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伝承によると「パンツは漢のロマン」である

「こんなの履くの?」パンツを選んでもらう……。現在の男性に。これは絵的には非常にエロくなってしまうのだが、有田は女性の下着については無知だ。仕方ない仕方ない……繰り返してみてもやっぱり絵的にショウの嫉妬を買うのか……と思いきや、意外に会話に参加してくる。余計ややこしい図になる。






 こう・・なったのはつい先程。セイヤが服装を気にした方が良いと提案してからだ。


 薄い本を大事に抱えて喜ぶエメルダ。暗い店内の中、パンツを選ぶのに恥じらいを見せる少女の姿と、色々な下着を持ってきてはこれが良いだとか、似合うだとか、一見セクハラを行なっている男性陣二人。


 衣服を選ぶレディースのコーナーでこの異常な光景はまだまだ続く。


「女ってマジ大変だなぁ……こんな布切れ、生地の部分なんて少ないのに値段半端ないんだけど」

「まあ、言ってもピンキリだけどな」

「アルちゃん、これとか可愛いと思うょ?」


 エメルダは勉強・・の真っ最中で、この会話には加わってこない。異世界から来た少女にとっては、この異常事態がよく分かっていないというのも理由の一つだ。


 ブラジャーを選ぶ時にも、その騒動はカオスの一路を辿る。バストのサイズなんてものを計ってない有田に、セイヤ、ショウがサイズを適当に揃えて持ってきた。「つけてやろうか?」と、ど直球のセクハラ発言をかます。


 その構図を見ているショウが前かがみになっていく。ショウにとってはやはりこのシーンは見逃せないのだが、それでも自分のアレのポジションをずらさなければ心地が悪い状態になっていて、そしてそうなっている自分にすら恥じらいを感じていた。


 そしてそれに気付いてゾクッとする有田。


「ちょ、なんでそんなポーズしてんだよ……俺、じゃない、私に魅力があるんか?」

「やめてよ、恥ずかしいょ」


 有田もこれ以上は自分でやった方が身の為だと、手渡された下着類を持って試着室に入る。そして思った。「うわ、これ、ナマ着替えってやつだよ?!」発想は男子のソレのまま。


 そして、しまったと思う有田。服を先に選ばないと結局外に出ても見てくれの悪い(良い?)ままなのだ。


「ねえ、セイヤー? 女モノの服も適当に持ってきてくれない?」試着室からの唐突な声にセイヤもまあ仕方ないかと服を見繕う。……持ってきてくれたのはいいが、どれも可愛い。


 これを着るのか……うわ、スカートの丈短い! などともらった服を試着し、そうしながら鏡を見てうっとりするのだった。


 そんな中でふとこのスカートだと、パンツが丸見えじゃないのかという疑問と、性的な欲求に耐えられず、一旦座り込んで鏡の中に映る自分に目をやる。……本当に可愛らしい。


 そして、座り込んだのには理由があった。


 パンツがちらりと見えそうで脚が邪魔してて見えないという例のポース・・・・・を、鏡の前で座り込んでスカートで隠しながら試みる。しばらくアングルを変えて脚をパンツの見えない絶妙な場所に置き、満足そうな顔で鏡をみる有田。


 このポーズを最初に考えたヤツって天才じゃね? と心の底から関心する。何故ならそれは、どう考えても相当アングルにこだわらない限り見えてしまうからだった。


「パンツは見えすぎるとダメなんだよなぁ……ちらりと見えるからこそのロマンであって、見えることのありがたみが少ないような、いわゆる見せすぎな作品というのは邪道だよ、てか! ロマンがわかってない!!」


 有田は自分で何度もこのアングルに拘って色んなポーズを決めてみた。どんなポーズもやはり時間をかけて作った甲斐がある。ややエロく、そしてしつこくない程度の素晴らしいポーズである。そんな研究をいつの間にか始めていたところへ。


「アリちゃん? まだ終わらないの?」


 唐突に外から声をかけられて、慌てて声の反対側の壁に激突しながら「あ、うん、なんとか、やれてる」という具合に間の抜けた返事を返した。


 色々と持ち込まれた服の中でも気になる服装があって、それをとりあえず着てみる。


 ワンピースという選択は少し安直ではあるが、有田が手にしたのはレーススリーブワンピースというモノで。少し濃い目の紺色で大人の女性が着ても良いだろうし、可愛く着こなす事も充分に可能で、スタイルの良さをそのまま出せる。


 何しろ上下揃ってるし。


 ズシャっとカーテンを開いて言葉を投げかける。「どう? これ似合う?」有田の言葉にドキっとする三人。有田がしのごのやっている間にセイヤとショウはBL展開を視線で行っていたのだ。見つめ合う二人を本番キタとばかりにじっくり観察するエメルダ。こんな事が有田の着替えの間に行われていた。


 ドキっとした訳ではなくビクッとしたと言ったほうが正しいようだ。有田がそれを察してそうですかい、私は邪魔ですかとばかりにふくれっ面をする。その姿は可愛らしい女性のソレであり、誰でもがその姿に目を奪われるだろう。


「アリちゃん……やっぱ服変えただけで全然イメージ変わったわ」「ボクも、ちょっとドキっとしちゃったよ」とは言え中身が三人とも女なのでただ単にモデルさんを見かけて綺麗で驚いたという程度で、興奮すると言うような事はない。


「俺、どうせならチャイナドレスとか着てみたかったなぁ……」

「アリちゃん、そういう趣味だったの?」

「え? チャイナドレス! 着てるところ見てみたいよボクも」

「チャイナってナンデスカ?」


 エメルダには分からないのも当然である。説明するよりは見て貰った方が早い、百聞はなんとやらだ。そうと決まれば今度はドレスでも見に行くかとセイヤに案内される。それにしても何故セイヤがここまで服関連の情報を池袋で分かっているのだろうか? 単純な理由だ。オタク街と変わりつつ池袋はセイヤの元からの聖地。


 聖地の事ならなんでも来いのセイヤの情報網で今度はチャイナドレスの試着に、これまた着替えてムラムラする有田の姿があった。


 だが、ここは我慢の時。今はソレ・・よりも大事な事がある。


 服を選び終わった後はどうしてもやらなければならない事があった。それは明かり。夜、あの仮眠室に戻るとしたらこれは懐中電灯なしでは戻れない。何しろ電気が来ていないのだから。懐中電灯は警備室にいくつも常備されているが、その殆どが充電式。


 別の棚に普段使わない電池式のものもあるのだが、使ってないのでどれくらいの時間は点灯していられるのかだとか多少不安が残るし、そういった生活の部分がこれからは困難になる。


 後はガスだ。一日に一度は火の通ったものを食べないとやはり身体の調子は出ないものだし、それをカセットコンロで済まさなければならないのだ。


 そうした日用品の必要性が出てくるから、今のうちにある程度揃えておかないと後で何かあったら大変である。なにしろここは有田、セイヤ、ショウの三人にとっても知っているようで分からない世界なのだから――――。


 そうして、大体の生活に必要なものを揃えて回る。


 必要になったらまたその時考えるとして、今はまず明かりとガス、寝袋や食器、そうして揃えて行った後に最後の難関。


 ガソリンだ。


 車が走らなければこれから何をしようにも、不便でかなわない。ガソリンスタンドももちろん停電しているので普通には給油出来ない。


 夕方になり燃料は一応まだメモリの三マスほどは残っているが……ここはクリアしておきたい所だ。


 ガソリンスタンドに着いて、店内を捜索する。狙いは手動式の緊急用可搬式ポンプである。これはこういった緊急事態に手動でガソリンを入れる事が出来るので、この知識を持っていればもしかしたら役に立つ事もあるかも知れないと、心の隅に覚えておいた有田の提案であった。


 この緊急用可搬式ポンプというのは何しろ手動なので、災害が起こった時には効果を発揮する。地面にある丸い蓋を開けることでその装着はなんとかなった。一応説明書のような物もついていて、一般人でも見れば分かるようにはなっている。


 日本はこの災害については既に痛い目に遭っているので、このような装備はガソリンスタンドには当たり前のように常備されている。


「ぐっは、重い……」

「アリちゃん手伝うよ」


 筋肉トレーニングというものは必要なのでやろうとは思っているのだが、やはりまだ2日目。そんなに簡単に筋力がつくわけでもなく、四人がそれぞれ交代でポンプを使う。


 女性には相当キツイ仕事にはなったが、これもまたトレーニングの一部と考えれば有田にとっては必要なものだったが、エメルダにとってはこれは本当にキツイだけの仕事。途中からバテて結局三人でこなす事になる。


 セイヤの「何だか暑いな……春を飛び越えたようなような錯覚が起きるゼ……」というセリフにもクタクタで反応出来ない有田とショウ。身体を動かさないと本当にマズイ、主に筋力が。


 地下にあるタンクに圧力をかけて吸い上げる仕組みは、思いのほか時間がかかった。


 日は本当に暮れてしまって、やや見通しの聞かない状態にまで時間がかかった。皆が皆、汗だくで一刻も早くシャワーを浴びたいと願う。つい一昨日は肌寒い印象だったというのに……。


 用意した懐中電灯と大量の電池で、また、あの寝室に戻る事になった。


 そこで問題がある。……エメルダはどっちで寝るのか?


 当然といえば当然なのだが、有田とエメルダがペアで、セイヤとショウがペアになってそれぞれ別れて仮眠室へと向かった。水道はまだ使えるようで助かったが、水しか出ないという事に少しがっかりする。


 それでも、身体を洗い流すには充分な施設である事には変わりがない。交代でシャワールームを使う事となる。


「エメルダ、その、寒くない?」

「ダイジョウブダヨ」


 鍵もかけられるけど、そんな必要もないという、そんなシャワーのドア越しに有田はやはりエルフの少女のシャワーシーンに心を逸らせ、シャワーのパシャピチャという擬音にずっと耳を傾ける。


 有田の手は勝手に自分の身体を摩っていたが、エメルダが話しかけてくるとビクリと手を離す。


「アルティシア、アナタとセイヤとショウとのカンケイハ、ムズカシイのデスネ」

「ああ、話すと長いからね……エメルダはこの世界の住人じゃないよね……?」


 一瞬というには少し長いか、そんな間をおいてエメルダが口を開く。……元にいた世界についての事だった。


 それはまた全く違う世界の話。世界には幾つもの異世界があり、そのうちの一つである「もう一つの世界」からエメルダは飛ばされて来た。


 元の世界に於いては召喚術という魔法が盛んで、他世界から召喚を行い、その召喚された戦士で戦うという一大戦争が起きていたのだとか。エメルダはそこに召喚され、戦争に否応無しに巻き込まれる魔法戦士の一兵士として戦場でずっと戦っていたのだ。


「ダケド、このセカイはマホウツカエナイ……」

「魔法か……確かにまあ魔法ってのは現実には無いよね」

「このセカイには、シゼンはナイノ?」


 街路樹くらいならあるけれど、自然らしいものなんてものは東京では珍しい。土も見えないアスファルトで固められた道路、建物。だけれどもそこに居ても新鮮な野菜だとか肉も魚も、何でも手に入る。冷凍にされていたり、多少は加工されていても、それでも手に入る。


 何不自由なく。


 いや、お金があれば……。


 そしてこの世界ではお金の意味がない。法律もない。つまり無法地帯なのだ。


「もしかして、木とか林とか……自然があったら魔法とか使えるの?」

「ウン、タブンネ」


 魔法が使えない、自然は無いのか? その順番で聞かれたからまさかと思って質問した有田だったが、それは全くの予想通りで、そして答えも期待通りの答えである。




 魔法が使える……? という疑問がこれからの行動の指針の一つになるのは間違いない。つまり自然の中にエルフを連れて行ったら魔力の回復が見込めるかも知れないから。


 今後の行動方針は魔力復活と、この世界に迷い込んだ人捜し。


 これが明確になった所で、二日目の夜が更けていく。

 

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