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第4話

第4話


「いうのに! って言われてもなぁ。悪いけど実際地味だよね、キミ。今はそんなだけど、もとは台座だし」

「地味言わない! こうして二足歩行へ進化しましたし、ここからわたしの新たな伝説が始まるのですぅ! まっていなさい、リバ子!」


 進化なんだろうか……


「じ、じゃぁ、がんばって」


 刺激しないよう、やんわりとドアの外へ退室いただいた。


『ちょっ、あけて、あけてくださいっ、あ~け~てぇ~っ!』


 冗談ではない、邪魔なインテリアふたついっぺんに処分できるチャンスなのだ。

 バンバン叩かれるスチールドアを背中全体で押さえ、板ひとつ向こうで泣き叫ぶ『等身大呪いの美少女フィギュア』が諦めて去るのを待つこと数十分。


『何を騒いでいるんだ』


 落ち着いた女性の声がする。美少女フィギュアが出す無駄に高い声を聞きつけて見に来たのだろうか。

 なんにしても助かった。学校関係者なら、この不法侵入フィギュアをなんとかしてもらおう。


『彼にしめ出されたんですぅ』

『血まみれじゃないか! それにその格好、どんなプレイ……』

「うぉあーっ! 助けてください! この子、不法侵入者なんですよ!」


 なんか風向きがヤバそうだったので急ぎドアを開け、外にいる大人へ助けを求めた。


「……峰倉先生?」

「入寮早々、彼女を連れ込むとはイイ度胸だな。さすが麻生だ」


 あ、ダメな大人だった。


「すまんすまん。お前に彼女なんているわけなかったな。一人暮らしだからって高校生がデリヘルはどうかと思うぞ? しかもかなり特殊なプレイで先生引く」


 ほんと、ブレないなアンタ。


「一応しかたなく頼りますけど、助けてくださいよ峰倉先生!」

「出しちゃったのか?」


 思わず手近にあった殺傷力の一番高そうな剣を引き抜き、元担任へフルスイング。


「フンぬ!」

「あ~わたしの剣がぁ……」


 しまった、つい中学時代に受けた積年のイライラが爆発してしまった。まぁ、刃は無いからそうそうダメージはないだろう。


「おっ前、躊躇無く振り抜いたな。担任に暴力とか酷いだろ」


 横腹をさすり、下がった眼鏡をスチャと直すクールビューティーチャー。 案の定、こたえてねぇな。


「残念、もう卒業したから担任じゃねぇよ! 遅ればせながらのお礼参りとして受け取っておいてくれ」

「いや、高校もお前の担任だが?」


 見慣れた白衣を軽く叩き俺に向き合う。


「へ?」

「理事長から高給で引き抜かれてな。お前も知り合いがいた方が安心だろう?」


 ここにも引き抜かれたヤツがいた! いや、それは聖剣に失礼だな。


「余計なことを……」


 不安しかないんですが。


「時に麻生よ。さっきのコスプレデリヘル嬢は何処へ行った?」

「デリヘルじゃねぇよ」


 言われて周囲を見回せば、血まみれジル・コーニャ姫の姿が消えている。


『ココですよぉ~、ここぉ。下、下ですぅ』


 声の方へ視線を落とすと、なんということでしょう。部屋の中央に生えていた邪魔な岩が俺の足元に鎮座ましましているではありませんか。


「うわぁあああああああっ!」


 見た目鉱石の軟体粘土が俺の足首を捕食するかのようにゆっくり靴中へ浸食して気持ち悪い。


「フンぬ!」


 思わず手にしていた大剣を岩塊めがけてグサリと突きおろすと、


『っく、きゃあぁぁぁぁぁんっ!』


 色っぽさ混じりの悲鳴が上がり、足元の岩が強く発光した。


「なんなんだよっ?」


 再び鮮血と共にシュウシュウと光る粒子を含んだ白煙が噴き上がり、モゾモゾ蠢く岩が人のシルエットになってゆく。


「ふぃ~。一度ならず二度までもぉ!」


 白煙が晴れたあとに佇むジル・コーニャ姫。相変わらず大剣が頭を貫通したままだけど。

 で、ここ数時間の記憶が完全に蘇りました。


「思い……出した!」


 このセリフをリアルで使う時がくるとは。そして走馬灯のごとく溢れ出る鮮明な記憶。

 部屋に生えていた岩を等身大フィギュアの台座にして。

 そこに武器セットの大剣を突き刺して。

 岩から血が噴き出して。

 今と同様に人のシルエットが形成されて。

『俺が突き刺した』はずの大剣がそのシルエットの側頭部を貫通していて……なんやかんやでイマココ!


「ドッキリや新入生イジメとかじゃなく、本当の超常現象なのか!? ってか、俺が犯人じゃん!」


 冗談や夢といった僅かな可能性に期待していたが、実際に『俺が剣を突き刺した』岩が等身大フィギュアと同化する様を目の当たりにし、現実逃避の退路を塞がれてしまった。


「今更なにを言ってるんですかぁ、アナタは。伝説級のわたしを傷物にしておいてぇ、責任はとってもらいますよっ」


 いや、そんな可愛く「めっ」とやられましても。なんで少し嬉しそうなんだ。


「やっぱりナンバーワンデリヘル嬢とヤっちゃったんじゃないか。どうするんだ麻生その無計画さでもうパパとか先生ちょっと引く」


 ある意味ヤっちゃったけど、字違うからな? そしてデリヘル嬢ではない。


「ってか先生も見てたろ、コイツ人間じゃないって!」

「そこは問題ではない。大事なのはお前が男としてちゃんと責任を取ること!」

「なんでこんな時だけ教師ぶってんだよ」

「そうですよぅ。『剣を刺し入れた者は相方となる運命』なのですよ?」


 なのですよ? じゃなくて。小首かしげてカワイイなあんた!


「俺が『伝説の勇者になる運命』っぽく言われましても……」


 さっそく持ちネタ応用しやがって。俺が悪いから文句は言えないけど。


「ところでお嬢さん。その頭は大丈夫なのか? 出血は治まったようだが」

「あぁコレですかぁ? 初めの時はすっごく痛くて血もブーしましたけどぉ、二回目はなんか久しぶりのツッコミが心地よかったですぅ」


 痛々しい大剣撫でながら頬赤らめて何を言ってるんだ。血もブーって……


「麻生よ、童貞のクセにテクニシャンだったんだな。先生ビックリだ」

「俺もアンタの思考にビックリだよ!」

「ま、今回は見なかった事にしてやる。私も着任早々クビにはなりたくない。学園の方へは私が上手くやっておくから心配するな」


 いい笑顔で逃げやがった……


「はぁ……」


 小さくなっていく頼りにならない担任の背を怨嗟の目でみつめ、深くためいきをついた。


「とりあえず誰かに見つかる前に部屋へ戻ろう」


 頭に剣が刺さった女の子を放置する訳にもいかず、しかたなく中へ招くことにした。


「ぴぁっ!」

「そうなるよなぁ。横向き横向き、そうそう」


 早速、入り口で幅広の剣がつかえ、リンボーダンスで頭が引っかかりました的な彼女をサポートする。

 彼女が撒き散らした鮮血をキレイに拭き取り、部屋中央の穴は荷解きしたダンボールを加工して補修用にリサイクル。

 家具の配置を決め終わると部屋として機能し、一息つく頃には夜も更けていた。


「お疲れ様ですぅ」

「ちょ、剣ぶつかる!」


 気を利かせてお茶を煎れてくれるのはありがたいが、間合いにも気をまわしてほしい。


「では今更だけど自己紹介から始めよう」


 ハプニングの連続で眼前の『エクスカリバーの台座』を名乗る、動く等身大ジル・コーニャ姫の名前すら知らない。


「俺は『麻生京あそうあると』十五歳。来週からここの学園に通うことになっている」

「あるとさんですね! よろしくお願いしまぁす、わたしは『ラドール・Fファンド・マイネッタ』です。相方達のインパクトによって目立たなく……いえ、捻じ曲げられた真の伝説を伝えるため活動しているのですが、いかんせん岩なもんで……今までは思うように動けなくて、あの子達を追うのもひと苦労でした」

「岩ってか、もうキミ字づらからして石粉粘土の見本市だよね? その名前狙ってるよね?」


 名は体をあらわすを地でいってますもん。ミドルネーム含めスリーアウトですもん。ヘタすればこの等身大フィギュアの原型材料ですもん。


「失っ礼ですねぇ~! 前にも言いましたが、わたしだってダイヤの原石なんですよ? あのエクスカリバーとアーサーを育てたのはわたしなんですから。トリオで活動したとたん、あの子達がコンビでブレイクしちゃいましたけどねっ」

「アーサー王を芸人みたいに……」


 文字通り『岩の素材』がダイヤの原石なのか、芸人として『磨けば光る』意味で言っているのかわかんねぇよ。


「じゃぁ、間を取って『ジル子』だな」

「なんの間ですか、ラドール・ファンド・マイネッタですけど!?」


 工作粘土が三種並んでるイメージしか湧かねぇ。


「なげーよ。工作粘土より高級でダイヤモンドより安い人工ダイヤのジルコニアの間だよ。ジル・コーニャ姫にも掛かってるし。よろしくな、ジル子」

「有無を言わさず決定の流れです!?」


 俺的には良い落としどころだと思う。かなり好意的だよな?


「そんな些細なことより、ジル子をそんな風にしてしまった原因の一端は俺にもある。だから俺で力になれるなら何でもするから、早く出て行ってください。お願いします。ってか出でけ」

「雑な責任感! わたし、裁判したら勝てますよね? 勝てますよね!? あと些細なこと言わない! 名前大事!」


 小さな白い手で俺の胸ぐらをギュッと握り、大剣が当たりそうな勢いで顔をそらす俺をガックンガックン揺らしてきた。


「わーかった! 落ち着け、ジル子」


 涙目の怒り顔がちょっと可愛くて、なすがままにされていたが、少し気の毒に思いなだめる事にする。


「初歩的な疑問なんだが、そもそも外国の伝説がなぜ日本に? 相方……エクスカリバーを追っているようなこと言ってたけど、まさか聖剣がこの日本にあるとか?」

「ほら、日本てフィクション文化に特化しているじゃないですかぁ、リバ子なんて、こっち来てから爆発的にバリエーションが増えたんですよ? わたしもココなら有名になれると思っていたんですけどねぇ……」


 確かに日本はマンガやアニメ等の文化に強いし、エクスカリバーひとつとっても主役級の武器として扱われる作品も多いだろう。


「この地へ呼ばれたはいいですが、結局必要なのはあの二人だけだったんですよぅ」


 誰が何の目的でジル子達を呼んだのか気になるところだが、面倒な事に巻き込まれるのも嫌なので深入りはやめておこう。さしずめ、トリオにオファーがかかったが「の方芸人」は戦力外通告をされたってところか。


「俺がクライアントだったとしても『聖剣の刺さっていた地味な岩の方』を世間様にねじ込んでプロデュースする勇気はねぇな」

「ですからぁ『の方』って表現! 傷つくんですよぅ」


 気持ち刺さっている剣もへにょんとしている。


「まぁ現状、ビジュアル『だけ』は他の追随を許さないレベルだぞ。見た目のインパクトは誰にも負けないと保証する」


 だって神造形で完璧美少女のジル・コーニャ姫だもの。しかもその頭に大剣が刺さっているんですもの。


「え〜そんなぁ、褒めすぎですよぉ、あるとさぁん」


 褒めたつもりはないが、クネクネ照れ照れとカワイイので許す。


「ジル子よ、クネ照れしてる場合じゃないぞ。早速『新生ジル子プロデュース計画』を詰めていこう。俺のフワッとした構想では三日で世間様に鮮烈デビューしてお前とはサヨナラだ」


 来週には大事な入学式が控えているため、それまでにはカタをつけたい。


「だから雑なんですってばぁ!」

「トラブルを排して、晴れやかな気持ちで入学式を迎えたいからな」

「本音だだ漏れ! 当人を前に悪びれもせずです、このひと悪びれもせずです!」


 頭に刺さった剣の柄で水飲み鳥のごとくゴンゴン抗議してくる。


「まぁ落ち着けジル子。ここは思春期特有の根拠の無い万能感を信じろ」

「自分で言っちゃうんですね、思春期の万能感」


 依然肩キツツキしてくる頭を指先に力を込めたブレーンクローで制止、右手でスマホを取り出す。


「イタタタタ、痛いです、あるとさぁん!」


 可動域限界までクビを反らせた彼女を解放してやる。


「で、結局ジル子はどうなりたいんだ?」

「んーそうですねぇ、まずは知名度ですかねぇ。多くの人にわたしのことを知ってほしいです」

「アーサー王伝説の質が下がりそうで気が進まないんだが……え~と、『有名になる』『手っ取り早く』で検索っと」

「何です? それは」


 興味がスマホに移ったようで、今度は人工物とは思えぬ柔らか且つ弾力も兼ね備えた胸をギュウと背中に圧しつけ、肩越しに覗き込んできた。


「現代の若者がなんの疑問を持つことなく盲目的に判断を依存する便利な機械だよ」

「この人、とても良い笑顔で言い切りました! わたし、あるとさんが心配です。いろんな意味で」

「よし出た、これなんかジル子にピッタリじゃないか?」

「そんなあっさり、十秒もたってません」

「何言ってんだ。このお手軽感がストレスフリーでいいんじゃないか」

「わたしへの責任感、スナック感覚!」


 再度コココココと頭の柄で小刻みな連打をしてくるジル子。


「まままま、そそそう、いいいう、なななな」


 たいして痛くはないがウザいのでジル子の頭を押しのける。


「とにかく現代技術の粋、スマホ様の神託を見てみろって」


「まったくもぅです! まったく! ……で、どれですって? 『ゆーちゅーばぁ』?」


 整った眉を顰め、蒼く澄んだ大きなドールアイを器用に細めてスマホ画面を睨む。実在呪いの萌人形とでも言うべきジル子を売り出すには良い媒体かもしれない。


「で、わたしは何をすれば?」


 桜色の指先で動画をつつき、警戒心MAXの半目で俺に聞く。


「さぁ、俺もよく知らない。なんかそれっぽく『同化してみた』とか『貫通してみた』とかでいいんじゃね? あ、待って待って、刃の方はこっち向けないで? 危ないから」


 上目づかいで右頬をぷっくり膨らませたジル子が、切っ先の照準を俺に合わせプルプルしているので落ち着かせる事にした。


「いやいや、逆にユーチューバーなんだよ! 逆に! なっ」


 とりあえず表面だけでも熱く取り繕ってみる。


「逆にの意味が分かりませんっ! なんか勢いで押し切ろうとしてませんか?」

「そ、そんなわけないだろぉ~、じゃあジル子はどうしたいんだよ!」

「えぇ~わたしですかぁ~? せっかく人型になったことですしぃ、アイドルなんてどぉかなぁ~ってえへへ」


「今は大喜利の時間じゃねぇ。真面目にやれ」

「くきぃーーーーーーっ!」


 八畳間ぐるりを大きく使った助走から繰り出されるジル子のフライングヘッドバットは、俺の額へキレイに直撃し、本日二度目の気絶をすることとなった。


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