オーク肉
オークの肉はクサいらしい。
まぁでも、それは血抜きをしてないからでは? ここにきてからそんな場面を見たことがないし。
そう考えるとゴブリンのお肉が一日でダメになってしまうのも、残った血が悪さをしている可能性もなきにしもあらず?
というわけで血を抜いてみましょう。まずはオークの足首に魔力で編んだ糸を巻き付け、近くの木の枝に吊す――枝が折れたわね。オーク、重すぎだわ。
ちょっと離れた場所にあった大木で再挑戦。何とか吊せたので、あとは水魔法の応用でオークの体内から血を抜いていく。
……みゃあ!? 身体がデカいから血も凄いことに!? 血だまりが!? 辺り一面に血だまりが!?
血のニオイが周囲に充満して気持ち悪くなってきたので、風魔法で強制換気。あとは氷結系の魔法でオークの身体を冷やし、雑菌が繁殖しないようにする。なぜ野生動物の肉がクサくなるかというと、体内に残った血が雑菌のせいで腐るからだ。
逆に言えば体内から血を抜き取って、雑菌が増殖できない温度まで肉を冷やしてしまえばあまりクサくならないのだ。……エサのせいで肉に染みついたニオイまでは取れないだろうけど、だいぶマシになるはず。
「……田舎の狩人がこんなようなことをやっていたなぁ」
「セナは公爵令嬢だろ? どこでそんなことを学んだんだ?」
ガイルからの疑問に私はあっけらかんと答える。
「騎士は遠征する機会も多いからねー。お肉も自分でさばけないと」
「なるほど」
「…………」
ガイルは納得して、ニッツは何か言いたそうにしていたけれど、そんなことより肉だ肉。ここは焚き火で焼き肉といきましょう!
外での料理はとにかくワイルドに。今回は脇腹のお肉を骨付きのまま焼いてしまいましょう! いわゆる カ! ル! ビ! である!
味付けはシンプルに塩胡椒。やはりお肉も時と場所を考えないとね。高級なお店では手間暇掛けて下処理された素敵なステーキ様を食べたいけれど、やはりアウトドアでは乱雑な味付けで、テキトーにワイワイしながら作った料理の方が美味しいのだ!(個人の感想です)
というわけで焚き火に直接お肉をかざして――みゃあ!? 滴り落ちた脂で炎が!? ボワッと!? なんという脂力!
「セナはときどき変な言葉を使うよなぁ」
「お貴族様だからか?」
「ノリと勢いで喋っているだけじゃないですか?」
「考えなし」
涙がにじむのは煙が目に入ったからだ。と、格好いいことを言ってみる私。
う~んいい匂いが辺りに充満してきた。ニオイに釣られて野生動物が近づいてくる気配もするけれど、こちらが大人数であるおかげか一定以上近寄ってくる感じはない。
たぶん私たちが残したおこぼれを狙っているでしょうから、内臓とか一部の肉を残してあげて――うん?
『――みゃ!』
近くの茂みからガサゴソと音がしたと思ったら、大きめのトカゲが首を出した。鱗の色は黒。背中から小さな翼が生えている。
いや、トカゲにしては首が長いわね。なんかこう、ドラゴン? 黒いドラゴンを子犬くらいの大きさにした感じ。
まぁでもこんな町近くの森の中でドラゴンと出会うことはないだろうから……トカゲ型の魔物かしら? サラマンダーとか? 魔物にもそれなりに詳しいつもりだけど、ちょっと自信を持って断言はできないわね。
…………。
……トカゲって美味いのかしら? 蒲焼き? 焼き肉? 肉団子? いやでもちょっと小さいなぁ。オーク肉を前にしてあまり魅力を感じないなぁ。
私がそんなことを考えている中、ニッツたちも興味深げにトカゲ(?)を見つめていた。
「見たことのない魔物だな」
「サラマンダーの子供か?」
「肉のニオイに釣られてきたんでしょうか?」
「セナの奇妙な鳴き声を仲間だと思ったんじゃない?」
どこが奇妙じゃい、どこが。『みゃあ!?』は美少女にしか許されない悲鳴でしょうが。
『みゃあ!』
と、(私のような鳴き声を上げながら)目を輝かせている(気がする)トカゲ。
「……みゃ?」
いい頃合いに焼けた肉を差し出す私。
『みゃ!』
どうやらお気に召さないらしい。
トカゲ(?)の視線の先にあるのは……オークの内蔵。モツ。
「みゃ?」
『みゃ!』
「みゃあ」
『みゃあ!』
さすがに生は危ないんじゃ?
いや生がいいんだ!
まぁ待ちなさいホルモン焼きの美味しさを教えてあげましょう。
ほぅ、楽しみだ……。
と、いうやり取りをしてから、フライパンでモツを焼き始める私。
「……とうとう魔物と意思疎通しだしたぞ?」
「まぁ、セナだしな」
「セナさんですしね」
「魔物と同レベル」
異なる種族とすら仲良くなる私の器に感心することしきりな暁の雷光であった。
私が照れ照れしている間にモツ焼き完成。塩胡椒のシンプルな味付けだけど、生肉しか食ったことがないだろうトカゲ(?)には革命的な味でしょう。
『みゃあ!』
ホルモン焼きの美味さに感激し、バクバクと犬食いをするトカゲ(?)。爬虫類なのに犬食いとはこれいかに。
「……ま、俺らも食うか」
「脇腹から肉を剥がすのは面倒だったんだが、そうか、骨ごと焼けばいいのか……」
「公爵令嬢とは思えないやば――いえ、発想力ですよね」
「ここはハッキリ『野蛮』と言ってあげるべき」
綺麗なお姉さん相手に素直になれないフェイス君であった。
「お、やっぱりうめぇな」
「冒険中の食事をすべて任せたいくらいだな」
「でも、それだとセナさんの負担が多すぎません?」
「それに、毎食肉になる」
朝肉・昼肉・おやつ肉・夜肉・夜食肉のどこが悪いというのか。人間とは肉さえ食っていれば健康長寿。肉さえ食っていれば病気知らずなのである。目指せ人生100年肉食生活。さぁ、肉を称えよ。肉を喰らえ。さすれば肉も汝を愛するであろう(肉過激派)