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第5話

第5話


 月曜日、入学式の朝。


「お前、ふざけんなよ? 三日! まる三日意識なかったんだからな? よく生きてたよ、俺!」


 空腹で少しフラフラする程度で済んでいるのは若さの賜物だろうか。ジル子が手配したであろう枕元のコンビニ袋から携行栄養ゼリーを数袋飲み干して一息ついたあと。

 包帯でグルグル巻きになった額をおさえ、頭に響く自分の声に耐えながらジル子に説教した。そもそも鉱物に病院や救急車を呼ぶといった概念がないのだろうけど。


「ごめんなさい。ついカッとなって刺しましたぁ」

「刺しましたぁ、じゃねぇんだよ! あとなんでちょっと不服そうな顔してんの、お前?」


 眼下のジル子はしおらしく正座をしているが、パッチリした両のドールアイは『D』を右へ九十度回転したような形状で心なしか淀んだ瞳をし、小さくもプックリと柔らかそうな下唇を突き出して不機嫌丸出しだった。


「いろいろ思い出したらつい」

「お前の剣先丸まってるとは言え、金属製で結構痛ぇんだよ! で、お前、とがった刃の方で取り来てたろ? 『ヘルメットがなければ即死だった』とか名ゼリフ言えるレベルじゃねぇからな? 俺、ヘルメットしてねぇし」

「はい。完全にタマ殺るつもりでダイブしましたぁ」

「だからなんで不満そうな顔してんだよ? 殺れなかったからか!? 殺れなかったからだな!?オソロシイ子! そして清々しいな!」

<だいたい女の子ひとり受け止められず三日も気絶してるのは男としてどうなんでしょうかねぇ>


 こいつ、聞こえるようにボソッと言いやがった。


「うーっ、わたし一人怒られているのが納得いかないんですぅ」

「ばかでっかい刃物で刺突されたうえ三日も放置した本人の言葉とは思えんが? よく分からんが粘土ジョークってか? 粘土要素が見当たらないけども!」


 微妙にかみ合わない。


「わたし、ちゃんと救急車呼ぼうとしたんですよ? でもなんかクールビューティーな先生が来て『ヤバイから、救急車とか逆にヤバイから。女の子ひとり受け止められず気絶する方が失礼だから。この程度のキズ、美少女が付きっ切りで看病した方が逆に早く治るから』ってすごい早口で冷淡に」


 なんの逆だよ。あ、ジル子もこんな気持ちだったのか『逆に』って。一応、救急車って知識はあるようでよかった。


「じゃあ、この包帯はジル子が? 付きっ切りで看病してくれてたのか?」

「そ、そんなぁ~わたし美少女です? 美少女ですか? あるとさぁんっ」

「顔近ぇ! リアルな虹彩キラッキラさせやがって」


 だから大喜利じゃねぇよ……とは言えない。だって俺、意識が戻ったばかりですもの。今、ゼロ距離で頭突かれたら今度こそヤバイですもの。


「不本意だけど峰倉先生とジル子の二択だろ?」


「いえ、実はあるとさんの手当てをしてくれたのはお隣さんなんです。その栄養ドリンクとかも買って来てくれました。あ、わたしも看病しましたよ? 美少女ですから!」


 誇らしく胸を張るジル子。


「お隣さん? あぁ同じプレハブ寮生か。って、今何時だよ!? 余裕で入学式終わってんじゃねーか!」


 スマホを見れば、時刻は昼の一歩手前だった。入学初日から大遅刻が決定した瞬間だ。


「俺は学校へ行くからジル子は留守番頼む」

「なに言ってるです? わたしも一緒に行きますよ」

「お前こそ何言ってるです?」


 さも当然のようにキョトンと小首かしげてますけども。


「可愛さ1本で乗り切れるほど世間様は甘くないんだぞ? おとなしく待ってろ」

「ヤですよぉ」


 コイツ、強引についてくる気だ。


「離せ、新品のブレザーがシワになるじゃないか」


 頭に大剣が刺さったエロ装束の女子と登校なんてしたら即通報される。


「そうだ、逆に刺さってなければ問題無い!」


 逆転の発想、われながらナイス機転! 剣を抜いておけばちょっと邪魔な岩に早変り。


「またしても意味不明な『逆に』です! 理不尽です、ひどいですよっ、あるとさん」

「帰ったら戻してやるから良い子にしてろ」


 恨み言を奏でる風流な庭石と化したジル子を横目に、学校を目指しダッシュした。

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