一件落着?
指揮官らしきゴブリンの死体は回収して、ギルドに引き渡し。
その他、焼けたゴブリンの中でも可食部分を拾い集め、今回の依頼先の村に持って行くことになった。
「ゴブリンの肉って一日でマズくなるんじゃないの? 焼けばそんなこともないとか?」
「いや、焼いてもダメだな。でも、マズくても肉は肉。村の連中は冬のための貯蓄を切り詰めて俺らへの依頼料を出したんだから、ないよりはマシだろう」
「へぇ……」
仕事なのだからちゃんと依頼料はもらう。
それはそれとして、村人が飢えないようにゴブリンの肉を持って行ってあげると。
うんうん、一番単純な『救う方法』は村から依頼料を受け取らないこと。でも、そうせずにお互いが利益を得られる形にしたと。よくできました。おねーさんポイントを1ポイントずつ進呈しましょう。ちなみに1ポイントにつき1回お肉料理を御馳走してあげます。
「ただの肉ポイントじゃねぇか」
「また肉か」
「私エルフなので肉料理はあまり……」
「じゃあ僕が代わりにもらう」
食欲旺盛なフェイス君だった。うんうん少年よいっぱい食べて大きくなりなさい。
ま、御馳走するのは冒険者ギルドに帰ってからにするとして。まずは村人に渡すゴブ肉を回収しましょうか。
わざわざ私たちが働かなくても、村人に洞窟まで取りに来させればいいだけなのだけど、森には他にも魔物がいるから危ないものね。空間収納に突っ込んで一気に持って行ってしまいましょう。
とりあえず、黒焦げになったもの以外をどんどん空間収納に入れていく。解体くらいは村人にしてもらいましょう。
と、なぜかミーシャが痛そうに額を手で押さえていた。
「……毒入りのガラスをぽんぽん出した時も思いましたけど……セナさんの空間収納って、どれだけの物が入るんですか?」
「え? 確かめたことはないけど……ここのゴブリンくらいは入りきるんじゃないかしら?」
「…………、……そんな大容量の空間収納を持っていると知られたら、国に徴兵されて戦場への輸送要員とかにされちゃいますよ? 人目に付かないようにしたほうがいいかと」
「ういっす」
なんだか才能への嫉妬より先に心配をされるのは新鮮だったので、思わず敬礼してしまう私であった。
となると、空間収納から肉を取り出したら村人に知られてしまうのか。ここは空間収納を使わずにお肉を運搬しないと……あ、たしか空間収納の中に……あった。
取り出したるは軍用の荷車。所々に鉄を使っているのでかなり頑丈な一品だ。
と、なぜか白けた目を向けてくるミーシャ。
「空間収納に荷車が入る非常識さは一旦おいておきまして……なぜわざわざ荷車を入れておいたんですか? 他にもっと入れるべきものがあるでしょう? それだけの空間収納があれば荷車なんて使わないんですから」
「え? え~っと……なんでだっけ? 入れっぱなしで忘れていたからなぁ……なんか、こう……戦場に派遣されたときに……酔っ払った勢いで?」
「「「「…………」」」」
ミーシャたちは無言のまま顔を見合わせて、
「「「「酒禁止」」」」
示し合わせたように同じタイミングで禁止令を出されてしまった。なぜだ、依頼達成後にみんなで仲良くエール(ビール)を飲み交わすのが冒険者ってやつじゃないの?
「なぁんか、セナって冒険者に変な期待を抱いてないか?」
「貴族令嬢ってのが本当なら、深窓のご令嬢が自由気ままな冒険者に憧れるってやつじゃないか?」
「セナさん。私はお酒を飲めませんし、フェイス君は未成年。ニッツさんは単純に弱いですし、ガイルさんは『筋肉に酒は大敵!』教の人間ですから……うちのパーティで常飲する人はいません」
「冒険者なのに……? マジで……?」
あまりにも衝撃的な事実に愕然とする私であった。
◇
荷車にお肉を積めるだけ積み込んで、依頼先の村を目指す。
「よっし! 気張れよガイル! 力仕事は男の華ってな! 女子供にいいところを見せるぜ!」
「おうよ!」
「わー男子カッコイイー。……とはいえ、見ているだけというのも気が引けるわね。ミーシャ、ここは私たちも身体強化を使って手伝いましょうか」
「え? 私支援魔法は使えますけど自分の強化はちょっと……」
「あらそう? じゃあ私が強化してあげましょう。大丈夫、支援魔法は使ったことはないけど自分を身体強化する要領で――」
「いやいや使ったことのない魔術を人に使うのは……みゃあ!? 身体が言うこと聞かない!?」
「あー! ニッツ! ガイル! ミーシャが勢い余って荷物の山に突っ込んだ! エルフのゴブリンサンドに!」
「うお!? 上半身埋まってるじゃねぇか!」
「今助けるぞ!」
私たちがミーシャの足を掴んで、引っ張り出そうとしていると、
「……途中までセナの空間収納で運んで、村の近くで荷車に移し替えればいいだけなんじゃ?」
呆れ顔のフェイス君がそんな指摘をしてきた。もうちょっと早く言ってくれませんかね……?
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