プロローグ すべてが始まった日
――この世界が『ゲーム』であると、私は知っていた。
いいや、ゲームそのものではないかもしれない。
この世界はゲームとは思えないほどリアルだったし、人々も本当に生きているとしか思えなかったし……自分が傷つけば痛かったし、誰かが死ねば悲しかったから。
だから、ここはきっとゲームを元にした世界。生前よくあった『ゲームの世界に転生しちゃった』系の物語だと思う。
この世界における私の役割は、冤罪によって処刑される公爵令嬢。婚約者である王太子に裏切られ、断頭台の露と消える運命だった。
そんな未来を知りながら、私はその運命を変えようとはしなかった。
――冤罪によって処刑された貴族令嬢。
その処刑を目撃した『勇者』が王権打倒を決意して、長い長い戦いを経て――国王の身体を乗っ取った魔王の存在に気づき、魔王を打ち倒すというハッピーエンドに繋がるから。
私が死ななければ、勇者がこの国を敵視することはない。魔王が乗っ取った国王の命令に従い、無茶な戦いに駆り出され、いずれどこかで戦死してしまうはずだ。
私だって死にたくない。
でも、私が死ななければ、たくさんの人が死ぬ。もしかしたら魔王に人類が滅ぼされてしまうかもしれない。
……どうせ一度は死んだ身だ。
死んで、この世界に転生した身だ。
ならばもう一度死ぬことなんて怖くない。
もしかしたらまた転生できるかもと考えれば、むしろ楽しみにすら感じられる。
そうして私は運命通り王太子に裏切られ、無実の罪で投獄されて。
食事も満足に与えられない中。空腹に耐えながら。ただただ処刑の日を待っていた。
あぁ、お腹空いた。
何か食べたい。
できることなら、美味しいお肉。
前世でも、滅多に食べることができなかった、お肉。
せめて処刑前日の、最後の晩餐にお肉料理でも出ないかしらと私が考えていると――看守たちの雑談が聞こえてきた。
いわく。勇者フェイスが死んだ。
訓練中の不幸な事故だったらしい。
こんな簡単に死ぬような存在に国の未来は託せないと、国王は次の勇者の選定を取りやめたという。
あぁ、なんということだろう。
勇者フェイスが死んだという。
そんなルート、ゲームには存在しなかった。だって彼は主人公なのだから。たとえHPがゼロになっても、最後に立ち寄った教会で復活するのがお約束なのだ。
なのに勇者は死んで、国王はもう勇者を選定しないという。
……私はなんてバカだったんだろう。
いくらゲームの世界だからって、ゲームの展開通りに話が進むとは限らなかったのに。ゲームみたいに勇者が復活することはないのに。私の断罪から投獄までがゲーム通りに進んでしまったから、勘違いしてしまった。
私は、間違えた。
運命を受け入れるべきではなかった。
もっと積極的に運命を変えるべきだった。
唯々諾々と王太子の婚約者になどならずに、冒険者にでも騎士にでもなって、勇者フェイスの力になれば良かったのだ。すぐ近くで彼を守れば良かったのだ。
でも、もうすべては遅すぎた。
勇者フェイスは死んだという。
他にも勇者たる人間はいるかもしれないけれど、ゲームの主人公であるフェイスほどのスペックがあるとは限らないし、フェイスだからこそ仲間になったキャラクターはたくさんいる。
魔王を倒すには、勇者フェイスと、仲間たちの力が必要だ。
ならば――
私は――
――世界を巻き戻そう。
この命を犠牲にして。もう一度、勇者フェイスが生きている時間まで。
どうせこのまま待っていても処刑されるだけの身。ならば『世界』のためになる使い方をしてしまいましょう。
「――――」
指先を歯で噛み千切る。
牢獄の床に魔法陣を記す。
痛みがどうした。
これから人々が受けるであろう苦しみを思えば、指先程度の痛みなど我慢できる。
自らの存在を犠牲とした大魔術。
たとえ時間を戻せても、贄となった自分が戻れなければ意味がない。だからこそ誰にも顧みられずに忘れ去られたもの。
でも、私は知っている。
ゲームの知識として知っている。
おそらくは、この世界の誰も知らない裏技。
――神様。
我が身を捧げます。
だからどうか、時間を巻き戻してください。
勇者フェイスが生きている時間まで。
魔王を倒せる可能性が残っている時間まで。
神様。
どうか、お願いします――
そうして。
世界は、巻き戻ったのだ。
※これにて一旦完結です。
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