盾を持って来い!!!」

アルベルトの声を聞いた兵士の一人が、

王座の後ろに、立て掛けていた盾を両手に持って、ふら付きながら持ってくる。

アルベルトは、それを左手だけで軽々と持ち上げ、右手にボーンスピアを構える。


「ワシの鎧には鉄ではなく、鋼板を厚く重ねた上に、精霊の加護を授かっておるので、

 そこらの攻撃では、傷一つも付ける事も出来んわ。さらにこの盾も同様に強固である。

 弱点と言えば、この鎧の重さは、一般の鎧に比べると2倍近く違うので、

普通の兵士では、着る事が出来ない所だけか」

豪快に笑ってみせるアルベルト。


「あんたの強固な鎧は、この場で粉々に砕け散る」

アルベルト以上に、豪快な笑みを浮かべようとする少年。


「小僧の分際でほざくわ、ガアハハハハハアハハハハハハハハハハハハ!!」


「おっさんも若くねぇんだ、さっさと戦場から消えろよ、アーーハハハッハハハハア!」

変に相手よりも高らかに笑おうとするから、違和感のある笑い声が王の間に響く。


「なによ、これ新しい喜劇か何か?何にしても、悪趣味すぎるわね」

ナタリーは、父が守ってきた王の間の威厳が損なわれた気がした。


『アーーアハハハハハアハハハハハハハハハハハハ!!』

2人の笑い声が重なり合う。しかし、いつまでも続くわけがない。


「小僧、覚悟しろ!!」

ボーンスピアを、全力で突き出す。


『ガッ』


突き出してきたボーンスピアを掴む少年。

「他の奴よりも良い突きしてるけど、それだけだな」


「ふん、それはどうかな。小僧」


『ゴッ!!』


鈍い音が響く。その瞬間吹き飛ばされる少年。


「ちっ、盾をブツけてきたか?」


「甘いな、小僧」

着地、態勢を整える前に、再び盾を突き出される。


「ちぃ、卑怯だぞ」

右手を前に出して、盾を使った攻撃を防ごうとする。

しかし、盾は右手に当たる直前で止まる。


「なに・・・、し、しまっ・・・」


「年の功とは、戦運びの上手さなのだよ、小僧」

盾はフェイント、本命は突きの一撃。


『ザクッ』


鋭い物が肉に突き刺さる音が聞えた。


「え・・・」

ナタリーは、わからなかった。自分は、どちらを応援するべきなのか。

誰が仲間なのか、が全く理解出来ていなかった。

ただ、少年はナタリーを助ける為に、この場に来た事は、先ほどの宝玉からの声でわかった。


「あなたの相手は、私でしょ。アルベルト」

ゆっくり、立ち上がろうとするナタリー。

少年から、深々と刺さったボーンスピアを抜き、

ナタリーの方に、振り返ろうとするアルベルト。

ボーンスピアを引き抜かれ、血しぶきを散らしながら、前のめりに倒れそうになる少年。


「姫の力では私に・・・」「・・・め・・・るな」

アルベルトの声に、別の声が混ざる。


「えっ・・・」

誰の声か把握できない。そもそも声だったのかもわからなかった。

しかし、アルベルトだけは、すぐさま振り返る、少年の方に。


「舐めるな!!!!!!!!!!」

倒れこみながら、右手を固く握り締めた拳を出す。

反射神経だけで、盾を突き出すアルベルト。


『ゴンッ』


「くっ・・・、小僧・・・」

盾から鈍い音が響くが、アルベルトに直接のダメージはなかった。

足を踏み出して、かろうじて倒れようとする体を堪える少年。

突き刺された腹部を押さえている左手は、真っ赤な血に染まっていた。


「さすがに固いな」

微かに笑みを作る少年。


「小僧も、なかなかの気合を持ち主だな。

これは、敬意を払うべき価値ある男として、汝の名を教えていただきたい」


「俺の本当の名は捨てた。命と供に」


「何を言っている、小僧」


(私にはわかる。この子も私と同じだ・・・)


唇を噛み締めるナタリー。


「どうしても呼びたいのなら、クラッシュと呼べ。

おっさん、この名前を一生覚えてろ。いつか必ず、最強になる男の名前だからな!!」

右手で傷口を押さえながら、

それでも痛みを感じさせない豪快な笑みを浮かべる。


「そうか、最強か・・・。気に入ったぞ、小僧」

また、クラッシュの気迫を受け、豪快に笑ってみせるアルベルト。


「最強の矛と、最強の盾の話には、そもそも矛盾がある」


「小僧、いきなり何を言っている」

そう言うとクラッシュが、一気にアルベルトに向かって、右拳を握り締め走りこむ。


「何度挑もうが結果はかわらんぞ」


『ゴンッ!!』


先ほどよりも強い音が響く。しかし、やはり盾によって防がれる。


「手加減はせぬぞ、小僧」

鋭い突きが、すぐさまクラッシュに向けて放たれる。

クラッシュは目を見開き、そして叫ぶ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


『ガッ』


「な・・・にっ」「ぐぅ・・・・」


クラッシュは、人間の左手でアルベルト渾身の一撃を薙ぎ払う。

左手に痛みが走るが、それよりも渾身の一撃を薙ぎ払われた事によって

出来た隙に飛び込む。

アルベルトは態勢を崩されたまま、盾での防御が間に合わない。


『ゴンッ!!!』


みぞおち付近に、クラッシュの渾身で放った右拳の一撃が突き刺さる。


「がはっ・・・」

クラッシュの一撃で、鎧を纏ったアルベルトの体が一瞬宙に浮いた。

あまりの衝撃の為か、ボーンスピアがアルベルトの手から落ちる。

しかし、鎧の破壊には至らない。


「くそぉ!!なんて頑丈な鎧だ」

クラッシュは、吐き捨てるように呟く。


「はぁ・・・、はぁ、この鎧は強固なのだと何度も言わせるな」

息を乱しながらも、倒れる事だけは耐えてみせるアルベルト。


「けど、狙いは成功してるから良いんだけどな」


「何を・・・言って・・・、お・・・い?」

アルベルトが、ボーンスピアを拾い上げるクラッシュを見て凍りつく。


「話途中だったよな。最強の矛と盾の話、おっさんはどっちが強いと思う?」


「矛だと言いたいが、構造的に盾が答えだと思っている」


「そうか、確かに矛の方が欠けてしまう可能性があるもんな」

そう言うと、ボーンスピアを持って笑うクラッシュ。

アルベルトは、クラッシュから視線を外さずに、盾を身構える。

アルベルトの表情から、余裕が消える。

その表情を見て、笑うクラッシュ。

今まで見せた笑顔ではなく、邪悪な笑顔。

敵を追い詰めた者だけが、出来る嫌な笑顔。

そのクラッシュの笑顔に、例えようもない恐怖を感じて、背筋が凍るナタリー。


「でも、おっさんよぉ。攻撃してこその矛、防御してこその盾って言うからな。

 試さないとわからないよな」

そう言うと思い切り踏み込んで、ボーンスピアで突くクラッシュ。

アルベルトは盾を前面に立てて、攻撃に耐える体勢に入る。


『ガッ!!!』


金属が重なり合う鈍い音が響く。


「おっさん、次々行くぜ!!」

防がれるのが当然のように、すぐさま次の突きを連続で繰り出す。


『ガッ!!!ガッ!!!!ガッ!!!!!!』


申し分ない威力の一撃を盾で受け止め続けるアルベルト。

ボーンスピアの先端が曲がる。

しかし、クラッシュは気付いても攻撃の手を緩めない。


「ぐ・・・っ・・・」

つらそうな吐息が、アルベルトから漏れる。

何故、完全に無傷の筈のアルベルトの方が、つらそうなのか。

理由がナタリーには、わからなかった。


『ガッ!!!!ガッ!!!!!ガッ!!!!!!』


容赦なく攻撃の手を緩めないクラッシュ。

全ての攻撃を渾身の一撃で放っていた。


「はぁ、はぁ、ああ、何者だ、クラッシュとやら、お前は一体何者だ!!!!」

息を乱しながら叫ぶ、アルベルト。

良く見ると、少しずつ後ろに下がっているアルベルト。


「くくくっ、滑稽だな、おっさん」

口の端が歪む、クラッシュ。


「だから、何者だと言っている」


『ガッ!!!!!!!』


「ぐぅ・・・・ッ」


「先ほどの最強の矛と盾の話、俺もその話を聞いた奴に『盾』が強いと言われた」

スピアとして、役に立たないまでに曲がっていたが、

何も気にせず、突きを出す構えのままで話すクラッシュ。


「もう、その話は終わったであろう!!」


「まぁ、聞けよ、おっさん。おっさんが聞きたい事の答えなんだからよ」


「なに・・・」

肩で荒く息をするアルベルト。


「盾が強いって成立するのは、原則人間同士の間での話だ。

 俺とおっさんの関係では、当てはまらないって事さ」

自分自身を笑うかのように、自嘲気味に笑うクラッシュ。

何も傷を負ってはいないのに、胸が痛くなるナタリー。


「はは、まさか、自分が人間ではないと?確かに、お前の右手は、人の者ではない・・・、

 では、何者だ。まさか、悪魔だとでも言うのか?」


「見た事の無い物を見たと言えば、笑い者にされ、

 聞いた事の無い話を聞いたと言えば、嘘つき呼ばわり、

 誰も自分に都合の悪い事には、耳を貸そうとはしなかった。

 俺は、ただ守りたかっただけなのに」


「クラッシュ・・・」

クラッシュは、話の流れとはズレている事に、気付いていないのかもしれない。

ただ、ナタリーには、クラッシュもまた何かを背負っているように思えた。


「小僧!!!だから、何者だと聞いている!!!」

クラッシュに対して、完全に恐怖したのか、

クラッシュの答えを待つ事が、我慢出来なくなったのか、叫ぶアルベルト。


「安心しろ。口で言うよりも見せてやる。

悪魔じみた力とか、しみったれた事は言わなねーよ。

その上の魔王じみた力を見せてやる」


「なっ・・・」

ナタリーには、一瞬クラッシュの異形の右手が、一回り大きくなった気がした。

今までと同じ態勢から放たれた突きは、あまりの速さの為か見えなかった。


『バッッッツギィィィィィイイイン』


強固を誇る盾が、目の前で盾に真っ二つに割れる。


「ぐっううう、左肩がやられたか」

盾を破壊するほどの衝撃が、アルベルトの肩を破壊する。


「くくく、アンタの言う強固な盾は、壊させてもらったぜ。

あはは、脆かったな。盾もおっさんの左肩もな」

してやったりの顔で、笑うクラッシュ。


「くっ・・・、ま・・・さか、まさか、我が盾が・・・」


「何て顔をしてるんだよ、おっさん。

今から、あんた死ぬんだぜ。

 笑えよ。悲痛な顔で、死ぬんじゃねぇーよ」

自分の身を守るべき盾を失い、鎧は着ているが無防備のアルベルト。

1/3の刃先が欠けて、矛の意味をなさなくなっているボーンスピアを構えるクラッシュ。

次回更新予定日は11月20日の12時ごろです。

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