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おいおい、そのセリフってどうよ?

「あれ、アタシ女になってる?」だとか、

「人がまだ居たなんて……もっと探せば居るかも知れないよね!」だとか、

「アルテイシオ?」だとか、

「……法律は、肝心な時には護ってくれないんだよ」だとか。






 あれ・・から十ヶ月というのは、つまりはお産の時期である。


 リサのお腹も相当大きくなり、すっかり着こなしたマタニティウェアの上からもお腹の大きさが分かるという程度になっていた。

「ローガン先生の予想が大当たりだょね!」

「本当に来なかったよなぁ、冬」


 本来なら来るはずの夏が来なかった。それは季節が動いていないのかもというのはローガンの予想であったが、こんな大胆な仮説もゲームというフィルターを通してこの世界へやってきた人間がいるから成り立つのであって。

 普通には考えられないことだ。


 夏くらいの時期になっても全然暑くならないのがどのくらい不気味なものか。


 この季節のズレに関しては誰しも薄々気付いていたのだがそれでも言葉にするまでには至らなかった。やはり現実味が無いからだ。

 一番最初に気付いたのは実はセイヤであり、ガソリンスタンドで給油中に季節を吹っ飛ばしたみたいだという言葉を口にしているが、仮説として提唱したのはローガンだけ。


 しかし、この安定した気候は妊婦には都合がよく、そして温泉という施設もまた都合が良かった。


 温泉に浸かりたい一心でここまで来たものだが、今になってみれば出来すぎている。

 実のところはアルティシアの発言でこうなっていて、リサの子が生まれるまではここの拠点を動きたくないと言い張った為で、それは皆の賛成も得ている。


 また、新しいメンバーも続々と増え続けていた。


 日本人だけが増えているというのは、やはりゲーム等の影響が強いという判断がなされるが。これだけでは判断材料にはならないというまま。

 ある時ミーティングを行うことになる。


 この世界に飛ばされた人間の共通点を探さないか、という議題で。


 この時までに男女合わせて六名が新たに加わっていたのだが、もちろん共通点など簡単にはみつからない。結局はそのまま解散になるのだが、一言「そう言えば誰も元の世界に帰りたいって言わないね」ポツリとアルティシアが呟いて、それが共通点なのか……?

 と言うような展開を見せていた。


 その後に加わった四人に関しても、やはり帰りたいとは言わないのが不思議であったが、皆が皆、誰かの過去を聞くこともなかった。

 つまりは自分も聞かれたくないような過去を持っているからか。

 現実にいい思い出のない人間ばかりが集まっているというのは薄々であるが分かって来ていた。


 互いに過去を聞かないというのは暗黙の了解のようになっていて、そしてここでの生活を満喫していく事になんの不満もなかった。


 そんな中で起きるトラブルと言えば、別の世界から飛ばされてくる人間を発見するか、もしくは同じく飛ばされてきたモンスターを発見するか。

 ただ、エルフだけはずっと飛ばされてこないまま。

 エメルダ一人だけのまま、時を過ごし。


 エメルダは何度も一人で行動して仲間を探し歩くという事態になるが、やはり同族は現れなかった。彼女にもお産の時期は知らせてあるのでそろそろ戻って来ても良い時期なのだが、まだ姿を見せないのは何か理由があるのだろう。

 

 もうすぐ生まれてくる命のために、皆が準備をしてくれていた。


「えっと、一月末って早生まれになるんだょね?」

「ん? ああ、そうだろう」セイヤも適当にごまかしているが。

「同じ学年の人から見ると遅く生まれているのになんで早生まれなのかなぁ?」


 セイヤとショウの問答であるが……元も子もないような答えで言うなら、それは法律で決まっているから。早く生まれたから遅生まれであり、遅く生まれると早生まれになる。

 日本語の難しいところだ。


「そういやカレンダーとか見てる人居るのかね、この世界はそういうの要らなそうだしサ」

 知らない事は適当にごまかしながら答えるという、セイヤの悪いクセだ。

 だがまあ、この遅生まれというのは響きが悪い。とかく遅いという響きが悪い。なので本当のところは一月一日から四月一日以外の人間は全部遅生まれであるが、そうは言わないのが一般的なのだ。


「名前まだ決めてないって、遅いょね?」

「でも、男か女か解からんのだろうしなぁ」


 そんな事はアルティシアやリサ本人が悩む事で、二人が心配するところではない。……普通ならだが。これがこの世界に落ちて最初の子供であるという事が皆の注目を集める結果になっている。

 また、隣に住んでいる人間の顔も知らないのが当たり前であった東京とは違って、皆が顔見知りであるというのも大きい。


「アリちゃん言ってたょ、このパトロールが終わったらリサと一緒に名前を決めるんだって」

「おい、それ死亡フラグみたいだナ……」

「あ! セイヤも知ってるの? 死亡フラグ……これって何?」

「口にしたらその後に死亡する、それで、今回の場合ならリサが悲しむという安易な展開の事だゼ」


 今現在パトロールに出ているのはアルティシアとケン、スミコの三人だ。こんな不吉な会話がなされている頃に、まるで狙ったかのような人食い鬼オーグルの大群を発見しているアルティシア達。

 モンスターが大量にこの世界に落とされた、としか考えられないが……。


 




「こんな事ならあんな・・・セリフ言わなきゃ良かった……」

「え、なんの話ですか?」

「ああ、何でもないよ、それより回り道してから戻るよ!」

「わかりました!」


 落とされた時期は少し前の事なのだが、それを今のアルティシアが知る由はない。人食い鬼オーグルの群れは町の隅からやってきた。

 東京方面で人を襲い、そしてたまに通りかかる人間をエサに群れを拡大しながら箱根の方へゆったりとしたペースで行軍していて、それを発見したのだ。


 ただ、このまま真っ直ぐに旅館方向へ帰ったなら、それは車の音を聞きつけた人食い鬼オーグルの群れをおびき寄せることになる。

 そこにはリサが、身重の人間がいる。

 とにかく出来るだけ遠回りをして、進路方向を出来れば誘導したいところだ。


 一旦北西へ進路を取り、その後西へ大きく周りそれから南下する。


 その予定だった。


 襲われている人間を見かけるまでは……。

「早くこっちへ!」

 見かけた人間で生きている分は助けようと、車に乗せる。だが、これは人食い鬼オーグルの使う作戦であった。この人間を監視しつつ取り囲んでいたのだ。


 つまり、思い切り包囲網のど真ん中に入り込んでしまった。


 ワラワラと囲まれるアルティシア達、見つけた人間は一人。

「これは、一点突破するしかない、アタシがあのひとかたまりを片付けるからその隙に車を外側に回すんだ!」

 車から降りて一人人食い鬼オーグルの群れに攻撃を仕掛ける。

 風の刃なら、こんな遠目からの攻撃も可能だ。包囲の薄いところを狙って三、四匹まとめて切りつける。素早く車に乗り込みその奥へ。


 助けた男は無気力で、意識はあるが全く生きた人間という生気が見られない。目の前で人を食われていたのだ。だがそれを今責めてもしょうがない。

 助かったという自覚もないのだから。


 また捕まるという男の中の意識はそのまま反映されたかのように。

 アルティシアのなぎ倒した向こうに、まだ無数のモンスターがウジャウジャと……。なんでこんなに居るんだろう? そんな考えをまとめている余裕などない。

 引き返すしかないか? 来た道を……。

 でもそれはどう考えても拠点にいるみんなを道連れにしてしまう。


「まさかもう一つのセリフまで言わなきゃならないのか、コレ」

「な、なんですか?」

「アタシが囮になるからアンタらは先に行け!!」

 というアレだ。これは発動してしまったら止まらない流れである。


「アリタさん、ボ、僕は……その、謝らなきゃと思ってました! だから、その」

「何をこんな時にグズグズしてるんだ、行け!!」

「ケンちゃん!! アルちゃんの覚悟を無駄にしちゃだめよ!」

「ケン、よく聞いて……」


 車はアルティシアを下ろして、来た道を折り返すように引き返す進路を取る。途中まではアルティシアも援護出来る。そして車の音を聞きつけてやってくる無数の人食い鬼オーグルをバサバサと切り倒し、もう来ないだろうというところで振り返る。


 後はこっちの数十匹、あるいは陰に隠れてるかも知れない分もか。

 





 ……程なくして拠点にたどり着くケンとスミコ。追ってくる人食い鬼オーグルの数は二匹。ここまでくればもう大丈夫だろう。以前ゴブリンから巻き上げたボウガンとオオカミの召喚カード三枚、それに手製の槍が五本。

 車の音は大きいのでもっと寄せ付ける可能性もあったが、二匹で済んだのは幸いなのか。

 オオカミに先陣を切ってもらい、その後ろから槍で突く。


 突然の帰還と、モンスターの襲来によって拠点は一時パニックに陥る。が、それでも人食い鬼オーグルの撃退には成功。


「アル……は?」

 悲痛の表情と共に現れたリサが、もっとも心配している人物の名前を声にする。ローガンが安静にしてなくてはダメだと言いながら、一緒に心配もしてくれる。

 声を震わせながら説明するケン。


「……アリタさんからの伝言です、数十匹の人食い鬼オーグルに遭遇した、囮を立てるより他の道はない、一階部分を全て施錠して警戒態勢で出産を。

 終わったら脱出の準備をしてくれとの事です」



「イヤァァァァl!!! アルが戻るまで待つのがいい!!」

「リサ! アリちゃんの言葉だゾ! 信用してやるんだ!」

「そうですよ大丈夫です、一人なら姿を隠すことも可能ですしアリタさんに任せて、出産を無事に終わらせましょう」


 車で逃げると音が大きいので、追われている方向を知られてしまう。といって、走って逃げるのは伏兵がいた場合には即アウト。車で逃げながら、それでいて足止め出来なければ拠点の所在を知らしてしまう。


 少人数とは言え人食い鬼オーグルに見つかったというのは、これは逃亡に失敗している可能性もあるのだ。それも見越して、一階部分の封鎖、念の為に二回への通路にバリケードを作り籠城の態勢を整えながら、お城の住人にも連絡を入れる。


 これは無線機で行える場所まで自転車で走り、無線が繋がった時点でよしとする。


 後はアルティシアの武運を祈るのみとなり、外の警戒を解かないまま出産へ。


 この頃にはリサの陣痛が堪えられないほどになっていて新しい命がもうすぐそこまで誕生を待ちわびていた。


「出来るだけ静かにナ……と言って無理な事か……」

「アリちゃん……一番すぐ傍に居たかった筈なのに」


 皆が小声でしゃべっているとやたらと精神を疲労するものだ。中でもケンの精神状態は特に酷かった。何しろ、自分の無力さ故にアルティシアを置き去りにした訳だし。

 出産というイベントでは男は蚊帳の外だし。

 ただ、自分の無力さを呪うばかりであった。






 一方のアルティシアだが、人食い鬼オーグルの戦い方の変化に戸惑いを見せている。

「くっそ! あんな重たいもの投げるなんて無しだろ……」


 手持ちの棍棒だが、投げて拾ってを繰り返している。遠距離攻撃に切り替えてきたのだ。そしてこれは風の壁でも防げない、重すぎるからだ。


 かろうじて躱した時に、短剣をへし折られるというアクシデントが起こり何とか身を隠しながら陽動を続けるアルティシア。

「リサ、アタシは絶対帰るから……」


 この世界に落ちてから十ヶ月、様相は一変の一路をたどる。




お付き合い頂いてありがとうございます!

総合評価が100に近くなってきました!

感動です!! 前作から進歩してるのかなって。


一言に感動と言っても伝わらないかもですけど、

本当に……嬉しいんですよ。 m(_ _)m


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