第0話 夢…
ーーーーーーーーーーーーーーーここはどこ?
ーーーーーーーーーーーーーーーどうして沈んでるの?
辺りは真っ暗な闇が支配し、私はその闇の中に沈んでいる…。はい上がりたくても体が全く動かせない。早くこの闇から抜け出したい。
「いや、いや! 助けてぇ!!」
『……ここから出たいか?』
低い男の声がする…。
最後の希望はこの声だ。
「出たい、ここから出たい!」
『………ならば思い出せ。全てを、大切なものを、畏怖するものを…』
「…思い……出す?」
嫌だ…怖い。
思い出したく、ない!!
苦しい! ここから出してっ!!
「…ーーーーーりは! きろ、おりは! 織羽!!」
「ーーーーーッハ! ハァハァハァハァ」
息をするのが辛い。苦しい。
気が付くと隣にはお兄ちゃんがいた。汗だくで目が合うとホッとしたように微笑む。
「ふぅ。うなされてたみたいだったが、大丈夫か?」
「………」
すぐにでもお兄ちゃんに夢の事を話したい。でも、これ以上は迷惑を掛けられない。だってお兄ちゃんは優しいから、悩ませちゃう。
「…大丈夫だよ。ちょっと怖い夢見ただけ……心配掛けてごめんなさい」
「そっか……良かった」
お兄ちゃんは当たり前のように私より大きな手で頭を撫でる。それが心地よくて、記憶を無くした私にとっては暖かかった。
「今日は織羽の大事な入学式だからなー。お兄ちゃん、しっかりビデオ撮るからなー」
「ふっ。ビデオ撮るのお母さんの仕事でしょ! それにお兄ちゃんと同じ高校入るだけだし」
「母さん機械オンチだから任せるの危険なんだよなー」
お兄ちゃんの渡辺 真那斗は一つ上の高校二年生。爽やか系イケメンでファンクラブがあるらしい。背も高く、顔も整っている為モデルのスカウトが後を絶たない。
「あ、そうそう。今日は俺の幼馴染みも一緒に登校するけど大丈夫だよな?」
「え…幼馴染み……いたの?」
初耳だ。
私は一年前の記憶から前を全て無くしている。だから無理ないかもしれないけど……大丈夫かなぁ……心配だ。
「そいつ、一年前に事故って留年でまた一年からだから織羽と同じく今日入学式なんだぜ」
「留年か…大変だね」
また一年生からやり直しなんて…。
その人、可哀想だ。
「ま、優しい奴だからそう緊張しなくていいぞ! んじゃ着替えたら降りて来いな」
「うん。分かった」
返事をするとお兄ちゃんはすぐに部屋を出て行った。
それにしても今日は忙しくなりそうだ…。根拠はないけど。
「…お兄ちゃんの幼馴染みかぁー」
独り言を呟きながら私はタンスからまだ真新しい制服を取り出す。季節は春。出会いの季節…。




