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『作戦会議』


「真実を抉り出す……ねぇ。流行りませんよ、その言葉」


 外道すぎて。

 もっとこう、真実はいつもひとつとか、俺の瞳には真実しか映らないとか言えないのだろうか。


「何を言ってるのかな、みっちー」


 ぱはー、とため息をついて、大袈裟に肩をすくめる黒木さん。

 ワカッテナイナーとでも言いたげである。

 

「女の子は心の中のどこでMな素質を持っているんだよ」

「なんてことを言うんですか」


 あらゆる女の子に対する暴言である。


「ほら、男の子は好きな女の子に意地悪したくなる生き物だろう?

 同じように、

 女の子は好きな男の子に意地悪されたがりなのさ」


「黒木さん、地球はそこまでうまく回っていません」

 

 したり顔の黒木さんにピシャリと言い返す。

 

 あと私が黒木さんのことを好きであるかのように言うのをやめてほしい。

 私が好きなのは黒木さんの顔、そして肢体だけである。

 綺麗なところだけなのである。


「本題に入りますけど、

 結局黒木さんの指摘したいメルちゃんの話の矛盾点とは、なんですか?」


 メルちゃんが私達に語ってくれたこと(と私たちが観察していて気付いたこと)をまとめると。


 ①メルちゃんは超至近距離に迫った人を殺しかけてしまう(好意とか殺気とかはあまり関係ない)


 ②メルちゃんは格闘技が受け継がれている由緒正しいお家のご出身。話を聞く限り、

  ご家族との仲は(例外を除き)良好のようである。


 ③メルちゃんは誘拐された経験がある


 ④メルちゃんには双子の兄がいる。名前はレイ。

  彼がメルちゃんを追い詰め、①のきっかけを作った張本人。


 ⑤今メルちゃんは、メルちゃんに良くしてくれていた叔母さんと今二人暮らし。


 以上である。


 黒木さんはソファの上でスラリと長い脚を組み、

 私はその様子に釘付けになり、コーヒーを飲みそびれたが代わりにすぐ上記のメモを出し

 黒木さんの前に差し出した。


「流れ作業のように気持ち悪いことをするな」

 自然にやったと思ったのに、そのあまりの自然さが違和感を発したのか、黒木さんに窘められてしまった。


 罵倒するなら罵倒するような顔をしてください。

 笑顔でしないでください。 

 麗しいけども。


 黒木さんは私のメモをピラピラと興味なさげに振る。


「さて。

 ここであからさまな矛盾点だ。

 まず、②と⑤」


 メルちゃんのお家事情と、

 叔母さんと二人暮らしをしているという点。


「ご両親との仲が良好なら

 叔母さんと出て行こうとするのを止めるはずだ。

 それかどちらかが心配して一緒に出て行くはず。


 そう思わないかい?

 

 メルの話がもし本当なら

 ご家族はメルちゃんに何か隠してるか

 単に愛情が無いね」


 ニコニコしたまま、メルちゃんの残酷な事情を推測で喋る黒木さん。

 並みの外道で無い。

 おそらく、ゲーム感覚でこういうことを言っているんだろう。


「③との話もそう」


 双子の弟、レイの話。


「普通、ご両親が、息子娘がほぼ殺し合いに近いことをしているのを見た場合、

 止めないかな?

 絶対に見ない、聞かない、なんの痕跡も残さない、というのはあまりにも現実味が無い話だ。

 話を聞く限り、レイは感情と行動が直結しているタイプだからね。

 冷静さがそんなに備わっているとは思えない」


 言われてみれば確かに、と思うようなことばかりだ。

 少し勝手な憶測も混じってると言えるが。

 

 メモ紙が、黒木さんの指と指の間で弄ばれる。

 なんとなく、行き来をするメモ紙を目で追う。



「メルがその件に関して、何の疑問も持っていないこともまたおかしい。


 この件はもっと人が関わっていると思うな。

 それか、俺達が何かを見落としているのかもね。


 何にせよ――」


 黒木さんの言葉が一旦途切れる。


 そしてソファに預けていた体を起こし、私のことを真っ直ぐ見据えた。

 しっかりと私を見つめてくる灰色がかった瞳は見るだけで吸い込まれそうになる。

 こうして真っ直ぐ見据えられているだけで、何か神々しい何かと向き合っている気分にさせられるのだ。


 自分が急に、ちっぽけになったような気がしてくる、圧倒的な美しさ。


 しかし、この人がこうやって私を対等に見つめてくるときはろくなことがない、

 と私は知っている。


「なんすか。

 言っときますけど、パシリはしませんからね。

 今日私バイトの時間外なのに来てますし、大学の課題だって終わってないんですから!!」


 そうなる前に先手必勝、と彼の言葉を封じにかかる私。

 黒木さんは最初そんな私を見てニヤリと笑ったが、

 

 急にしおらしい顔へと変貌を遂げ

 少し沈黙し

 私をチラッと見て、視線をそらし

 何を言うのかと思ってみていたが



「そう……」


 と言って、しおらしく寂しそうに、至極人恋しそうに、悲しい顔をしたのだった。

  

「やらないとは言ってないでしょうがああああああああ!!

 もう!!

 何をすればいいの!!

 どんな非合法なことをすればいいの!!」


 私の負けである。

 

「そのチョロさはもう気持ち悪いを通り越して、一週回ってまた気持ち悪いに戻ってくるくらい気持ち悪いね。

 あと俺が非合法なことをさせると決め付けているところも良くないと思うなー」


「前科があるんですよ、前科が!!」


 前者は確かに私が悪い。6:4くらいの確立で、この人に何を頼まれても断れない私が悪い、が

 まるで清らかな善人のように発言するこいつも責任があると思う、っていうかその前に

 すごく腹が立つ何かがある。


「まあ、そんなにカリカリしないでよみっちー。

 そんなに難しいことは頼まないよ。

 

 あと課題を終わらせられないのは、残念なその脳に問題があるから俺は面倒見ないからね」


「え-―黒木さん頭良いじゃないですかぁ見てくださいよー」


 この言葉に嘘は無い。

 性格以外はパーフェクト、のこの人に『頭が悪い』などというバグは発生しない。

 まずその項目をチェックする必要すらないかもしれない。


「頭の良い人間には勉強を教わるものじゃないよ。

 頭の悪い人間の気持ちを考えれる人に教わる者。


 俺にはそんな気持ちの余裕無いしそんな余裕持ち合わせるくらいだったら、外道に磨きをかけるよ」


「もうすでに宝石のように輝いているのに、それ以上どう磨くんスか」


「ほめていただけて光栄だよ」


 ふんわりと微笑む黒木さん。

 これがもしサイレントの映画だったら何人の人間が彼に惚れていたことだろう。


「で、みっちー。

 俺は叔母さんにも会いに行こうと思ってるし、


 

 さらにメルの実家にも行く気でいるけど。そこに付いてきて欲しいんだ。

 

 それが俺の頼みごとなわけだけど、いいかな?」


 やっぱりろくなことじゃねぇぇぇぇー。

 当たり前のことのように聞かないで欲しい。

 私が『ハイ』と返事をすることが分かっているかのような、そんな言い方をやめてほしい。


「まぁいいっすけど」


 ほら、ハイって言ってない。私。エライ。


「でも、普通身辺調査とかから始めませんか?

 急にラスボスに会いにいくみたいな、そんなこと……」


「俺のゲージは、魔法も体力も運もいつも満タンだから、雑魚を倒してレベル上げなんてしなくてもいいの」


 自信満々な黒木さんである。

 ここまで来るといっそ羨ましい。


「でもまあ、俺は今日は眠いから、明日から活動開始します。

 明日は土曜日だし。休みだよね?」


 喋りながらサッと身支度をする黒木さん。

 彼の家はすぐこの裏である。中々豪華なマンションの一部屋だったり。

 もう少し事務所に金を注いでくれても構わないと思うんだが。


 そして私は貴重な休みを課題に注ごうと思っていたのだが、今アッサリと潰された。


 いつかはこの地位を逆転させてみたいものだ。

 いや、いつかはホルマリン漬けにしてやる。この理不尽上司め。


「まず明日は叔母さんの家から行こうかな?」


 と、楽しそうな黒木さん。

 鼻っ面をへし折りたくなる綺麗な笑顔である。


「仕方ないですね……」


 と、言い終わらないうちに、事務所の古ぼけた電話が鳴る。

 急な電子音に少しビビるが、事務所の雑用らしくそこはきちんと出る。



「はい、もしもしこちら人生方向――」





『今日、東宮メレディスがそっちに行っただろ』





 ドスの聞いた男の声が、私の耳の中で反響する。

 

 穏やかではないその口調に、私は黒木さんに目線を送る。

 黒木さんは多分訴えが通じたのか、私が耳に当てている受話器の近くに耳を寄せ、聞こえるようにする。


「……どちらさまでしょうか」



『そんなこと言う必要は無い


 

 ただ一つ





 東宮メレディスには関わるな。 分かったな?


 お前らの身が滅んでも知らないからな』


 それだけを言って

 ガチャッと受話器を乱暴に置く音と、

 通話終了を告げるツー、ツー、という音が木霊す。


 男の声は冗談を言っている風ではなく、

 さすがに私も恐怖を感じずにはいられなかった。



「楽しいことになってきたぁ!!」




 それだのに、


 楽しそうに笑うこの男を見ると、悪寒が背中の上で走り回るのだった。








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