指揮官?
「あー、砂だらけ。砂だらけよ、まったく」
浄化で身体を綺麗にする私。汗から砂埃まで何でも綺麗にしてくれる便利魔法だ。あとはついでに呪いも消せる。
「浄化って……。高位の神官しか使えないはずの『奇蹟』を、あんな簡単に……」
なぜかミーシャが愕然としていた。そういう『○○だから△△には使えないはず』っていうのが一番魔術師としての可能性を狭めているんだけどね。
まぁ、長い付き合いになりそうだし、それはゆっくりと教えていけばいいでしょう。今真っ先にするべきは――お肉の回収である。なにせ扉の向こうのゴブリンは毒を吸っていないからね。
火炎魔法の火力が強すぎたのかほとんどのゴブリンは真っ黒焦げになってしまっていた。けれど、幸いにしていい感じの焼け加減で残っていたお肉があったので味見。
……う~ん、魔法の火で焼いたお肉はイマイチね。やはり炭火か。備長炭を作るしかないか。
「落ちてる肉を食うなよ……」
「本当に公爵令嬢か?」
「貴族にとっては普通……なわけないですよね」
「下品」
フェイス君だんだんと私に対する容赦がなくなってきてないかしら?
ちょっと傷つきながらも肉集めを継続。すると、不自然なほど焼けていないゴブリンを発見した。
……ふむ、王都近くで遭遇した、ゴブリンの指揮官に似ているような? あの個体と同じように上半身に羽織のようなものを着ているし、羽根を使った冠もそっくりだ。ゴブリン……魔術を使える……ゴブリン・マジシャン?
まさか、進化?
いやいや、あり得ないか。ゴブリンが自然に進化するなんて、そんなこと……。
火傷はないから、私の火炎魔法を防ごうとして結界を展開。魔力を全部消費して魔力欠乏症で死んじゃったってところかしら?
「お? そいつが指揮官か?」
奇妙なゴブリンに気づいたらしいニッツたちが近づいてくる。
「指揮官っぽいわね。魔法を使ったのもコイツかしら?」
「かもな。俺たちでも初めて見るゴブリンだ。……いや、王都の近くで遭遇したヤツと似ているか?」
どうやらニッツも同じ個体を思い出したらしい。
「よし、何か分かるかもしれないし、回収してギルドに持って行こう。……食べるなよ?」
「食べないわよ。私のことを何だと思っているのか……」
「肉狂い」
「肉のことになると見境がなくなる」
「お肉が関わらなければ良い人なんですけど……。いや関わらなくても割と……?」
「肉欲女騎士」
あっはっはっ、ギルドに戻ったら『お話し』しましょうか。