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タグでストーリーがバレるとか

 「私……生理が来ないんです……」







 この・・事実を先に言わなかったのはもちろん計算があっての事だ。ずっと世話をしてきて、それでいて湯船でも裸の付き合いをして、そしてその時の有田の表情を見て。

 リサは自分に生理が来ない事が分かって以来、これをどうやって打ち明けたらいいのか分からなかった。何しろ打ち明けた途端に汚れていると思われてしまうのではないかと、疑心暗鬼にかかってしまっていたのだから。


 それでも、有田はリサに興味があるという事は、リサはなんとなくだが感じ取っていて。その感情が本当ならどんな順番で言っても関係ない。気持ちにウソなんてない。だが、リサはこの温泉で疲れと共に心の休養になればいいなんていう想いもあったのに、逆に悩む結果になっていたのだ。


 もしも、拒絶されたらどうか。


 こんなのはよくある話じゃないか。誰の子か分からないなんて。


 ……そして、有田の子という事は確実にない。


 確信というものが全く持てない。これが人の気持ちとなればなおさらだ。こればかりはどんなに考えたところで自分から見た他人のイメージでしか想像出来ない。

 もしも、逆の話し方で言ってみて、その時にほんの少しでも困ったような表情をされたなら。

 普通の男性なら――――。

 表情が少しでも曇ったら、リサはそれでも耐えられない。


 だが、いくら悩んでみても結局は有田の答え一つで変わってしまう。ならば……断れないような、気持ちを確かめた後に聞くのが一番揺るがないのでは? と思い至ったのだ。

 そうすれば……断れない、さっき好きだって言ったじゃない。

 そんな言葉も有り体な言葉ではあるが使えるじゃないか。


 ……色んな打算がリサの中ではなされていた。


 これが一番。考えれば考えるほど、どうしようもない現実に自分が卑怯な考え方をしていると思えてならない。実際に、リサは卑怯だと自分では思っていた。

 

 だから、言いながら……卑怯な自分が出てきてイジメるのだ。

 悲しくなるのだ。

 好意を利用するような、そんなやり方で話す方を選んだ事を、事実を突きつけられるような感覚。


「……アタシもね、一応セイヤに生理の事聞かれた時に、もしかしたらって思ってたんだ。

 だから、その事なら全然気にしなくていいよ。

 それよりも、リサがアタシの事好きだって言ってくれて嬉しいんだ」


 有田はリサの気持ちも理解出来る。だからこその一言だった。


「私……私の事、好きでいてくれるの?」

「うん、リサの事好きだよ……辛い想いさせちゃったね」

「でも、私に子供が出来たらその子は……」

「大丈夫!! その、アタシの子だと思って大事にするよ」


 有田はリサの全部を受け入れた。


 リサの悩んできた時間がまるでウソだったかのように気持ちが軽くなる。途端に大粒の涙が溢れて、もう、どうにも止まらなかった。リサはわんわんと大声を上げて泣いた。泣き崩れて、有田の胸に抱き抱えられて。


 リサが顔を上げるとそのまま見つめ合い、どちらからともなくキスをする。

「女同士なのに良いの?」

 有田の言葉に、キスを重ねて返事を返す。

 今度は舌の入った、特上のキス。


 そのまま二人は結ばれた。






 リサの激白とも言える告白をしているその頃、エメルダを先頭に森を歩いている一行がある。セイヤ、ショウ、ローガンを合わせて四人のメンバーだ。

「コッチに、マリョクがカイフク、カンジル」


 多少カタコトでも、このエメルダの魔力の回復は現在の状況からはとても興味深い事。それは残りの二人も含めて全員に共通する事柄だった。

 マリョク、簡単に言ってしまえば魔力なのだが、実際はこの現状の大きな鍵。


 訳の分からない世界と、モンスターの存在。

 そしてエルフという亜人種の存在。


 その全てを全部クリアに考えることは出来なくても、大きな足掛かりになる事は間違いない。森の奥へ奥へと足を進め、魔力回復の原因を突き止める。

 たどり着いたその場所は、少し周りとは異質な、木々がそこだけ避けるように生えているという空間。木々の中に出来た広間の中央には、計り知れない大きさの樹木。


「センネンジュ……」

「千年樹? これがこの木の名前なのか?」


 セイヤを含めた三人、ショウとローガンもこれは、違うと思った。

 この世のモノとは違う。

 この木もエルフやモンスターと同様にこの世界のものではない。


「もしかしたらこの木は、僕達の知ってる世界のものじゃないのかも知れないね」

「ああ、俺もそう思う」

「ボクはよく分からないゃ」


 驚く三人に構わず魔法の実験に乗り出すエメルダ。指の先からピリピリと電撃を走らせ、感覚を確かめる。……攻撃用の魔法は使えそうだ、とエメルダは確信する。

「その、魔法は使えそうなのカイ?」

「ウン、シルフをイッパイヨベタ」


 エメルダは当然のように答えるが、これは他の三人にはよく分からない事だった。それから間髪入れずに辺りにビリビリと軽い電撃のようなものを流す。

「ハシッテ! カコマレル」

 走って、囲まれるという言葉はカタコトである為に少し三人の反応が遅れた。


 先程の軽い電撃は周りを見渡すレーダーのような物だったが、それを説明するような時間は無いと判断したエメルダ。人型ではないが包囲されそうであると、先程の魔法で感知していたのだが……。


 突然走り出したエメルダに追い付こうと必死に走っているが、森を歩き慣れていない三人は少し距離を取るような形になった。

 追ってきているのはオオカミ。

 ニホンオオカミは絶滅しているので、これはやはり異界の野獣である。


 一番後ろを走るショウが、ここで狙われる事となる。

 真横から現れたオオカミに対して、ショウはビクリとして動けなくなった。足がすくんだのだ。

 オオカミを始めて間近で見たという驚きもあるだろうが、その大きさも要因の一つ。


 160センチ程の大物で、四足ならではの移動速度。これにショウが追い付かれ、そして襲われそうになっていた。エメルダが車の方へ誘導しながらオオカミに対して威嚇として魔法を放つ。

 これは先程の電撃の密度が違う、攻撃、殺傷の為の電撃。


 その電撃の鋭さがオオカミには効いたようだ。


 命中はしていないが……エメルダから距離を取り、そして来た道へと去っていく。

「こ、怖かったょ……」

 怖がってる暇などない。無理矢理にでも走って貰わなくてはならない。

 セイヤも中身が女なので、この事態に助けに入れる程の余裕はなく、ただ青ざめているばかりだ。


 今回は魔力の回復がある程度出来たのでそれで上々であろうというエメルダの思惑とは別に、セイヤ達の意識は野生生物ですら危険であるという危機感を高める事となった。

 そんな中で「モウスコシモリにイタカッタ」というエメルダの言葉は聞き分けられるものではなかった。


 車で拠点にしている旅館まで帰り、今回の探索は終了となる。





 気持ちを確かめ合った有田とリサ。そのままの格好では出迎える事は出来ずに、慌てて服を着る。

 有田は相変わらずのワンピース、リサは愛らしい薄地シャツにタイトスカートで、パッと見たら女教師を思わせる洋装。

「どうだった?」

「オオカミが出てさ……」


 ここで合流して魔法というモノを初めて見た事や、オオカミ等がこの街にも生息している事から、安全性はやはり保証されてないという事が分かった。

 ここでエメルダが提案をする。

 その提案の内容は、エメルダが単独行動で森の探索をするという事であった。


 現在の最高戦力が単独行動を申し出てきたのだ。


 これには不安が大きくなるばかりなので皆が揃って止めに入る。しかしこの単独行動には理由があった。エメルダは即戦力として、オオカミを捕らえる事を考えていた。

 

「それじゃ、そのオオカミってエメルダに任せちゃって良いのかな」

「何言ってんのアリちゃん! こんな世界で散り散りになったら……また会えるなんて保証もないんだよ!」


 セイヤの言い分も最もである。モンスターの存在がジワジワと明らかになって行く一方で現実世界、元の世界に帰る方法は絶望的なのだから。

 これはこの二週間の中で話し合われたこと。


 もし、これがゲームの中だとしたら……?


 これを元に話し合っていた事があった。

 その時の内容とは……

「つまりね、こんな記憶も全部持ち込んで、ゲームの中に居るなんて事は有り得ないと思うんだ」

 こう主張するのはローガン。


 だが、皆ゲームのキャラを作っていてこうなったというのだからと話を進めると「私は……その、ゲームをやった事がなかったです」というリサからの驚きの証言を得る事になった。

 そして、これはローガンに関してもそうだ。


 どうも、誤解があったようだ。




 つまり、ゲームを通してこの世界に迷い込んだ人間とそうでなくて迷い込んだ人間がいるという事になる。そしてもう一つのローガンの理論はこうだ。

 もし、サーバに人間が情報として存在するなら……。

 それはコピーすることだって出来てしまう。

 つまり、そんな事有り得ないというのがローガンの理論だ。


 もちろん、バーチャル体験で、全く現実と区別がつかないほどのクオリティがなされていて、感覚や記憶といった部分を人間の脳が行うように出来てれば……その問題はクリア出来るのだが。

 そうでなくて、ゲームと関係無しに迷い込んだ人間がいる時点でその線は無くなる。

 これがローガンの唱えた理論の根幹であった。


 ここで話を戻すと、ここはゲームの中ではない。

 そんな訳のわからない世界である。

 そしてこの世界に来た理由や手段が思い浮かばない以上は、帰るという発想も方法を探る事がそもそも無理だ。

 この状況で、エメルダが単独行動を取るというのは……もしかしたらこれで会えなくなる可能性も出てくるだろう。


 それでもエメルダは森の中で暮らす事が本来のエルフの姿なのだからと言い切り、そして有田もそれはなんとなく理解していた。

 また、有田の中ではエメルダの信用は高い。

 そのエメルダの意見だから尊重してみようというような気持ちもあった。


「もし、エメルダの言う通りにオオカミをどうにか手なずけられたら、それは本当に凄い事だし、エメルダならやれるかもって思うんだけど……」

「僕はその……またモンスターが来たら戦えないし……」

「ボクもだょ」


 ひと呼吸置いて、有田は少し強めに言った。

「だからこそ、戦力の強化が必要だろ」


 エメルダの単独行動の趣旨は、戦力の強化。そしてそれは、一旦離れる事にはなるけどもそれでもみんなの元へ帰ってくるという意思も含まれている。


「とにかく、一旦離れたとしても、ここを拠点にしている限りエメルダは帰って来れる。

 後は、アタシ達がここを守り通せるかどうかだ」

「僕も戦えという事になるんですかね」

「スコシ、シルフをオオクヤドシテ行きマス、ミンナもタタカエル」


「そのシルフっての、何が出来るようになるの?」


「マリョクのミナモト。

 スコシ、マホウツカエル」


 ……この事実を整理するにはしばらく時間がかかった。


 どうやら人間である有田達も魔法が使えるようにエメルダが取り計らっていたようだった。

 エメルダは短剣を差し出して、これで遠くの物も切れると言ったが……何しろカタコトなので。半信半疑のまま少し離れたところに空のペットボトルを置いて切れると説明された通りに短剣を振ってみた。


 スコンッと、妙な音が聞こえてそのペットボトルは斜めに両断されて崩れ落ちる。


「「「「ええええ!!」」」」


 一同の大きな声と共にその魔法の短剣の威力が証明された。


 エメルダは決して恩を無視して単独行動したいと申し出た訳ではなかったのだ。というか全くの逆で、皆の為を思ってずっと行動してきたのだ。

 言葉はやや通じない、だが、一緒に過ごした時間はエメルダに取っても大切な時間であり。

 そして仲間だという確信を得るには充分な時間であった。


 武器はとりあえず手製の槍と魔法の短剣の二つ。


 有田が魔法の短剣を持ち、お下がりの武器である手製の槍はローガンに。

 一旦武装という面では、強力な武器が手に入った。


 もう一度、今度は全員で森の入口まで行きエメルダを見送る。


 キュッとキツく表情を結び、一人森の奥へと侵入していく少女を背に。

 今後の対策を考えなければと残った五人がそれぞれ覚悟をする。


 二十日目を過ぎて、これから更に異世界ライフが過酷になって行く。



評価ありがとうございます!

お気にいりありがとうございます!

ただ、書き溜めたものは全て排出されましたので

更新ペースは落ちてしまいます。

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