おバカはこの話のサラダ的。居るよねこういうの
「ああもう! なんなんだよ! あの二人は!」
「落ち着けってアリちゃん、またどうにかなるって」
「どうにかって、これがどういう状況だか分かってるのか?!」
エメルダが旅立ってから十日程。
有田が回復した事もあり、街の巡回を繰り返すようになっていた。
「居た! 倒すぞ!」
発見したのはモンスターで、何故率先して倒しているのかと言うと、それは食料の確保が目的だからである。
こう言うと、モンスターを食べてるような印象に取られるのでもう少し詳しく説明する。
この人の居ない世界において大事な物は食料であるが、巡回に出るようになってからいくつかのビニールハウスを発見していて。
その中の野菜類がまだ生きているという事を確認し、そして保護するようになっていた。
それ故に、野生生物やモンスターが忍び込むのを監視巡回しているのだ。
それにこれなら人の捜索にもなるので一石二鳥。
箱根に拠点を置いてから、全く生活のスタイルが変わっているが、中でも野菜がナマで採れるのはかなり有難い発見であった。
リサが妊娠しているという事は、ローガンの勧めで皆に知れ渡っていた。
ローガンが医者であり、最初に相談を受けていた事もあっての事なのだが、有田は少しだけヤキモチを焼く羽目になる。
だがこれはいずれ分かることなので、ハッキリと今のうちに隠し事をしないで堂々とした方が気持ちも楽になるというので有田も納得はしている。
他にはトイレで溜まった汚水だが、これの行き先が畑へと変わった。
良い肥料になる筈である。
また、野生動物の中には食べられる動物もいる。シカやイノシシだ。
これを魔法の短剣で遠目から狙い撃つ事が出来るようになってからはある程度狙って狩りもしようという話になった。
ただ、捌くのは誰もやりたがらない状態が出来上がり、仕方無しに有田とローガンが交代で行っていた。
モンスターの死骸については放っておくか議論がなされたが、結局埋める事になった。
土に返すのが一番いい。
電気のない状態で肉を保存するのは無理があるかと思いきや、ソーラーパネルを揃えてある程度の電力を蓄える事に成功していて、冷蔵庫用の電力は確保出来た。
拠点としての能力は充実して、そして安定してきていた。
「アリちゃんその剣あったらトレーニングとかしなくてもいいんじゃないの?」
「ん? そういう訳にはいかないよ、筋肉は絶対必要だって!」
「でもナ、俺が槍で武装する意味がないくらい一人で戦えてるじゃん」
相手はゴブリン。これもRPGではお馴染みのザコだが、もしも何にも持たずにこの世界で彷徨っていたならザコとは思えないような相手になるのだろう。
何しろ、都合良く自分のステータスが見えたり、逃げるを選べば自動で逃げれたりはしない現実なのだから。
それに加えて多少でも身体を動かすのをサボっているとすぐに鈍ってしまうというのもゲームでは起こらない事。
……有田が足を痛めてから少し動けない時期があったのだが、その間休んだだけで腕立てやら腹筋やらで付いた筋肉は元の状態にまで落ちてしまっていたからだ。
さて、このゴブリンを倒すやり取りを物陰から伺う人影が二つ。
姿は人間の姿だが、出るに出られずにそのまま様子を見ているが、それはなんでかというと何しろ倒し方が異常だからだ。
……魔法を使っている。
とにかく命辛々と逃げ回って、途中でやられた仲間もいたし、生きているのが奇跡というような感覚のその二人にとって有田達との出会いはまさに革命的で。
希望そのものである。
だが、同時にモンスターを軽くあしらえる能力を持っていることに躊躇いを感じていた。
「ねえ、ケンちゃん、もうワタシお腹すいたしー。普通に出て行ったら助けて貰えるよぉ」
「バカヤロウ! 今まで色々あったろ! 食べれるものが限られて以来みんな荒んじまってんだ……スミコはもう少し考えてから行動するようにしろって」
「あ、でも車から降りてあのビニールハウスの中入ったみたい……何か作ってるのかなぁ」
なんだかんだ言っても腹は減る。ギュルルと腹の虫がGOサインになり後押ししてくれて足を前に踏み出す。
「こ、こんちわー! あの、いい車乗ってらっしゃいますね!」
挨拶は基本。また、相手の事を褒めるのも基本。
「え? あ、人が居たなんて!」
「おいおい、しかも二人居るゾ?」
ここで自己紹介タイムに突入した。有田達が先に自己紹介をしたからか、本名を名乗らずにケンとスミコという名前だけで応対する二人。
そして、ここまでどうやってきたのかだとか、どんなモンスターに遭っただとか。
今までの経緯を話し合い、そして拠点に二人を案内して少し遅めの昼食を取る事になった。
出てくる料理は、良く冷えたサラダや、鹿肉としいたけの炒め物だとか……。
二人にとってこれはまるで別世界の食べ物。と言ってもここが本当に異世界な訳だが。
この料理をもってますます不思議な気分になる二人。
「あのーすみません……こんな料理に出会えるなんて……どうしてこんな料理が出来るんですか?」
「ええ、ソーラーパネルを設置しようって話がまず持ち上がりましてね、僕も出来る限り協力しようと思ったんですよ」
ローガンの受け答えが一番大人らしく紳士的なのは医者であったのだし当然だろう。拠点となる旅館は前のまま。これはエメルダが帰ってくる事を期待して、そして目印として動けないのだ。
本当ならここよりも更に森に近い場所に湧水があるので、そちらの方が何かと都合が良い。
だが、エメルダの帰りを待つという姿勢は崩したくない。
「わかりましたよ! でも、この設備に辿り着ける人間なんてそんなに居やしない! だからこちらから探しに行ったらいいんですよ」
「ワタシ、ケンちゃんの行くところに付いていくわ!」
「ああ、いやその、エメルダって言うエルフの少女が帰ってくるかも知れないし、出来るだけここは離れたくないんだよ」
この理由はもっともなのだが、これは新顔の二人にとっては別だ。なんとか人に出会えて、そしてモンスターに襲われて死別し、為すすべもなく逃げ延びて来た二人とは意見が違っても仕方ないところだろう。
新顔のケンとスミコにしてみれば、あの時助けられたかも知れない人間が居るのだし、出来るだけ多くの人間の為に、精霊の短剣を使うべきだと考えるのは妥当だった。
話の流れで短剣からあの魔法が発射されていると言う事は伝わっていて、そしてケンがもの珍しそうに短剣を眺めていて……。
その短剣の力があれば、残してきた人達やまだ見ない人達を救えるかもという考え方は、この二人にとっては正義。
互いに違う考え方があり、そしてどちらも正しいとなると、それはぶつかる。
ぶつかり合う。
「じゃあ、二手に別れて探すのは僕達がやりますから、この短剣はお借りしますね」
「どうしてそうなるんだよ、いきなり出てきて武器を貸してくれなんてさ……その短剣は本当に大事なものなんだよ、返して」
「嫌ですよ、これさえあれば守れたかも知れない命もあったんです!」
今、短剣を手にしているのはケンという男だが……少し短絡的というか、考えが浅いというか。まあ、こういった手合いはどこにでも居るのでまともに相手をするとバカを見る。
横取りして、その力で助けに戻りたい……。
しかしこれは、相手の武力を奪う事に他ならない。
当然ながら、有田もただであげるという訳にはいかない。
「……その剣で守って来た命だってここにあるんだ、それを横取りしようなんて虫のいいはなしじゃないか?」
「横取りって、あなただって人殺しでしょう」
「なに?」
人の痛いところを突く、この有田とリサの出会いの事も話していたのが裏目に出た。こうして人の痛いところを突くのはこれは攻撃だ。
そしてその攻撃にさらされて有田はピンチであった。
有田も、それは後悔している事柄である。
「人殺しの手にあるよりも僕が持ってた方が安心ですよ、それにもし守るというのなら作った槍があるのでしょう? それで守ればいいじゃないですか」
「分かったよ、持ってけば?」
「分かったって……何がですか?」
「アンタはそれで人を守る、そう言うんなら仕方ないよ」
これは武器を奪われているし、この短絡的な男に挑発行為を行う事は危険であると判断しての言葉であって本心は全く違う。
「そうですか、なら、運転も出来る方がいいし……誰か一緒に来ませんか?」
「おい、俺達はずっと一緒にやってきたんだゾ、それを好き勝手言いやがって」
「行かないよ、みんな……それくらいボクだってわかるょ」
ケンは不満気ではあったが、それでも車は借りていくよと言い残して、精霊の短剣と車をもってスミコと共にその場を去って行く。
後に残る嫌なムード。
最初に言葉を口に出したのは有田だ。
「ああもう! なんなんだよ! あの二人は!」
「落ち着けってアリちゃん、またどうにかなるって」
「どうにかって、これがどういう状況だか分かってるのか?!」
ようやく、新しい人間に出会えたと思ったらまたこんな思いしなきゃならないのか。そんな考えで頭の中がいっぱいにされている有田。
結局のところ、また手製の槍で戦うしかないのだが……。
ハッキリ言って大幅な戦力ダウンになる。
とにかく、今度は槍を何本か作ろうという話になり再び槍を手にする事となった有田。
「これがあの短剣みたいな効果があればなぁ……」
気まぐれに、手に取った槍で玄関から見える遠目の木の枝めがけて、短剣と同じ要領で振り抜いてみる。
……スパッと、切れる枝。
「あれ……?」
何度か試してみる。スパッと何度も何度も試して、もう疑いようもなくこの魔法が発動する事を確認すると、有田の顔にも余裕が浮かんで来た。
皆を集めて事情を説明すると、皆の顔にも笑顔が戻っていた。
その後、誰が振っても同じ効果が得られるわけではなく、有田だけがこの能力を使えるという事が判明した。不思議な事ではあるが、魔法とはそうしたものなのか。
この事象から考えられる事は二つ。
一つ目は、あの短剣を使う事で誰でも魔法を使えるようになるという事。そうすれば皆が皆魔法使いに早変わり出来る。
二つ目は、短剣の能力が有田に宿ってしまったという場合。これは短剣を奪っていったケンという男も含めて魔法が使えない事になる。
こうなるとケンが車を奪ってまで助けに行った行為そのものが危険だ。
まあ、自業自得なのだが。
そしてそれは、全く意図しないところで別の面倒を引き起こしていた。
「あ、あったよ! ガソリンスタンド! あそこで給油出来るって言ってたわよね!」
「焦るなって、まずは周りを見渡して安全を確認してからだ」
ケンとスミコである。この二人は本気で人助けをしたかった。
このガソリンスタンドでモンスターに襲われるまでは。
「あ! サルみたいなモンスターだわ!」
「よーし、この短剣があれば僕だってやれるんだ……くらえ!!」
スカッと。虚しく空を切る短剣。
……つまり、考えられる事の二つ目が当たりだったのだが。
「な、なんでだ?! 刃みたいなのが、ビュッと飛んでいくんじゃないのか?!」
「ケンちゃん! 早く乗って!! ここは危ないわ!!」
急いで車に乗るケンと運転を任されたスミコ。
「……畜生、あいつら知っててこの短剣だって渡しやがったな……バカにしやがって!!」
「ケンちゃん……」
逆恨みも甚だしい、とはまさにこんなところか。善意で、守るのなら仕方ないからと言われていても、渡された短剣から魔法が発動しないだけでこんな風に食い違う。
考えの浅い人間は、こうして道を踏み外していく。
自分のせいだとは知らずに。
この異世界も1ヶ月の時間が過ぎていた。
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