第7話
第7話
「いい? 麻生クン。先輩主人公からのアドバイスだよぉ」
鼻先15cmにぐっと迫ってもなお小顔の吉尾さん。甘い桃の香りに意識を持っていかれそうになるのを必死に堪え、クジ引きで決められた悲劇の前任主人公の助言に耳を傾ける。
「この業界、『嫉妬・妬み・嫉み』は男子のステータスだよ?」
「嫌なステータスですね」
「SNS値が高いほどモテてる証拠だからねっ」
「もしかしてSNSって『嫉妬・妬み・嫉み』の略称だったり……」
あー、可愛いサムズアップからの笑顔でウィンク出ちゃった。大正解しちゃいましたもの。
「ヒロイン専攻の子と日々のイチャラブ写真をアップして、SNS値を稼ぐことをオススメするよっ」
「そんなネガティブなイイネは嫌だ……」
そもそも俺とイチャラブしてくれるヒロインがいない。
「試合のSNS値にブログのポイントが加算されるから、結構スタートダッシュは大事なんだよ」
「そんな無茶な。スタートダッシュって、今日入学式じゃん。超イケメンならともかく」
「甘いなぁ、麻生クン。戦いはもう始まっているのです。他校の生徒は午前中にポイントゲットしてるはずだよ? 嘘だと思うならアプリ開いて見てみてみー」
吉尾さんに言われるまま学校支給の端末でアプリを起動する。見てみてみーって、語尾の抑揚といい、謎の表現が吉尾さんらしいなぁ。
「なにこれ? 『イチャラブメモリーズ』って」
昔の恋愛シミュレーションゲームのようなタイトル画面が表示される。
「麻生クンのアバターがあるから、情報を入力して。実名で」
さらりと実名プレイ強要! 『朱鴒天学園』をタッチし、eスポーツ専攻、美少女ゲーム科と進め、最後に恥ずかしながら自分の名前とフリガナを入力して完了。
「アソウ アルト……っと」
アプリを起動して数分。SNS値のカウンターが鬼のような速さで回りはじめた。
「ちょ、吉尾さん、何コレ? バグってるっぽいけど」
「え~っ、私にもわかんないよぉ! 初めて見るもん、こんな現象」
結果としては良いのだろうが、エントリーしただけでSNS値カンストの勢いだ。まだ何も行動を起こしていないにもかかわらず。
「あ、何かメッセージたくさん来てるよぉ。開いてみよ?」
メッセージボックスのアイコンがパンク寸前になっている。
『アルト殺す』
『アルト、タヒね』
数件開いてみたが、全て同様の内容ばかりで心が折れた。
「なんでこんな事に……」
「だ、大人気だねぇ~。お、お姉さん、羨ましいなぁ~」
吉尾さん、他人事みたいに『あちゃぁ~』って顔してますけども。
「アンタ去年こんなのが欲しかったのか!?」
数百件のメッセージを既読にしていくうちに、謎を解くヒントが所々で見つかった。
「これ人違いっぽいな」
「麻生クン違い?」
写真もアップしていないのにおかしな話だと思った。
「大半のメッセージが『アサオ』宛てみたいなんだ」
「でも、麻生クンのフリガナは『アサオ』になってるよ? あってるじゃん」
「げっ、まさかの入力ミス!」
間違えメッセージの増加に拍車がかかるわけだ。そしてたまにある『リバ子たんハァハァ』ってコメント。遠い昔に聞いた憶えのある名前。
「リバ子……アサオ……アーサーオ……」
頭の中で嫌なパズルにリーチがかかった。
「吉尾さん、こいつらのプロフィールって見れるの?」
「あ~リバ子ちゃんかぁ。P女のルーキーだねぇ、麻生クンあーゆー子がタイプなんだぁ」
まったく知らない子をタイプと言われましても。ジル子同様に関わっちゃいけないと、本能が警告出してるんですけど。
「確認して想像と違うカップルだったら嬉しいなぁと思って。その口ぶりだと、吉尾さんは知ってるみたいだね」
「吉尾ちゃんは優秀なYPなのでぇ、校内女子のデータはもちろん、他校の美少女の事まで知っているのでーすっ」
さっそくハンパないYP力ですね、吉尾さん。ニッコリ人差し指立てて、いちいち可愛いなぁ。言ってる事は変だけど。
「このふたりか。『ヌいて(はーと)』『わたしが抜きました(てれ)』なんだ、このキャプション。どこのピンクチラシだよ」
フランス人形と見紛う従順無口系ロリの子と、金髪をなびかせ、お姫様抱っこで寄り添う爽やか系王子様のツーショット。確かにこの画像見たら、いくら寛大な俺だってSNSポイント全振りしますとも。美男美女で腹立たしい。
「カワイイよね~リバ子ちゃん。儚げでミステリアスだし、設定もこっててね、聖剣エクスカリバーの擬人化らしいよ? 相方の『アサオ』は剣の腕もたつ美形主人公ナンバーワンなんだぁ。外国の王子様って噂もあって、凄いね?」
「嵌っちゃいけねぇピース来た」
はい、パズル完成しちゃいました。
「でもホラ、何の売りもなく、ただの非モテ消費豚と名高い麻生クンがこのキラキラリア充コンビに勝利できたら爽快だよねっ!」
「その正確な俺情報、発信源どこ? あとで殴ってくる」
大方の目星はついているが。
「そりゃ勝利したいけど、この自称エクスカリバーに匹敵するヒロインが必要不可欠だよ? 実は吉尾さんって隠しキャラ扱いだったりしないの? ヒロイン級の超美少女なのに」
「超は言いすぎだよぉ。残念ながら今回ハイスペック吉尾ちゃんは攻略対象外なのです」
やっぱり美少女であることは否定しないんですね。
「ホントに残念だよ」
早くもヒロイン第一候補に振られてしまった。
「このSNSって名前の変更ってできるの? フリガナ修正したいんだけど」
「できるけど、再登録すると今入ってるポイント無効になっちゃうよ?」
「他人の勘違いで入った棚ぼたポイントだからなぁ」
「勘違いでもポイントはポイントだよ? せっかくの棚ぼたなのにぃ」
「俺の実力じゃない上に目立ち過ぎていやだよ」
「いやんカッコイイ! 分不相応にあくまで自分の力でポイント稼ごうなんてっ」
事実だし悪気はないんだろうけど、棘あるなぁ。
相手ヒロインはビジュアル的にも物理的にも高破壊力なロリ聖剣。それを擁する主人公はジル子の言う通りならアーサー王なのだろう。
「ゴメン、吉尾さん! 急用思い出した」
「あれ? 麻生クン、どこ行くのぉ! 説明まだ終わってないよぉ~っ」
まだまだ吉尾さんと会話していたいが、嫌な予感の答え合わせを優先した俺は、後ろ髪を引かれる思いで教室を飛び出す。




