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第三章第六話
若い私は家に帰るとすぐにのぶひでに電話した。
若い私は家に帰るとすぐにのぶひでの家に電話した。しかし、のぶひでは留守だった。まだ携帯電話などない時代だったから、のぶひでからの電話を待つしかなかった。若い私は、揺れる思いで胸がいっぱいで、ベッドに倒れ込むように、眠ることしかできなかった。 母の呼び声で若い私は目を覚ました。「のぶひでくんから電話だよ。」少しだけ眠ったはずだったのに、あたりはすっかり暗くなって、時計は夜9時を回っていた。私は電話に出た若い私と同化した。
のぶひでが相変わらずの調子良い口調で話し始めた。「どうだった、初デートは?」「どうもこうもねえよ。」「何だどうしたんだよ。」「来なかったから、話しようがねえよ。」「どうして?」「それは俺が聞きてぇよ。」のぶひでは気まずく沈黙した。