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30. 届かない手紙2

基本クラウディア視点ですが、途中、フェルナド視点が入ります。


「……随分と急ですわね」

「確かに急なほうではありますが。本来、一カ月ほど余裕はあったのですよ」

「?」


 ホーネックはクラウディアに冷ややかな目を向けた。

「クラウディア嬢も少々薄情なのでは? 王族に対して一通送っただけでよしとするのは礼儀もなっていない」

「フェルナド様へのお手紙のことでしょうか?」

 返事が来なかったので、最初は忙しいのだろうと思って大人しく待っていた。しかし待てど暮らせど一向にフェルナドから返事は来なかった。


「ですが……私は婚約者でも何でもありませんから」

 しつこく手紙を送っても、迷惑になるだけである。それに、フェルナドはアニエスと結ばれることになっている。


「そうやって殊勝な振りを見せれば、追いかけて貰えると思っているのでしょうね。これだから女は」

 ホーネックはわざとらしく、やれやれと首を振った。異性への不信を露わにするホーネックは、以前とはどことなく雰囲気が変わっていた。


(そういえば、ホーネック様は舞踏会の少し前に、婚約者のテルミナ様にザマァされたのでしたわね)

 ホーネックはテルミナの一族や関係者総出で糾弾され、婚約を破棄されたらしい。ホーネックの家であるハビンズ家はゴーア家に多額の慰謝料を払うこととなった。


(まぁ、私がテルミナ様に少し助言させて頂いたのですが)

 クラウディアは、ふ、と邪悪な笑みを浮かべた。

 その顔を見たホーネックは顔を青ざめさせて、逃げるようにその場を辞した。


***


 午後になると、王都は暖かい陽気に包まれていた。貴族街の一角にあるエクスナ家は広大な庭を持ち、中ほどには堂々たる屋敷がそびえ立っていた。アプローチを抜けた屋敷の扉の前には、二人の訪問者がいた。


「クラウディア様は本当にご在宅ではないのですか?」

 アニエスはエクスナ家の屋敷の玄関で応対した家令に再度確認した。


「城から連絡は届いているはずだが」

 アニエスの隣に並ぶフェルナドも家令に詰め寄った。

「それに、クラウディア嬢は召喚状を受け取ったのか?」

「ご当主様の許可がなければ、王家からの召喚状であろうとお渡しすることはできません。お預かりすることはできますが、一度コルデス様に確認して頂くことになります」


「では、せめてクラウディア嬢に会えないか」

「先ほど部屋を確認しましたが、もぬけの殻でございました」

 家令は相手の立場を(おもんぱか)り、事実を告げた。


「……出掛けているのか?」

「先ほどからそう申し上げております」

 家令に嘘をついている様子は見受けられなかった。

「仮にも貴族の令嬢が屋敷の者に何も言伝せずに出掛けるなど、ありえないだろう?」

「いえ、お嬢様に至ってはいつものことでございます」

 家令はきわめて冷静に応じた。


「そんなわけは……。いや、クラウディアならありそうな気がしてくるから恐ろしい」

「行き先に心当たりはありますか?」

 アニエスは家令の、白いふさふさの眉で半分覆われた瞳を注意深く見上げた。

「さて。私は存じ上げませぬ」

 家令はのらりくらりと追及を交わした。明らかにコルデスの意を受けている。

 アニエスとフェルナドは顔を見合わせた。


「クラウディア様のお父上は?」

 アニエスはフェルナドに城の状況を尋ねた。

「陛下たちがなんとか説得を試みている」

「困りましたね……」

 アニエスが眉根を寄せて思案した。エクスナ家の家令は軽く肩を竦めて佇んでいる。フェルナドは忌々しくその家令を睨んだ。


「仕方がない。何人か街に下りてもらったし、城で朗報を待とう」

 フェルナドはクラウディアに会うことを断念した。ここで粘っていてもどうにもならないと、割り切るしかない。

「アニエスも忙しいところ、時間を取らせてしまってすまない」

「いえ、私もクラウディア様に一目お会いしたかったのですが、残念です」

 二人は屋敷に背を向けて、止めてあった馬車に乗り込んだ。家令はやれやれと肩の荷を下ろし、慇懃に頭を下げて見送った。



 馬車の中で、アニエスとフェルナドは向かい合わせに座って頭を悩ませた。

「コルデスがあのように厄介な男だとは思わなかった……。送った手紙も捨てられているかもしれないな」

「まさか。そこまでされるのでしょうか」

 アニエスが顔を曇らせる。

「していないといいが……届いているとも思えない」

 馬車は庭を抜けて、エクスナ家の門を出た。はぁ、と二人の溜息が同時に重なった。

 あの事件以降、何日もクラウディアに会えていない。フェルナドは憂鬱な気持ちで帰路についた。



***


 クラウディアはフェルナドたちと入れ違いにエクスナ家の屋敷に戻った。街でたくさん目当ての本が見つかったので、あとで家に送り届けてもらうことになっている。一部は自分で持ち帰った。クラウディアはほくほくとした気持ちで門をくぐった。出迎えた家令のジーホフに笑顔を向けた。


「ジーホフ。私が出掛けているあいだ、どなたか屋敷にいらっしゃったかしら」

「いいえ。出入りの業者くらいでしょうか」

「そう」


 ホーネックが街くんだりまでクラウディアに書状を渡しに来る程なので、屋敷にも誰か訪れたかと思ったが、そうでもないらしい。


(まぁ、ジーホフの言うことも当てにならないけれど)

 ジーホフは家主であるコルデスの意を第一にして、王家にさえ楯突く度胸がある。真相を追求するのを諦め、クラウディアは書状を大切に抱えて自室へと戻った。

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