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従魔登録


 そんなこんなで街の入り口となる城門に到着し、門番さんに事情説明。


「え? 魔物? そりゃあちょっと無理じゃないかなぁ」


 と、頭を掻きながら答える門番さんだった。


「テイムしてあるんですけど、それでもだめですか?」


「え? テイム? それなら……いや、まずは確認だな。ちょっと待ってくれ」


 頭をボリボリ掻きながら奥に引っ込む門番さんだった。


 門番とは騎士団がやることが多いのだけど、辺境伯領には二種類の騎士団が存在する。私の左遷先だった、王都から派遣された第八騎士団と、辺境伯の私兵という扱いの騎士団だ。


 もちろん辺境伯が自分の領都の治安維持をよそ者の第八騎士団に任せるはずがないので、門番は辺境伯の騎士団が持ち回りで行っているらしかった。


 ちなみに。なぜ辺境伯の騎士団がいるのに王都からやってきた第八騎士団までもが駐屯しているかというと……ここが王国にとっても重要な、魔物との戦いの最前線だからだ。


 つまりあのオークより残念な騎士団長は積極的に魔物を狩り、いざというときは現地勢力と協力しつつ領都を守らなければならないのだけど……うん、実態はあの通りだ。


 魔物と戦う騎士団だからこそ高い練度を維持しなければいけないのに、魔物と戦う『卑しい』騎士団という理由で左遷先となり、必然的に練度も下がってしまったと。


 あとは真面目に仕事する現地騎士団がいるから余計に腐りやすかったとか?


 まぁとにかく。因縁ある第八騎士団だったら私に対してぞんざいな扱いをしてくるだろうけど、辺境伯の騎士団はそんなこともないので冒険者ギルドに連絡を取ってくれた。


 ギルドから派遣されてきたのはギルドマスターであるギルスさんと、見慣れない老婆。細やかな装飾が施された紫のフードを被っていて、なんとなく占い師っぽい雰囲気を纏っている。


「ったく、テイムとは、また妙なことをしたもんだな」


 呆れたような顔をするギルスさん。きっと彼なりの照れ隠しでしょう。


「……どれ、少しばかり鑑定してみるかね」


 と、老婆が皺だらけの手をトカゲ(?)に伸ばし――噛まれた。かぷっと。


 めっちゃビックリした私だけど、老婆に驚いた様子はない。どうやら甘噛みだったみたい。


「……ほれ、ギルス。人に対して危害を加える様子はない。ちゃんとテイムされているようじゃよ」


「あー、まぁ、婆さんがそう言うのなら安心か。よし、とりあえず仮の許可証を発行するから、中には入れるぞ。すぐにギルドに来て本登録をしてくれ」


 ギルドが馬車を用意してくれたので、暁の雷光のみんなと一緒に乗る――直前。老婆が私の服の裾を掴んだ。枯れ木のような腕からは想像もできないほどの力強さだ。


「お前さん。アレ(・・)が何か分かっているのかい?」


「もちろん。可愛いトカゲですよね」


「……なら、ちゃんと名前を付けてやることだ。悪意には悪意を。善意には善意を返すのが生き物というものだからね」


「はい、分かりましたお婆さん」


「ったく、どいつもこいつもあたしをババア扱いして」


「おっと、これは失礼しましたお姉様」


「ふん、分かればいいんだよ、分かれば」


 満足げなお婆さんが手のひらを指しだしてきたので、鑑定費として金貨一枚を支払ってから私も馬車に乗り込んだ。





 馬車に揺られているうちにトカゲの名前を付けようという流れになった。


「名前ねぇ? ここはシンプルに『トカゲ』なんてどう?」


『みゃ!』


 ぶち殺すぞ青臭いガキが! という反応をされたので断念。


「お前はセンスがなさ過ぎる」


「トカゲって何だトカゲって」


「人間の子供にニンゲンって名付けるようなものですよね?」


「テキトー過ぎる」


 むぅ、じゃあみんなはどんな名前にするのよ?


「黒いトカゲなんだからやはり黒龍じゃないか?」


 中二病か。


「漆黒の覇王などどうだろう?」


 中二病か。


「みゃあちゃんとかどうですか?」


 鳴き声って。猫ならニャアちゃんで犬はワンちゃんになっちゃうじゃない。


「…………、……トカゲ」


 フェイス君もまたテキトー人間の仲間入りをした瞬間であった。


 その後も馬車の中には名前候補が飛び交い、激しいバトルの結果、この子の名前は『クリカラ』で決まったのだった。


 ……クリカラ。なんだか美味しそうな名前ね。カラっと揚げて――


「やめろ」


「やめい」


「やめてください」


「やめてあげて」


 冗談だというのに猛抗議を受けてしまった。いくら私でも従魔ペットを食べたりしないわい。……ペットじゃなかったら? うん、まぁ、そうねぇ……。





「はい、ギルドマスターからお話は伺っていますよ。テイムした魔物の登録ですね?」


 ギルドの受付嬢、ライラさんがにこやかな笑みで出迎えてくれた。癒やされるわー。


「とは言いましても、この十数年うちのギルドでテイム登録した記録はないので少しお時間をいただくかもしれません。よろしいですか?」


 なんか本当にテイマーという職業自体が絶滅寸前みたいだった。


 ライラさんはギルドに残されていたであろう資料を確認しながら登録作業を進めてくれた。まずは登録の証となる首輪を付けるのだけど、在庫がないので王都からの取り寄せらしい。それまでは仮の許可証を首に巻いておいて欲しいと。


 テイムした魔物が人を傷つけた場合は飼い主が賠償をすること。何かを壊した場合も飼い主が修復、あるいは弁償すること。と、事細かに『自己責任! ギルドは関係なし!』を確認され続け、クリカラの従魔登録は終了したのだった。




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