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気が付けば創世記

「うおお! 可愛いなぁ! 性別はどっちだったの?」

「お待ちなさい! まずは身体を綺麗に流してから、それからでも遅くはありませんよ」

「アル……私もそれがいいと思う。

 この子は女の子だよ


 ……それから、帰ってきてくれてありがとう」


「子供の名前はどうしようか?」

「私とアルの名前の間をとって、アリサってどう?」





 そんな・・・会話が成された翌日。

 リサも事情を説明して分かってくれた。ただし「浮気しちゃだめよ」というお約束の言葉を貰って少し嬉しいアルティシア。

 出発はすぐに、というタイミングが良いと告げられている。


 東京近辺には緑が少なく、他の地域から千年樹を通して見ただけの情報ではあるが、東京から三方向への同時の進撃が行われているという事で。

 つまりは出払っている分だけ手薄になっているだろうという予想である。


 あくまでも予想の域を出ない情報ではあるが、その予想くらいしか頼りにならないのだ。


 実際のところ、こちらへ向かった分に関しては壊滅までは行かないまでもほぼ追い返すことが出来ている。このまま流れに乗って東京の本隊を叩き、そして占領する。

 つまりは人の住める土地にするという事だ。

 これは言葉にすれば簡単な単語になるが、占領というのは、つまり箱根から東京までの人の行き交いを開通させるという事にほかならない。


 その為に必要な事は、自分の力で戦えるような武力の確保。


 集まった人間すべてが烏合の衆では全く話にならない訳だ。東京にどれだけの人間がいるのか分からないし、人食い鬼オーグルの数も不明。

 それでも今、叩かないと取り返しが付かなくなってからでは遅い。

 そんな事情で朝早くからの出発になったのだが、それが城の人間とすれ違いを生む事になった。


「あるてしあはおらんのか……」


 殿さま自らのご訪問とは、珍しい事もあったものだ。


「何か用事だったんですか?」

「うむ、まあそうじゃな……」


 このお殿様は割と歳をとってて、その上この喋りなのでハマってると言えば聞こえはいいけども。考えなしにいきなりけしかけて来たという事実はアルティシアから聞かされていたので、陰で『バカ殿』と呼ばれていた。

 そんなバカ殿が何しに来たのか、こんな襲撃のあった直後に。


「実はな、あの城を治めるのをあるてしあに代わって貰おうと思って来たのじゃ」


 意外な申し出に皆が驚く中、バカ殿は言葉を繋げる。内容は至ってシンプルではあるが、少し説明しておくとしよう。

 兵士が守るものは一体なんだったのか。

 結局のところは、兵士達が皆農民に変わり。城に残された偉い方々は本当に、ただ、飯を食べているというような状態になっていたのだ。


 つまりはこの世界のニート。


 平和の象徴? とも言える存在である。

「わしは思った、偉さとはなんぞ」


 この殿さまという身分の後継として生まれて、後を継いで、それだけの存在が今、真実に近付こうとしている。

 エライって何?


 このバカ殿が思うのも無理はない事だが、国とは? 民があってこそなのだ。

 その民たる農民が、現在は兵士でまかなわれていて、そしてそれがないと食料の調達に便が効かない。また、その兵士に対して一体何を返してやれるというのか。

 安全、という面に関してはアルティシアの仕切りで行われているし。

 つまるところ、後継として生まれただけなのだ。


 それが偉さなのか。


「あるてしあは言うた。

 食料を、作物を育てて皆を守ってくれと」


 有事の際には守るから、後ろを頼む。

 そう言っていたわけだが、これがそのまま国の姿勢であるべしと、バカ殿も思っていた事でもあったのだ。最初こそ、兵士を守る為、食わせるためにいくさを考えたバカ殿であったが。

 全く歯が立たなかったのに、それでも殿さまの地位のままで。

 そして、協力して生きようと説かれたのだ。


 この偉業を成し遂げた者こそが本当に偉いのではないか。


 アルティシアにここまでの考えがあった訳ではなく、ただ、皆助かる方法を考えただけ。


 それだけではあるが、それはこの殿さまも気付いて、出向いてくるくらい分かっていて。そしてそれは残されたリサ達にも分かっている事でもあった。

 アルティシアが居なければどうなっていたか……。


 東京方面の人食い鬼オーグルによる占拠は、つまり東京に居たら助からなかったという事であり、セイヤ、ショウ、リサ、ローガンは出会わなければ……そこで人生を終えていただろう。

 全てはアルティシアだ。


 彼女が鍵だった。


 そんなアルティシアだからこそ、殿さまの代わりになる事を打診されているのだ。

「アリちゃんが殿さまって……そりゃあ面白いゼ!」

「でも、女性の殿さまって響きが変だょ?」

「アルティシア女王ってどう? そうなると私は王妃なのかな?」

「女王と王妃ってありえる組み合わせナノカ?」


 人の居ぬ間に事は進む、今回は良い方向に。


 王になったからといって何が変わるという訳でもないのだろうが、まずは帰ってきてからの話だ。状況にもよるが、長期戦も有り得るという覚悟で出かけたのだし、そんなにすぐには帰ってこないだろう。





 さて、東京方面へと車を走らせるアルティシアであったが、なんの抵抗もなく人に出会えたのは奇跡なのか。出会った人間に状況を知らせて箱根方面へ車で移動しろと案内する。

 それが続く事三回。


 偶然は続くとしても、三回も続かないモノだ。


 ならどういう事だろう?


 東京の人間を喰らい尽くして、三方向に散って勢力を維持しようと図ったのだが、それをアルティシア達が知る由もない。

 つまり、東京はもぬけの殻で。

 五日ほどが過ぎ、食い散らかされた遺体の骨などは見つけることは出来たが、当初の予想よりもどうやら事態は軽いのかも知れないという期待が高まっていた。


 戦闘自体はもちろんあったが、一人でも無双状態であるのに、今回は二人。


「これなら……東京と箱根を往復するようにして戦い方を徐々に浸透させていけば、東京の人間も拾えるし、最初の心配よりもだいぶ状態はいいのかもね」アルティシアの希望的推測に

「出て行ったとすれば戻ってくる事もあるんじゃない?」

 こうして注意を促すエメルダ。


「とにかく、本隊らしきものは見つからないんだし一旦戻ろうよ」

「そうね……ここに拠点を構えられたら面倒だと思ってたけど。

 エドは守りたい場所だったから、これで一安心ね」

「なんで江戸って呼ぶの? 東京に統一しようよ、ややこしいからさ」


 言われてすぐにパッとカバンの中から出したのは、薄い本の切れ端。まだ持っていたのかと呆れながら、その出した手際の良さと目的を察するアルティシア。

 ……まさか、そんな事が一番重要だとは思わなかった。

「本屋に寄っていってもいいよね」


 ため息混じりになりつつも、いかがわしい本屋があれば寄ってみる。目をキラキラさせながら本を片っ端から抱えるエメルダに「まさか、人食い鬼オーグルの話はウソじゃあないんだよね」と訊いてみる。さすがにそれはないようだが、これはこれで複雑な表情のアルティシア。


 エメルダがどんな知識を身につけるかも、もっと気を配るべきだったか。


「ねえ、私の言葉は元々はドイツ語みたいなんだけど……モンスターってどこから来てると思う?」

「ん? 考えたことなかったけど……もしかしてエメルダと一緒の世界から来てる事もあり得るのか」

「もしそうなら、言葉を知ってる人間だけを誘導出来るように壁にメッセージを残しながら移動したらどう?」


 モンスターがどこから来てようが、日本語は多分解読出来ないだろう。エメルダのように最初は全く言葉が通じないのなら、そうしてメッセージを残しながら移動していけば。

 東京に新しく落ちた人間にだけ分かるように、車の在り処や逃げ道として箱根を指定しておける。

「それはなかなか良いアイディアだよ、ただ、これなら手分けした方が早いし……出来る限りメッセージを残しつつ、一旦帰ろう」

「そうね、人食い鬼オーグルの事も分かったし」


 手に抱えている本からは何も読み取れないが、これを手に入れたならエメルダは帰る事にすんなりと同意してしまうのだ。

 エメルダからすれば、同胞の居ない寂しさを紛らわすのに必要なものであるが。


「エメルダももう日本語覚えたんだから必要なさそうなのにねぇ」

「ワタシニホンゴワカリマセーン」

「……その返答が出来れば完璧大丈夫だわ」

 金髪の青い瞳でそんな返答をしている姿は少し面白い。日本語をマスターしているから余計にタチが悪いというか、本当にそう言っていてもおかしくない姿なのが逆に。


 東京都全部を見て回るのには多少の時間がかかったがそれでも人を発見出来ない訳じゃないし、全くの無駄ではなかった。

 何より、人食い鬼オーグル達は東京が一番人の集まりやすい場所であるという事を理解していない。それ故の大移動だったのだが、これが分かってしまえば人食い鬼オーグルから身を守る方法を残しながら箱根へ戻る事も苦にならない程度で。

 スプレー塗料で乱暴にではあるが大きく、思い切りらくがきのように『箱根へ向かえ!』と書き残して移動を繰り返した。






 箱根に戻るのは実に一週間ぶりとなるのだが、話題に事欠かない連中を残してきている。


 その中でもとびきりのネタとして女王即位式典の準備が随分と進んでいるのがアルティシアを驚かせる。何しろ本人が聞いてすらないイベントで、それなのにもう決まって動いているというのが予想の遥か斜め上で。


「アタシが女王ってのもなんだかピンと来ないんだけどなぁ」

「アリちゃんしか居ないんだって!」

「ボクもアリちゃんなら大賛成だょ!」

「アルぅ、私王妃やってみたい」


 逃れられない。それもそうだけど面白そうでもある。

 アルティシアがこのまま女王として国を治めるようになるのは早かった。何しろ国民全員の支持を得ていたし、全員の命を守ってきたと国民がそう思っているのだから。


 ここに、ハコネ城と城下町のハコネの街が出来上がり、この世界の歴史の一年目としては上々の成果と言える。

 こうして拠点を箱根に構えて東京を往復し、住民を増やし……。

 この世界の最初の『国』が出来上がるのだった。







 ゲームを通してこの世界に落ちてきた人間もちらほらと見られるようになってきていて、この世界は生身の人間とそうでない人間と、更に違う世界の人間とがごちゃ混ぜに存在するという、奇妙な世界である事は分かった。


 アルティシアは女王になったからといって休んだりはせずにずっと巡回を続ける。

 いつしか、女王というよりも女王騎士というように呼ばれるようになるのである。


 更に生まれた子供が女の子であったために、女王が治める事が代々の習わしになって行き、国は大きく発展していく。

 エメルダはそんな中において唯一のエルフであり、そして長寿で、皆が寿命で居なくなってしまってからもしばらくは仲良くやっていけた。

 前々から他の世界から召喚に応じるエルフを探していて、今のこの世界なら召喚に応じてくれるエルフもたくさん居るだろうと、千年樹の元へ。


 そこでようやくエルフの召喚に成功し、エルフの里が出来る。


 待ち望んだエルフの集落。

 だが、エメルダが本当に待ち望んでいたものは、実はアルティシア達であり。

 時折寂しい気分に浸りながら、皆の事を思い出す。







 召喚魔法の人間への指導を始め、日本が本格的にファンタジーに染まるのはアルティシアの生きた時代よりも更にもう少しかかったが、ここはもうファンタジーの世界と言って良いような状態になった。


 日本を舞台にしたファンタジー世界の誕生。






 ――――世界は終わらない。


 だが、アルティシア達の物語はここで一旦の終わりになる。


 どんな世界に進展していくのか?


 それは別の物語で。



 to be continued to Arcana survival



ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!


評価やお気に入りがどれだけ作者の糧になった事か。

もちろんPVもです!

全ての読者様にありがとうです。


この後のページにはあとがきとして、そして作者が一話ずつ振り返り

コメントしてみるというのをやってみようと思ってます。


あとがきの更新も宜しければお待ちください。m(_ _)m


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