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第六章第六話
まさに心に隙があったとしかいいようのない出来事だった。
好事魔多し、とは良く言ったものだ。浮かれている時は足下を掬われることが多い。注意力が散漫になるのだろうか。
その日、することもない土曜の夜、若い私は家でだらだらと寛いでいた。そこへ俊ちゃんから電話が入った。今夜、いつも練習している楽器屋でライブの練習するから聞きに来ないか、という誘いだった。暇を持て余していた若い私は、二つ返事で行く約束をした。 俊ちゃんからは、先に楽器店で練習してるから、コージが俊ちゃんの家に来るから、乗せてあげてくれ、と頼まれた。コージは昔一緒にバンドを組んだ仲間だったが、今は、たまに会うくらいだった。若い私は、いいよと軽いノリで請け負って、バイクに跨がって家を出た。風はもう冬の北風だった。