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第2話

第2話


 1週間後、推薦試験当日。

 都心から少し離れた郊外にポツンと建つ3,000人収容可能なドーム型イベント会場。ここは件の推薦試験場でもある。


『第1回デュエルプリンセス大会優勝者は!』


 大型スクリーンに、肩まである黒髪を首筋から肩口へ軽く流す美人MCがアップで映る。


『エントリーナンバー、4番!』


 インカムを通して会場に響く、細いながらも良く透る声。エントリーナンバーって、受験番号のことだよな?


麻生 京(あそうあると)くんですっ!』


 元気に告げられる俺の名前。


『アルトくん! どうぞステージへっ!』


 大会参加者(受験者)99人とギャラリーからの拍手を背に受け、ステージにあがる。


『優勝おめでとうございます!』

「あ、ありがとうございます……」


 間近で見るお姉さんは、170cm超えのモデル体型でありながら、画面の印象よりは幼い感じだ。


『さて、この大会での優勝が意味するもの、当然ご存知ですよねぇ?』


 そう、この格闘ゲーム大会はただの腕自慢大会ではない。


「優勝即入学と聞いてます」


 試験科目だった『デュエルプリンセス』とは、入試条件を対等にするために学園側が制作・用意したゲーム。当然、受験生全員が初見となる。

 内容といえば、何種類かの操作キャラの中から1人を選択し、格闘・カード・パズル・リズム・ギャルゲー等がごちゃ混ぜになったカオスなオリジナルゲームをクリアするものだった。もし純粋な既製の格闘ゲームとかだったらまず勝てなかっただろう。


『そうです! 堂々と女子校という禁断の園へ踏み入ることを許可されたのですよ、大興奮ですねっ! バラ色の学園生活をお送りください』


 お姉さんに肘でわき腹を小突かれながら不安と期待の高校生活に思いを馳せる俺だった。


『さて! こちらが優勝トロフィーと入学許可証、そしてぇ……』


 学生証の入ったトロフィーカップを雑に俺へ渡すと、小走りでステージ裏へと姿を消すお姉さん。


『え? ちょっ、何? この大きさ』


 お姉さん、インカム切り忘れてるっぽい。会場内に流れる焦った地声が可愛い。


『え何? 柔らかっ! え? 柔らかっ!!』


 何の感想だと思案していると、小脇に少女を抱えてヨタヨタとステージを登り戻ってきた。


『そしてぇ、ハァハァ……』


 後半引き摺り気味になっていた小脇の少女を俺の真横に立たすと。


『こちらが優勝賞品の等身大ジル・コーニャ姫フィギュアですっ!』


 さきほどプレイした『デュエルプリンセス』で俺が使用したキャラクターの等身大フィギュアだった。


「賞品でかっ! クオリティ高っ!」


 『いにしえの魔法使い』の表現を借りれば、チョコバーの包みのような鮮やかなメタルレッドの姫騎士ドレスを纏ったそれは、生身の少女ではないかと思えるほど精巧な造形。

 しかしその顔はアニメ寄りの美少女であり、やはりフィギュアだと実感する。オリジナルの商品展開も見込んでの事なのか、学園の意気込みが感じられる。


『さぁ麻生京クンっ、存分にっ!』


 不覚にもフィギュアに見とれていたら、何を「存分」なのかお姉さんからグレーな一言。


『ホラホラ、さわってみて下さい、驚愕の柔らかさですよぉ?』


 促されるまま、等身大フィギュアの頬をプニプニしてみる。


「え? ちょっ、何? 柔らかっ! え? 柔らかっ!!」


 図らずも舞台裏でのお姉さんの感想を純粋にトレス。あの反応は正解。


『ですよねぇー! 無駄にエロ凄い技術ですよねっ!』


 エロ凄いってなんだ。確かにいかがわしい用途用と言われても違和感ないけども。


『ディスプレイ用の台座は後ほどお部屋にお運びしますね』


 このデカイのを飾れと。


『さっ、とっとと持ち帰って存分にどうぞっ』

「さっきから『存分』の意味が分からないんですが……」


 俺の疑問を無視して熱心にフィギュアの二の腕をプニりまくるお姉さんだったが、

『では皆様、来年の第2回入試大会でまたお会いしましょう!』


 プニ飽きたのか十分に堪能したのか、なかばやっつけ仕事っぽく強引に締めくくった。


「毎年やるのかよ……」


 まぁ入学試験だから当然なのかな。どうでもいいけど。

 最後に司会のお姉さんから入学案内一式を受け取り、ギャラリーと、蹴落とされた受験戦士99人から怨嗟まじりの拍手に包まれる中、等身大フィギュアという重い荷物を背負って寮までの地図をたよりに整備された林道を進む。


「あのドーム会場って学園の施設だったのか」


 もらった学園マップを見れば、広大な敷地にあの試験会場がすっぽり入っていた。


「学生寮はどこだ?」


 自然公園のような敷地内を彷徨うこと30分。そこだけ急ごしらえ感たっぷりの2階建てプレハブに辿りつく。


「これだよなぁ……たぶん」


 入寮案内の外観写真と見比べるとこれしかないが。

 学園機材の問題なのか、ゲーム系学科のお遊びなのだろうか、80年代初頭のパソコン一式でプリントしたような英文字とカタカナ表記の案内ページを読み解く。

 気の早い話だがなぜか既に部屋割りも決まっていて、自宅から生活用品も一足先に搬入済みとのこと。もはや逃げられない状況だ。


「……ワンルーム西角、バストイレ付き」


 俺の部屋になる角部屋のドアプレートには『麻生 京』と書かれている。


「受け入れ態勢は万全ってことか。俺が推薦試験に落ちてたらどうするつもりだったんだ……っと、考えるのはあとだ。とりあえずこの等身大フィギュアを降ろしたいな」


 たどり着けた安心感で緊張がほぐれたのか、背中合わせに背負っていた等身大フィギュアの圧が無視できなくなった。


「ここから俺の高校生ライフが始まるのか」


 上下3部屋づつ、計6部屋あるうちの一階左端が俺の牙城となる部屋だ。

 もらっていたカギを質素なドアノブに差し込み、いざ入室! が。

 部屋の面積は約八畳と申し分ない広さなんですが。

 あるんですよ、ど真ん中に。跳び箱四段くらいの岩が。


「なんで岩? え、風流演出的なやつ?」


 建材の余りで室内に枯山水造ってみましたってか!?

 にしても部屋の中央って。邪魔でしかないんですけど。そしてよく見れば床下から生えているじゃありませんか……


「入学前のプレいじめ?」


 いや、それにしてはエッジがききすぎている。そもそも進学先がここしかない以上、こんな事で怯むわけにはいかない。クレームは後回しにして、簡単に取り除けないのなら気持ちを切り替えて岩の利用価値を考えようじゃないか。

 あらためて部屋を見回す。


 ①備え付けのテレビ、エアコン、冷蔵庫。

 ②私物の入った届きたてホヤホヤのダンボール箱が5個。

 ③優勝賞品の等身大フィギュア。

 ④フローリングを突き破って鎮座する岩。


「明らか③④不要なんですけど!」


 岩を移動させるには掘り起こすしかなさそうで俺の手にはあまる。しばらく考えて、とりあえず邪魔な③④をニコイチにすることにした。

 幸い岩の上面は平坦で等身大フィギュアの台座にピッタリだ。

 そして岩を触って分かったのは、石というよりも硬い粘土みたいな質ということ。


「コレ、おまけの武器セット刺しておけるんじゃね?」


 等身大フィギュアに付属していた剣などの武器セット。フィギュアの周囲に突き刺しておけばそれなりに『映える』だろう。


「まずはコレかな」


 メイン武器の大剣を取り出してフィギュアの隣りへ突き刺した。


『っく、きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっつ!』


 耳をつんざくような悲鳴がワンルームに反響する。マンドラゴラが実在するならこんな感じだろうか。

 一拍置いて岩から吹き上がる血しぶき。


「うわぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっつ!」


 赤黒い生暖かな液体に視界を奪われ、パニックになった俺も呼応するように叫んでしまう。

 かろうじて残った理性で後退り、視力復旧のためポケットからハンカチをさぐり出して顔を拭う。


「なっ……!」


 血しぶきが晴れ、目に飛び込んで来た第二弾といえば。

『頭に大剣が突き刺さった状態で血だまりに横たわる美少女』だ。


「どうしてこうなった」


 牙城になるはずのワンルームが血に染まっているんですが。

 夢の学園生活の拠点が一転、悪夢にうなされる殺人現場さながらになってるんですが。


「捌けねーよこんな変化球!」


 等身大フィギュア、ジル・コーニャ姫専用の大剣が左側頭部から右へと貫通し、深々とイっちゃってるんですが。


「冷静ムリ! ほんと、どーしてこうなった!?」

「……たすけて……ください」


 か細い声で俺の腰元にすがりつく頭に剣が刺さった血まみれ美少女。


「ぴやぁーーーーーーっ!」


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