第11話
シーズン1、最終回です。
第11話
「麻生クン、こっちだよぉ~」
俺達の教室があるC棟はグラウンド右側、本校舎から徒歩五分くらいの奥まった森の中にあった。
五階建て相当の円筒状校舎で、周囲はそれを取り囲むような感じで円形に拓けている。手入れされた芝に赤レンガが放射状に敷かれ、独特な形状の校舎はいい感じにファンタジー臭を醸し出している。
「ずいぶんとファンタジックな外観だね。ゲームに出てくる建造物みたいだ」
「eスポーツ科だからねぇ」
形から入る校風なのだろうか。外壁は起伏にバラつきがある無骨な石が組み上げられたデザインで、ロッククライミングが出来そうだ。
登校口は重厚な木戸が左右内側に開放されていて、中に入ると広さはもちろん一階は天井がとても高く、二階分くらいブチ抜いた学食になっていた。
「すごいでしょ~。ちょっとしたオシャレカフェなんだぁ」
校舎内も外観に負けず劣らずでファンタジックな造りは変わらず。一階カフェのテーブルやイスは木製が中心で、内装は石壁と木枠をベースにシックな雰囲気だ。生徒が居なければ冒険者ギルドとか、ソレっぽい酒場と言われても全然違和感が無くテンションが上がる。
「金かかってんだろうなぁ。優雅な学生生活が送れそうだね。授業内容は不安だけど」
「私達の教室は二階の奥だよぉ」
石階段で二階へ進むとそこは普通に学校の造りとなっていて、現実へと引き戻されてしまった。だが、外壁に沿って弧を描く窓は極力フレームを減らしてあり、教室までのパノラマ展望と自然光を提供してくれた。そしていざ級友(予定)の待つ教室へ!
「おはよ~」
吉尾さんは臆することなくガラリとドアを開け、笑顔を振りまきながら入室を果たす。さすがだなぁ、緊張する俺とは大違いだ。
「お! 姐さん、おはようございます。朝から同伴登校とは羨ましい」
「もぉ~、姐さんはやめてよぉ。それに今年の主人公は私じゃないんだから」
え? 何が起きているんだ? 俺以外の男子生徒?
「こりゃ失礼、そちらの御仁が今回の主人公でしたか。小生は『茂鰤林』といいます。気軽に茂鰤林とお呼びください。以後、お見知りおきを」
瓶底眼鏡を掛けた「モブリバヤシ」と名乗る彼は、特徴的な言い回しなのに本人自体からはなんのオーラもなく、気を抜くと周囲と同化して存在感を消してしまう男子生徒。へりくだってはいるが、とても自然体で嫌味じゃない。
「モブリバヤシって珍しい名前だね。俺は麻生京、よろしく。俺のことは『アルト』でいいよ。君も推薦を勝ち取ったクチ?」
「いえまぁ、茂鰤林は屋号みたいなもので。入学の経緯はアルト殿と違って少し特殊といいますか……」
「茂鰤林君はモブコースの生徒なんだぁ。麻生クンのサポートも担当してくれるはずだよ」
答えあぐねている茂鰤林君に助け舟を出す吉尾さんだけど、どうもぴんとこない。彼とは顔見知りのようだし、あとで詳しく聞いてみよう。
結構話し込んでいたらしく、気がつけば教室内の座席はほとんど埋まっていた。
「なんか昨日より明らかに人数減ってるよね?」
「うん。昨日のオリエンテーションの時はまだ選択クラス分け前だったからねぇ」
あの馬鹿げたクラス分けか。ってことは、ここにいる二十人ほどの連中はみんな『美少女ゲーム』を選択したんだな。
「あらためて考えるとホント不安しかないんだけど。俺はこの学校へ来て正解だったのかなって」
「だいじょぶだよぉ、お姉さん達が全力サポートするよぉ~」
「そうですぞ! アルト殿」
エア腕まくりする吉尾さんに茂鰤林が加わった。
「みんな席に着け」
そこへタイミングよく峰倉先生が入って来たのだが、ドアを後ろ手で閉め教壇に立つ先生に注目する者は少なかった。だって目を向けたドアの上半分、嵌められたフロストガラス越しに異様な横長のシルエットが揺れているんですもの。俺は見慣れているけど、初見の人はこの通りザワつきますもの。
「入学二日目だが、さっそく転入生を紹介する」
ほんと早速だな! 昨日入学式で今日転入って、巨大通販サイトもびっくりだ。俺達と同じ新入生扱いでいいじゃん。
「マイネッタ君、入っていいぞ」
「は、ひゃいっ」
ひゃいって。ジル子のやつテンパってるなぁ。そして案の定、
『ゴッ!』
「あう」
頭の剣が入室を遮る。学習しねぇなぁ、横になりなさいよ、そうそう横向きで。
ガチガチのまま教室入りをはたしたジル子は、くるりと黒板へ向かい、転入生のセオリー通り自分の名前を書く。後で聞いた話だが、昨日今日人型になったコイツが辛うじて読めるカタカナを書けるのは、吉尾さんの功績が大きかった。
「ラ、ラドール・フォン・マイネッタです。皆さん、よろしくお願いします」
背にした名前同様、声も緊張で震えている。
「そういう訳だ、みんな仲良くして欲しい。席は麻生の隣りだ」
テンプレートに事が進むなぁ。
「ど、どうでしたか? あるとさん。わたし、ちゃんと自己紹介できてましたか?」
「上出来なんじゃないか? 現在進行形でザワついてるけども。お前は緊張で頭いっぱいだろうから見えてないと思うがな」
目の前で揺れる大剣を躱し、その剣先へ目配せして小声で伝える。
「そうでした! 峰倉先生からのアドバイスを忘れてしまいました」
「どうしたジル子、急に立ち上がったら更に目立つぞ」
「み、みなさ~ん、ご、ご心配なくぅ~! こ、このぉ~頭に刺さっているのはぁ~……カ、カチュ~シャですよぉ~?」
ムリムリ! ジル子さん、無理ですって! 引きつった笑顔で「刺さってる」言っちゃってますし! あと語尾を疑問系にするな、そこは今後のため自信を持って堂々とだ。
「この学園は服装やアクセサリーなどに縛りはない。特にクセの強いキャラ付けが重要なここ『美芸クラス』ならなおさらだろう。彼女の本気を汲むと同時に、諸君らも一歩先行くマイネッタ君に差を付けられないようヒロイン道? を精進して欲しい」
ジル子の不安げな表情を読んだ担任が教師らしいフォローを入れ、吉尾さんが言っていた主張の激しいカチューシャで押し通した。が、あんたも疑問系になってどうする! ヒロイン道ってなんだよ。
しかし俺の心配は取り越し苦労だったようで、興味本位でザワついていた連中もなぜか先生の一言で静かになった。
「今年は主人公役の男子と、ジル子ちゃんという強インパクトヒロイン加入で楽しくなりそうだねっ! 期待してるよぉ」
甘い香りを纏って後ろの席から乗り出してきた吉尾さん。柔らかい両手で俺の手をふんわりと包み、引っ込み際にヒロインスマイルで「麻生クン。お姉さんを卒業させてね」と囁かれてしまった。
「さて、ここにいる者は皆級友でありライバルだ。切磋琢磨し極上のヒロインを目指して日々研鑽してくれ」
eスポーツの話ですよね? 俺の認識と大きくズレてると思うのは気のせいですよね?
「どうした麻生。顔色悪いぞ、しっかり寝たのか」
しっかり寝たかと言えば、あんた達のせいで寝不足だが、俺の不安はソコじゃねぇ。
「先生、eスポーツ理解できてますか? この前まで中学校の化学教師だったのに」
「麻生よ。お前こそ理解しているのか? おそらくeスポーツの認識が甘いのは麻生だけだと思うのだが」
この人、特大ブーメラン近距離で全力投擲しちゃったよ。
「まぁ、こういうのは実践の方が早いか。麻生ひとりが皆の足を引っ張るのも困るしな」
確かに俺ゲーマーじゃないし、ギャルゲーのeスポーツって何一つ理解できてないけども。峰倉に言われるとちょっとアレだよなぁ。
「今日は初日でもあるし、理解が追いついていない級友のためにもeスポーツの基礎と実践を始めよう。全員、十分後に一階食堂へ集合だ。茂鰤林、ちょっと手伝ってくれ」
「御意」
いちいち芝居がかった言動の茂鰤林。リアルだと結構イタイなぁ。
なんにせよ、謎の多いってか疑問だらけの授業初日が始まるようだ。
『シーズン1 入学編』いったん終了です。
ストックが貯まり次第、シーズン2を始めたいと思います。




