表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の血を引く者達  作者: 前田炎蔵
第一章 魔王の心臓を持つ姫 
2/15

第2話 平和な日々に打ち込まれた杭

収穫祭当日、第二王女ナタリー・フォン・ユングリングは、

持ち前の好奇心が顔を出した為、国民に振舞われる食事を味見しようと

父親の演説が始まったと同時に、持ち場を離れた。

そして、一直線に厨房室へ転がり込む。

あきれ果てた料理長を、尻目に豪華絢爛な食事の数々を、

味見して回っている間に外の騒ぎに気付いた。


乾杯が行われたのかと思い、広場に出てみるとそこは地獄絵図と化していた。

民衆の中から矢が2階の演説の席に向かって放たれていた。

第一王女マリア・ソフィー・ユングリングの悲鳴に近い声で、

マグヌス王の名を呼ぶのが聞えた。


ナタリーは嫌な予感がして、すぐに城の中に入り、

演説の席を設けている2階に上がろうとした所で、

帝国軍の兵士に遭遇した。


ナタリーは、味方だと思い込み、駆け寄り、助けを求めた。

おそらく、マグヌス王が帝国の人も招待したのだとそう思い込んでいた。

しかし、助けを求めたナタリーに、帝国軍が取った行動は理解する事ができなかった。


「宝物庫に案内しろ」

そう言うと強引にナタリーを突き飛ばした。

勢いよく転んで何とか起き上がろうとしたナタリーに向けられたのは、

手ではなく槍だった。


「さっさと案内しろ」

ナタリーは悟った。



帝国軍が攻めてきた。



帝国兵の言葉に従う事にした。

もはや、場内に入られている時点で、おそらく城が落ちるのは時間の問題であり、

そうなると巻き返しは不可能と思われる。


なら、まず、身内と合流しよう。

ナタリーの心には、マグヌス王の名を叫ぶ姉マリアの声が離れないでいた。


(大丈夫だよね、お父様)


宝物庫に案内すると、中に入るように命令される。

その時点で、帝国軍兵士は2人。

そして、宝物庫に入ったと同時に、ナタリーを背中から突き飛ばした。

勢い良く転んだ所に、後ろから汚い荒い呼吸が聞えてきた。


「おい、ワイズマン。適当にすませろよ。俺はその間に金目の物を物色しておくからな」

もう1人がそう言うと宝物庫の奥に消えていく。

それを合図に近寄る兵士。

鎧を脱ぎ捨てながら、ナタリーに近づく。


ナタリーは、今から起こる事を理解して座ったまま後退る、

現実から逃げるように後退る。

だけど、現実は容赦なく、ナタリーを捕まえる。


そして、そのゴツゴツした手で、ナタリーのドレスの胸元部分を掴み、思いっきり引き裂く。

その光景を見て、このドレスってこんなに簡単に引き裂けたんだと放心した。

まるで、これから起こる現実から目を背けるために。


「ようやく、諦めたか。まぁ、王族の姫君となると、おそらくは初めてだろうしな。

 恐怖は感じるかもしれないがその内、気持ち良くなるからな」

そう言いながら下卑た笑みと、

それ以上の下卑た笑い声を出しながらズボンを下ろす。



なんとなく、その後の行動はわかっていた。けど、命を取られるわけじゃない。

我慢すれば、すぐに終わる。そしたら、シャルやマリア姉さまに会いに行こう。

そして、今まで通りに過ごそう。お父様やお母様と一緒に。



現実から、意識を切り離そうと努めるナタリーを知ってか、知らずか、

帝国兵が現実に引き戻させる悪魔の一言を口にする。


「どっちにしても安心しなって、他の王女も同じように誰かの相手をさせられて・・・」


(ゲシッ)

思いっきり男の顔面に蹴りを入れる。


「いてぇ!!!てめぇ、ふざけんな!!」


顔を抑えながら、もう片方の手で薙ぎ払われる。


「いたっ」

次は、ナタリーが勢い良く吹っ飛んで、宝物庫を置いている棚にぶつかる。

ぶつかった勢いで、棚に置かれていた書物や宝物が雨のように落ちてくる。


「キャー」

思わず頭をかかえながら、悲鳴を上げるナタリー。

いろんな物が割れる音が宝物庫に響き渡る。


音がしなくなって顔を上げるとそこには、

全裸の男が抜き身のナイフだけを持って、下卑た笑みを浮かべていた。


「次、抵抗したら刺し殺す。そして、他の姫を変わりに頂く」


「ほ・・・かの・・・ひ・・・め?」


「ああ、マリアってのは、もちろん楽しめるだろうが、

ガキの方もそれなりに楽しめるだろうな」

舌なめ釣りをしながら、一歩、また、一歩とナタリーに近づいてくる。


「そ・・・、それよりも、何で帝国軍がオンデンブルグ王国を襲ったのよ」

話を逸らせようと、咄嗟に思いついて実行してみる。


「ああ?大陸全ての国を支配したいからじゃねーのか。

 俺は属国のドナーテ国の人間だから、帝国様の考える事なんて知った事じゃねーな。

 ただ、こうして、他国を帝国軍として襲って、

 金銀財宝と上物の女を、物色出来るんだからタマんねーよな」


もう、わかっている。

このずっと下卑た笑みをしている男は、どっちにしても機会があれば、

本当にマリア姉さまも、シャルも襲う気だろう。


――――――絶対にこの男を倒さないとダメ。


そう心に決めている間も男との距離はドンドン縮まってくる。

周りを見る。棚から落ちてきた中に、何か武器になりそうな物を何でも良いから探す。


棚から落ちて割れた何かの破片、

分厚い本、

宝石やアクセサリー、

何処の国の守り神かわからないけど木彫の人形。


そして、変な文字が書かれたラベルが貼り付けられている丈夫なガラスの容器に

入ったホルマリン漬けになっている心臓。


――――――心臓?


「!?」

そう思った瞬間、ガラス容器に入った心臓が動いたように見え、声にならない悲鳴を上げる。

心と正反対に、何かの力に導かれるように思わず、その容器に手が伸びる。


容器を掴んだ瞬間、男の手が再び破れた胸元から見えていた下着を掴む。

振り向きざまに思いっきり容器を叩きつける。


(バリン!!!)


勢い良い音が宝物庫に響き渡る。その後、すぐに容器の液体が飛び散る音と、

入っていた臓器が地面に、ベチャと音を立てて落ちた。


思いっきり容器をぶつけられた男の頭から血が流れ出ていた。


「グッ・・・・・・お前、死にたいらしいな・・・。なら、望み通りに殺してやるよ。今すぐにな」

そう叫ぶとナイフを抜き放ち、ナタリーに向かって突き出す。

それはスローモーションのようにゆっくりとした動きだった。


(死ぬ最後の瞬間ってこんな感じなのね)


走馬灯という言葉を身を持って知るナタリー。

しかし、ナタリーに向かってくるナイフのスピードが、徐々に失速していく。


そして―、ナイフが完全に止まった。

ナタリーにナイフが突き刺さる前に、である。


ナタリーは驚いて見上げると、男は血走った目でナタリーを睨みつけている。

男のおでこには、汗の粒が滴る途中で止まっていた。


―そう、男の動きがピタリと止まっていた。

正確には時間そのものが止まっているように思えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ