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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第四章 神殺し編
93/183

93:特務機関



「で、弟子にしてくれ!」


 プライドの高い彼には珍しく、それは真摯なお願いだった。

 明るい赤髪と瞳を持った少年の吸血鬼。

 つい先日、魔王ラーより新たな『メラゾセフ』の名を賜ったその少年。

 頭を下げるでも、腰を曲げるでもなかったが、その真っ直ぐな瞳を見て真剣さは伝わっていた。


「ふむふむ。……ほっほ。教え甲斐がありそうじゃ。じゃがわしは厳しいぞ?」


 そう応じたのは、襲撃があった際に魔王ラーに連れ添う様に居た、文字通り鬼の将軍だ。

 当時の魔王軍幹部序列九位、“鬼武神”グラハスだ。

 グラハスはメラゾセフを一目見てその潜在能力を見抜く。

 真祖の血筋なだけあり、鍛え上げればどこまでも強くなりそうであった。


「望むところだ!」


「ふむふむ。その意気や良し。ではよかろう。後で泣きを見ても知らんぞ?」


「ほ、本当か!? よ、よっしゃ!」


 まるでその確約だけで強くなれたかの様に、メラゾセフは喜んだ。

 実は二人がまともに会話したのはこれが初めてであった。

 メラゾセフがグラハスを選んだ理由は単純。傍から見ていても、信用の置ける人物だと思ったからだ。

 物腰に隙は無いが、堅い訳ではなく、時折知見の広さも垣間見る。

 周囲からの信頼も厚く、何よりも自分との相性が良さそうだった。


 もう一人、魔王軍を統括する将軍であるニグラトスも候補であったが、数度見た時だけでも随分と忙しそうであった。

 師弟として一対一で教わる以上、面倒見の良い者でなければならないと理解していた。

 その点に置いて、バランやラ=ロアでは中途半端になる気がしていた。

 よってグラハスだ。これ以上の適任は居ない。そう感じていた。


 そしてそれは当たっていた事だろう。

 良い師を見つける事もまた、才能なのかも知れない。

 








「生態系が出来上がった特殊な迷宮でもない限り、狩りを続ける野良の魔物の方が当然に霊力は多い。じゃが迷宮の方が遭遇率が多いため、時間効率で言えばこちらの方が良い。単純に場数を熟せるのも良いな」


 そんな師グラハスの声を後ろに聞きながら、メラゾセフは迷宮を進んでいた。

 修行は厳しかったが、教えは適格で愚直に修練する何倍もの経験を得ている実感がメラゾセフにはあった。

 師の影響を受け、得物は似た物である直刀である。


「だが経験上最も効率が良いのは戦場だ。人間は魔族を狩り、魔族は人間を狩る。大きな戦争があった時代は平均レベルが非常に高い」


「戦争……。住民の数が増えて国力が安定したら、人間に宣戦布告するんでしょ?」


「そうじゃな。近い内そうなる。その時はお主に合った戦場へ連れてってやろう」


「やったぁ!」


 強くなれる事に喜ぶメラゾセフ。

 魔王国内の迷宮を荒し周り、一年足らずでレベルは10を越えていた。


「わぁ! 見た今の!? すごく綺麗に入ったの!」


「ほっほ。見とったぞ。成長したのう」


 若くして闘気を扱い、現れた巨大な狼の首を切り落としたメラゾセフ。


「レベルの成長が速すぎると適性が追いつかない場合もあるが、お主には無用の心配かの」


 種族的、血統的に才能に溢れている。

 いや、そもそも本人の才能がありそうだ。

 そう思うグラハスだった。


「じぃちゃ、じゃなくて師匠! もしかしたらレベルが上がったかも知れない!」


「ほうほう……確かに、レベル11じゃな」


 レベル差は大なり小なり、誰しも本能的に感じ取る能力がある。

 見ただけで一桁代までのレベルを感じ取る事ができたグラハスは、やはり幹部級に見合う技術の持ち主だった。


(わしの指導の下とは言え、これ程の成長率とは……。人が成人になるだけでゴブリンに勝てる様に、竜が成長するだけ火が吹ける様に、この子も種族的に強くなる要素がある。結果、レベル差的格上を屠り続け、この成長率か……)


 置いて行かれるのではと思う程、勝手に奥へと進んでいく背中を眺め、そう思うグラハスだった。


(この子なら、鍛えようによっては幹部級にすらなるやも……)


 いや、なってもらわねば困る。

 弟子入りをした以上は、師を越えてこそだ。


(その時を楽しみにしておるぞ。メラゾセフよ)









 その後魔王国は王国との戦争を開始する。

 国が国と認められるのは他国との何かしら外交、つまりは後ろ盾の様な物があって初めて世間から認められる事となる。

 だが戦争も一種の外交だ。

 魔王国は強引な手で世間へと新国家の樹立を宣言したのである。


 そしてメラゾセフはグラハスの指示の下、戦場を駆け抜ける事となる。

 十年で魔王国内にある迷宮は荒し尽くし、レベルは30を越えていた。

 種族的、血統的に有利だったステータスも、レベルの上昇と共に周囲との差が埋まりつつある。

 グラハスは長年憂慮していた、不足しているステータス的格上、でなくても同格との戦闘経験を戦場で積ませようとしていた。


 結果は上手くいった。

 メラゾセフはレベル、ステータス、それに見合う経験や技術を得る事になる。

 修羅場を潜った経験を何度も経て、貴族階級のまとめ役と言う顔に負けぬ様な、実力を持った将軍となっていった。









「ラ=ロア様、ラ=ルア様。ご機嫌麗しゅう」


 巨大な泉の近くに新設された魔王城。

 事務室の集まった区間。

 メラゾセフは久しく見た二人へと、胸に手を当てお辞儀した。


「あら、うっふふ。見ない内にまた逞しくなりましたね」


「ご機嫌よう。閣下」


 応じる二人。

 それぞれの立場を理解し、当たり障りのない会話をする。

 メラゾセフの抱いていた小さな恋心は、体が大きく成長した今でも小さなまま残っていた。

 だがそれなりに折り合いも付けられる様になっていた。

 この想いは仕舞い、生きてゆく。

 諦めたのかと聞かれても、そうとは言えない。小さな思いは絶えず残り、もしかしたらと言う考えは過る。

 だがそれ以上に立場を弁えると言う、利口さを身に付けてしまったのだった。









 メラゾセフは武功を上げ続け、戦場に出てから約三十年、ついにはレベル70を越えた。

 誰もが認める高レベルの部類だ。

 成長した魔力の影響により髪は赤黒く染まっていった。


「特務機関……ですか?」


 そんな折、メラゾセフは魔王ラーに呼ばれ、給仕以外では二人しか居ない事務室にて、説明されたそれを問い返した。


「ああ。ま、所謂諜報員だね。それを君に任せようと思って」


 座ったまま、そう人好きのする笑みを向けるラー。


「その任、大変光栄なのですが……。私の様な者に任せてよろしいのですか? のみならず、貴族階級の者を……。我々は世服された身の上である故、反乱の要因となるやも」


「ふふっ。大丈夫さ。だって僕は君を信頼しているからね」


 敬愛するその主の言葉に、胸の高鳴りを感じると共に、希望的観測過ぎるそれに不安も過る。

 だがその不安は次の言葉で吹き飛んだ。


「それに、現状残っている貴族階級の吸血鬼達の三割は、僕が送り込んだ根っからの諜報員だからね」


「は?」


 思わず、そう零した。


「40年前のあの襲撃の時には既に、僕が送り込んだ諜報員で溢れていたのさ。だから貴族階級に反乱の動きがあったらすぐに分かるってわけ」


「さ、左様でありましたか」


 い、一体、いつからあの襲撃を計画してたんだ。

 そう目の前の人物が恐ろしく感じるメラゾセフだった。


「ま、ともかくよろしく。さすがにいきなり統括する訳ではなくて、下積みからしっかりとしてもらう事になるから。詳しくは配属される相棒バディから聞いてくれ」


 その後ピンク髪の給仕から案内され、特務機関魔王城支部へと向かった。

 同じ魔王城内だと言うのに、一度も訪れた事が無い様な入り組み、奥深くの場所にそれはあった。

 途中、設置された陣による各種アンチ系魔法の領域に入った感覚があった。

 あの夜もそうだったが、間違いなくアンチ・テレポート・フィールドは張られているだろう。

 『魔王府財務省関税局総務課魔王城第二特別室』。これが表向きの組織の顔だった。

 まさか軍部ですらないとは驚きだ。


「メフェス=ゥラと申します。以後、お見知りおきを」


 明るい赤の髪と瞳を持った吸血鬼の男が、貴族流のお辞儀をしてきた。

 それにメラゾセフは目を見開く。

 同じ貴族階級として、面識のある者だったのである。

 この男がバディとなる者であった。


 これより、メラゾセフは諜報員として活動していく事となる。



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