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第1話

第1話


 受験シーズン終盤。

 第一志望、第二志望、滑り止めと、三校すべて箸にも棒にもかからなかった俺。

 中学校生活最後にして最大のピンチを迎えた俺は、昼休みに担任から進路指導室へ呼び出されていた。


「先生、なんで合格発表には前後賞ってないんですかね」

「まぁ、お前の場合あったらあったで前後賞の前後賞と延々必要になるのだろうな」

「受験三連敗の生徒に対して容赦ないですね。さすがクールビューティーチャーで有名な峰倉先生だ」


 アップに纏めたボリューミーな黒髪に、赤フレームのザマス眼鏡からのぞく切れ長の目。

ステレオタイプの女教師27歳は伊達じゃない。


「そう褒めるな、麻生よ」


 褒めちゃいないんですが……あ、でもちょっと嬉しそう。


「お前が好きなアニメや漫画の主人公はたいてい負の陰とかを持っているのだろう?」

「俺の受験失敗がファッショントラウマ感覚!」


 教師とは思えない発言だ。


「まぁ落ち着け麻生。三試合完封で弾みがついたお前に耳寄りな情報を持ってきた」

「あんたが担任じゃなかったらそのザマス眼鏡割ってますよ?」


 胸ぐらを掴む勢いで立ち上がった俺に臆することもなく、崩れた書類群を淡々とまとめ積み直す先生。


「時に麻生よ。ゲームが好きだったよな?」

「まぁ普通の人よりは」


 中学生男子なら俺に限らず、概ねゲーム好きだと思うけど。


「私の知り合いが麻生の完封試合を憂えてドラフト1位に指名してきた」


 話が見えないんですが。


「は?」


 でも、なんとなくバカにされてる気がしていつでも振り上げられるよう、座っていた椅子の背に手をかける。


「とりあえず眼鏡外せ、数学教師のアンタを物理で殴る!」


 受験失敗の俺に怖いものはない。もう卒業するし。


「上手いこと言ってないで落ち着け麻生。私の話、理解できていないのか?」

「抽象的すぎる上にちょいちょいディスってくるもんでね!」


 まぁ、理解できるほどの脳なら受験失敗もないんだろうけど。


「褒め上手だな、麻生は」

「だから褒め……もういいや」


 怒るのもバカらしくなり、かぶりを振って座りなおした。


「で? この絶望真っ最中の男子中学生に、何処の物好きがなんのオファーですって?」


 気持ちをリセットし、腰を据えて目の前で妖艶に脚を組み直すバカ担任と1対1の面談に挑む。


「eスポーツ……といったか……知り合いの高校で近年、専門の科が設立されてな」

「え! まさか俺がその学校にとか?」

「察しがいいな。ざっくり、そういう事だ」


 コネでもツテでも今は藁にもすがりたい状況だが……


「でも俺、普通にゲーム好きなだけでガチゲーマーって訳じゃないですよ? eスポーツで食っていける腕があるわけでもないし」


 オタクの嗜み程度には好きだが、俺の専門はもっぱらアニメや特撮だ。


「そこは大丈夫だろう。先方もそれなりに麻生の身辺調査をした上での推薦枠だからな」


 この降って湧いた推薦という魅惑のチャンス。人選基準はさっぱりだが、もうあとがない崖っぷちの俺には渡りに船だ。


「その物好きな学校ってどこなんですか?」


 なんの能力も持たない、まさに本来の意味で『普通の高校生(予定)』の俺に興味があるなんて。


「朱鴒天学園」

「シュレイテンガクエン? 聞いたこと無いですけど」

「まぁ女子校だからな。知ってたら逆に怖い」

「推薦もらえるならどこでも……って、女子校!? あやうく聞き流すとこだったケド、女子校!?」

「そう興奮するな。思春期真っ盛りだから仕方ないのだろうがな」

「いやいや、興奮のベクトル違うから! いいかげん届けよ、俺の思い!」


 思春期男子、俺を含めアニオタ脳の同志ならばご他聞に漏れず一度は妄想するシチュだ。

 思考回路がちょっとアレな相手にすれ違いを散々繰り返し、このブレない担任女教師との攻防戦は昼に始まり放課後まで続いた。


「……つまり要約するとこうですね?」


 ■女子校が共学化に伴い、男子生徒数増加を見込んでeスポーツの専門科を設立

 ■その第一陣として『何故か』俺に白羽の矢が立つ

 ■めでたく俺の進路決定


「そうだな」

「たったこれだけの内容に何時間無駄にしたんだ。言葉が足りないにもほどがあるだろ」


 なんにしろ俺の進路が決まって良かった。良かったのか、コレ? 本当に手放しで喜んで良いのか俺?


「麻生、乗れよこのビッグウェーブに。 春からはめでたく女子高生だぞ」

「女装で通学とかマンガみたいな展開じゃないでしょうね?」

「なんだ、女装したいのか。さすがに引く」


 あらためて椅子を振り上げたところで通りすがりの体育教師にタイミングよく止められた。


「とにかく興味があれば来週に推薦試験を受けろ。合格なら入寮、その一週間後には晴れて高校生って流れだ。健闘を祈る」

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