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『準備開始』


 あんまりにもだんまりを決めこんでいる黒木さんを見かね、私が口を切った。


「なるほど。メルちゃんがなんで困ってるのか、分かりました。

 今言ったことを調査書にまとめて、後日また対処法を話し合うことになりますが、よろしいでしょうか?


 いくらなんでも、新情報が多すぎますので」

 

 私は事務的対応としてそう言ったのだが(今の情報が本当ならば色々とまとめないといけない)

 彼女は「なんでもっと早く言わなかったんだ」という意味でとってしまったようで

 ごめんなさい……とスカートを握り締めていた。


 可愛い。女子中学生超可愛い。

 にやけを通り越し、真顔を通り越し、劇画タッチの顔になってしまうくらい可愛い。

 メル可愛いよ。可愛い。


「そんなにコイツのこと怖がらなくていいよメル。

 冷たい対応に聞こえたかもしれないけど、

 多分今すっごく気色悪いこと考えてるだけだから。

 

 まぁとりあえず、そういうことだから今日は帰りなよ」


 ツッコミが機能を停止すると、きちんと経営者らしい態度をとる黒木さん。

 空気は読める黒木さんなのである。

 読もうとするか否かは置いておいて。


 多分その空気を読むことと、彼の中の何かの利益とか合致しただけなのだろう。


 何度も言うが、小さな少女の涙に動かされるくらいの人の心を、この人が持ち合わせているならば

 私は苦労しない。


 メルちゃんが黒木さんの言葉に、こくん、と小さく頷くのを見て

 私は彼女を事務所外まで送り届けることに決めた。

 勿論、一定距離を取って。


 しかしそういう態度に出ている私を見て、傷ついたのかメルちゃんは元気を出さない。

 もう送り届けるところまで送り届けた、というところで

 私はメルちゃんに手を振って、「バイバイ」としようとした。

 が、メルちゃんはそんな私を、


「待って、ちょっと」


 と、少し大きめの声で呼び止めたのだった。

 私がぴたりと足を止めたのを見て、安心したように音量を下げてまた喋りだす。


「さっき、言いそびれたわ。


 その、さっきはごめんなさい」


「あ、いや私は全然大丈夫です。

 結局怪我したのは、黒木さんですし」


 自分で言っておいてあっちゃー。

 借りを作ってしまったよあの男に。地獄で何億年か働かされそうだ。


「……あの男にもごめんなさいって言っておいて」

「それは必要ない(即答)」


 あまりの即答のしように、まんまるで綺麗な瞳と共に、怪訝な表情を向けてくるメルちゃん。


「あなたあの男のこと嫌いなの?」


 おっと。これは誤解を生んでしまったようだ。

 少し咳払いをして、ニコッと営業スマイルを浮かべる私。


「大好きですとも」

「どこが」

「顔が(即答)」

「アンタよくわかんない人ね……」


 おかしい。返事を誤ったようだ。

 しかし私の中にこれ以外の返事は存在しないのだった。残念なことに。


「でも」

 と言葉を接ぐメルちゃん。


「アンタ、弱いくせにあたしを止めようとしてくれてありがとう。

 ちょっと嬉しかった」


 はにかんだ笑顔に、暮れてきた夕日の光が万遍なく注いで、全体的にオレンジ色に染まった。

 明るい髪の色や、また結い上げたかんざしの金色がキラリと夕日に映えて、

 とても幻想的だ、と思った。

 

 そう、同時にこのツンデレ少女可愛いな砂糖の山に突っ込んで食ってやろうか、とも思っていました……。


 でもそれはまた別の話。


「いいえ、私は私でできることをしたまでですよ」


「うん。

 でも」


 でも、がという接続詞が多いツンデレ少女である。

 もしかしてツンデレ少女の特徴なのだろうか。


「もし、この癖が直ったら、友達の一人にならせてあげてもいいわよ、アンタ」


 出た――――――!!

 高飛車ツンデレ常套句!!

 上から目線!!

 その意見は高慢、しかし憎さ余って可愛さ百倍万倍!!

 あえて下から這い登って付き従いたいくらいの愛らしさ!!

 イエスマイロード!!

 舞road!! 可愛さが舞ってロードレェェェェェス!!


「ありがとうございます」


と、私ははにかみ返し、二人で笑った。


 心の中では、もう心の色んなところが小さく爆破しているのだが

 そこは隠し通せるくらいの度量を持ち合わせている。もう大人だから。

 メルちゃんと出会いたてのときは、少しはしゃいでしまったのでノーカウント。

 

 あと、黒木さんにいたっては私の気色悪さをもう十分に知ってしまっているので

 そこに隠す必要はない。


 そう、しかしこの「ふふっ。約束だからねっ」とピュアピュアに微笑んでいる少女には隠し通さなきゃいけないんだ。

 

「そういえばアンタ、名前は?」


 高飛車可愛いです。

 ストライクゾーンが広い? 何を言う、私は綺麗な物をみな愛しているだけだ。


更科満さらしなみつると言います。更に、の更で科学の科。満たす、と書いて満です」


「満ね」


 名前呼びとはやりおる。


「それじゃ、またね、満」

「ええ、また」


 私は今度こそメルちゃんとお別れをし、事務所に戻った。

 事務所の中は先ほどと変わらないのだが、

 黒木さんの表情は一向に浮かばれない。

 笑顔なのは変わらないのだが、何かを考えているようだ。


「黒木さん、どうしました?」

 

 私の呼びかけに、やっとハッと我に返ったようで、ふう、とため息をつく黒木さん。


「なんだ、セントバーナードかと思った」


「失礼にも程がありますよ!!

 そんなに私の顔はひどくない!!」


「酷いよ。俺と比べてみなよ」


「酷かった」


 思わず条件反射のように即答してしまう私。

 そりゃお前と比べりゃな。大体の人間が酷くなりましょうよ。


「あと今のはセントバーナードに対する差別だから謝っとけな。動物愛護団体に」


「へいへい。

 で、黒木さんはどうしたんですか?」


「実はね、俺は知能を持った人間だから『考える』ということをしているんだ」


「暗に私が知能の無い人間かのように!!」


「みっちーが人間だと? 思い上がるなよ」


「えええええええええええええ」


 ビシッと形の良い指を突きつけられてしまった。

 黒木さんは私の反論を意にも介さず、近くにあった伊達メガネを取り(性格以外パーフェクトな黒木さんに、『目が悪い』なんてことはありえない)ゆっくりとかけた。


 色っぽい。

 二度美味しい美形である。


「どう? まだ感想を聞いてないんだけど」

 

 切れ長の瞳で流し目なんぞしやがる黒木さん。

 まったく調子に乗っている。


「その奇跡かと見紛うような美形と伊達メガネなんて言うのは鬼に金棒レベルでもう私のハートにずきゅんずきゅんと

 トキメキの嵐を起こして、私はその真ん中で囚われて動けないからあんまり見つめないでほしい

 いややっぱり見つめて欲しい、と変な葛藤が起きてしまい魅力的すぎて脳髄が痺れるほどですがそんな話は

 今はどうでもいいんです早く話を戻してください」


「遅いよ。

 バンジージャンプ後に紐を渡すくらい遅いよ」


 バンジージャンプに失敗して死んだとでも言いたげですね。

 手遅れ、と言いたいのでしょうか。

 まさしくその通りだけどほっといてくれ。


 ちゃっ、と知的に、筋の通った鼻の上にメガネのフレームを滑らしていく黒木さん。


「いいかい、満。

 お前は地球人に限りなく近い何かであり、哺乳類では無いから思考回路というものが

 ついていないのは仕方の無いことだけれど、

 残念ながら俺は思案というものができる人間だから、

 色々とメルの話で引っかかったことがあるんだよ」


 黒木さんはまるで呼吸でもするかのような滑らかさで私を次々とバカにする言葉を思いつく。

 それはいっそ感心してしまうくらいだ。


「メルちゃんの話に、ですか?


 あまり何も思いませんでしたけど……。

 双子のお兄ちゃん病んでるなー、ぐらいにしか」



 黒木さんは私の座っているソファーに長くしなやかな足をガンッとぶつけ

 私をハンッ、と見下ろす。

 夕日のオレンジ色の光は、メルちゃんの表情の上ではキラキラしてみせたけど

 この男の表情の上では、笑顔に影を落として高慢な印象が増すだけである。


「このMK5が」


「マジで 恋する 五秒前?」


「みつるマジ 殺したいくらい 5ミクロ脳」


 ええ。

 ありえない。

 一瞬私に好意を抱いているのかと思った私もありえないが。

 黒木さんは私の頭にスラリと細い肘を乗せ(結構痛い)もう一方の腕をミュージカルのように広げ語る。


「おかしいんだよ。

 

 彼女の話だけじゃ辻褄が合わないんだ。

 でも彼女の話が嘘じゃないとすれば。……いや、様子を見る限り本当のことを喋っているようだが


 この件、もっと何かあると思うね



 多分彼女さえ知らない、大きな何かが」

 

 もったいぶった言い方をする黒木さんである。



「探り出すってことですか? 探偵ごっこでもして」


「まさか!!」


 やっと目線をこっちに向けた黒木さんは、

 しばらく見なかったくらいの本物の、楽しそうな笑顔を私に向けて





「引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、

 

 真実を抉り出すんだよ!!


 楽しみだね、みっちー!!」




 と、外道なセリフを言うのだった。

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