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アタシは四天王最弱

「ふうん、そう」

 アルティシアの剣先が殿様へ向けられる。

 この事態はある程度想定内ではあったが……。

「まあ、アタシに刃を向ける事がどういうことかまずは分かって貰うとしましょうかね」






 こう・・なる前、朝方の事。

 エメルダが加わったのは一行にとってはとても大きな意味を持つ。それは魔法の存在を持ち込んだ唯一の人物であるのだから。

 そして一番戦闘経験が豊富であるという事もある。

 もう一つは狼を捕獲するという目的と魔力の源である千年樹の近隣での生活だが、これがどうなったのかも気になるところだ。


「オオカミ? それならもうセイヤ達に渡してあるよ」

「それなら問題ない……ってどうやって渡したの? 渡す? やっぱり日本語まだ不十分なのか?」

「おおい! こっち来いヨ!」


 セイヤだ、彼を見れば一目瞭然なのだ。……の、筈だがオオカミを連れている様子はない。セイヤの元へ駆け寄って行き、手元を見ると手にはカードを持っている。

 オオカミの絵が書かれたカード。


「これさ、パッと呼び出せるんだゼ!」

「はあ?」


 見ない事には分からないのも無理はない。


「それ! ケルベロス!!」


 ケルベロスとはただ単にセイヤが付けた名前であり、実際にケルベロスが呼ばれるわけではなくて、カードの中からグニャリと大きく実態化しながら姿を見せる。

 それはあの時追いかけて来たオオカミであろう。

 これを、セイヤ、ショウ、ローガン、の三人が使えるようになっていた。


「これって、召喚魔法か!」

「お、知ってるのかぁ……ゲームやり込んでたナ?」

「この大きさじゃ乗れないんだょね」

「いや、凄いってコレ! エメルダ! 本当に凄いじゃん!! 魔法って便利過ぎて……」


 チートっぽいよね、と言いそうになったがやめるアルティシア。助けられてるのにそんな言い方もないものだし。


 オオカミもそうだがまだそれよりも重要な事実がある。それは転移された時間の事だが……これはローガンが夜中のうちに考え出していた事だった。

 今までもそうだったけども、ようやく確信が持てたという事実。


 それは、人類を無差別に呼び出しているという事が一つ。

 更にはそれが現在進行形で行われているという事。

 そして、それが時代を問わない、それどころか世界すら問わない。


「確証はないんだけどさ、僕なりに考えてみたんだ。

 モンスターというのはいつ頃からこの世界に迷い込んでいるのか?

 それはずっと疑問だったんだ」

「なるほどね……確かにそうだ。

 最初に飛ばされた時以来ずっと飛ばされてない訳じゃない事が分かったようなものだもんね」


 何日か置いてこの世界に現れるモンスターは、それぞれがそれぞれのタイミングでこの世界に落とされている。これが分かる事で、つまり、これから先もそうなんだという予想がつけられる。

 そして人間もこうしてこの世界に落とされている。


「まあ、そんなところかな……後はやっぱり僕達が最初の人間だったんじゃないかというのもね」

「最初の人間……か」


 この最初の人間というのは街の壊れ具合や、コンビニ類の店の品揃えから推測出来る。アルティシア達よりも以前にこの世界に居た人間は居なかった。

 つまり、この世界の始まりに巻き込まれたという事になる。


「そこで、さ。君達はゲームで作ったキャラクターとしてここにいるんだよね」

「ん? あー多分ね、殆どこんな感じだったよ」

「僕達と君達はもしかしたら凄い違いがあるんじゃないのかな」


 ローガンの言うところも確かにその通りで、もし、無差別にこの世界に呼び込まれているのだとしたら、ゲームで作ったキャラクターというフィルターを通してこの世界に落ちた事は全くの別の現象であるとも言える訳だ。


 だが、この事実をたったこれだけの人数で考えたところで答えなど出るはずがない。


 たった三人、ゲームで作ったキャラクターになっていたというだけなのだから。しかしこの違いこそがこの世界の謎を解き明かす鍵なのかも知れない。

 ただ、これ以上考えても今は考えが進まないのも確か。


 そして優先するべきは、突然現れたお城である。


 まず、城へ突入する方向で考えていいのかとアルティシアが切り出す。中の人間次第であるというのは当然なのだけど、こればかりは見てみないことには分からない。

 それから車だ。


 昨夜はこれに乗っていたがために相手を怯えさせる事になってしまったのだから。


 車で十分のところを歩いたらどれくらいかかるだろうか? 歩けないような距離ではないが、近場まではやはり車を出そうというのが見解。

 そして、近くまで来たら降りて中の人と接触を試みる。

 この線で、とりあえずは相手の出方を見るという事に。


 さて、この城はどこから来たのか。


 昨日の見えたものはシルエットだけであったが、それでも純和風であるという事くらいは分かっていた。何故なら、城壁の外囲い部分だが、これにかわらが使われていたからだ。

 今時珍しいものだが、城ならありえる。

 

 城門、これが正面なのだろうという場所であり、昨晩兵士が逃げ込んだ場所でもある。

 突入するにあたってやはりと言うべきかアルティシアとエメルダの二人が先行して様子を見ることになった。

 これは、この二人なら何が相手でも逃げ切ることは出来るという判断からだ。


 アルティシアの風を操る能力はエメルダが言うにはシルフが力を貸してくれているというところであった。そしてそれはそのままエメルダの能力でもある。

 エメルダがアルティシアに短剣を委ねて以来の急成長なのだから、渡した本人がこれを利用できない訳もなく。


 この二人がやはり最高戦力のままである。


 城の正面に、そのまま堂々と突入する。これは無双状態のアルティシアとエメルダであるから出来る事であり、正体の分からない相手にこの様な行動は慎むべきところである、が。

 二人という少ない人数に城の人間も油断したのか、要件を聞き入れる体制へと向かっていた。

 どうやら話せば分かるというタイプなのかも。


「とにかく、一番偉い人と話がしたい」


 日本語が通じることが何よりも救いである。

 そこが崩れては、もっとややこしい事になっていたのだろうから。


 城に常駐する兵士の数は普通の状態でどのくらいになるのか……世界や時代によって違うだろうが、見た限りではおよそ五十人程度。

 アルティシアとエメルダの要求は早急に叶えられる事となる。


 ……殿様との面会の許可が降りたのだ。


 これが洋風の城の造りなら、王様なのだろうが……。兵士の対応もお殿様・・・に失礼の無いようにという言葉遣いであって、やはり日本の歴史上の人物に会う事になるのかと多少の緊張感がアルティシアの頭を過ぎる。


「ふむ……、そなたらがここの住人の代表であると言うのだな?」

「そうですね、私達が知る限りでは人影は少ないようですが……」

「私も山を回って、近場を見てきたけど、やっぱり人は居なかった」


 住人という言い方には少し疑問が残る。……確かに住んでいるけども、この世界の住人という認識ではないからだ。

 だが、ここでの生活はかなり安定してきているのも確かだし、ここは慎重に一応ここで暮らしているという事を告げる事にした。


「ならばここは異邦人の国だという事か……」

「異邦……人?」

「そこの長い耳もそうだが、そなたも瞳が緑ではないか」


 アルティシアという名前で名乗って、瞳が緑。これはそう捉えられても無理はない。そしてこれが仇となる展開になってしまう。

「よもやダメかと思った矢先の出来事……ここが異邦人の住処ならまずはこやつらを人質に国取りじゃな」


 戦国の武将の考えることはこんなものなのだろうか。なんという浅はかさ。世界が違ってもまた戦争をしようよいうのだから。

 まずはそこの二人を捕えよ、という命令が下され、槍を構えた侍がゾロゾロと押し寄せてくる。


「ふうん、そう」

 アルティシアの剣先が殿様へ向けられる。

 この事態はある程度想定内ではあったが……。

「まあ、アタシに刃を向ける事がどういうことかまずは分かって貰うとしましょうかね」


 ひょいと短剣を振りおろし、そして殿様に一瞥する。


「なんじゃ? これだけ囲まれて戦おうなどと」

 こんなセリフの途中にストンと殿様の後ろに飾ってあった掛け軸が斜めに切り落とされる。アルティシアの風の刃で切り落としたのだ。


「こっちはいつでもアンタの首を落とす事なんて可能なんだよ」


 舐めてかかると痛い目にあう、まずここをしっかり学んで貰うとしよう。アルティシアの術中であった。


「ちなみに、アタシは四天王の中で最弱! アタシを倒したとしても更に強いものが待っているんだ! そのアタシに良いようにあしらわれてるんじゃあんたらも底が見えたね」


 この黄金のセリフは多分この時代の人間には効果があるのではないかと、アルティシアの悪ふざけが炸裂する。実際、どうやら効いているようだ。


 この四天王最弱というフレーズが使ってみたくてウズウズしていたアルティシアにはこの展開は美味しすぎる。

「そうだね……二番目に偉い人を連れてきてくれる? 殿様は私等に敵意を見せたのでそれなりの処遇をとって貰うとしようか」


 言うなり、スパッと近くの兵士の槍の先を切り落としてやる。怯える兵士が殿様を牢屋へご案内して二番目に偉い人らしき人物が現れた。

 側近らしく、殿様の心配をしている。

「して、ワシらは何をすればいいんじゃ?」


 最初からこう出てくれれば何も起きなかったのに。


「とりあえず、アンタらを味方に懐柔しに来たんだよ」

「味方……?」


 提案はこうだ。まず食料の確保が難しいだろうからそれをこちらから提供する、その代わりに田畑の面倒を見たりする役目をそちらで担って欲しい。

 農業に関しては、現代人の殆どが素人。

 しかし、科学も魔法もない戦国の人達なら多少は心得があるだろうという打算。


 それから情報の交換。


 この情報が一番欲しいところであるアルティシア達は、ある程度はこちらから踏みよる用意として食事の用意がある事を告げる。

 交渉は成立した。


「殿を牢屋に入れておくのは忍びないのだが……」

「ああ、まあ反省してくれるなら豪華な牢屋だろうがなんだかろうが別にいいんだよ。

 ただし、もしも身内に何かあったらその時は掛け軸が落ちる程度で済まないからね」


 警告はしておいたが、これでどうなるのか。


 箱根の人口が一気に十倍にまで増えた事で、田畑が必要になってきた。それらはホームセンター等に売っている種を買うわけにもいかずそのまま持ち帰り、それを植えることで食料の確保と人材の確保。

 更には人の交流が生まれてきていた。


「もんすたあ?」


 モンスターの説明には、要するに鬼が出るというように対応し、外敵から身を守りつつも国が誕生しようとしていた。


 守る人間と、食料を確保する人間に別れて……。


 だが、守るという言い方はもしかしたら違うのかも知れない。

 何故なら、食料の供給という面では逆に守ってもらっているのだから。


 国や社会のシステムとは、守っていると思われるその存在から守られる事でもあるのだ。


 こうして農業にも手を出しつつ、時は十ヶ月を過ぎようとしていた。



評価ポイントが入りやる気がグングンと引き上がりました!

ありがとうございます。


もうひとつ名言を残してこの話の締めにしたいと思います。


もうちょっとだけ続くんじゃ。


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