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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第四章 神殺し編
90/183

90:召喚者VS転生者



 たった一度の踏み込みで数メートルの距離を縮めたその鬼。

 振るった一太刀を剣で受け止める。


「くうっ!」


 お、重すぎる!

 歯を食い縛って腕に力を込めるが、その勢いに俺は吹き飛ばされる。

 地面を滑りながら剣を地面に突き立て、勢いを殺す。

 序でに俺の意思で風属性の切り裂く様な精霊魔法を発動する。

 ヒョーンの力を借りたもので、魔力の消費はヒョーンと、俺もオペレーターとして少し減る。

 練度や精霊との関係にも寄るようだが、付き合いの長いヒョーンとは魔力消費9:1と言ったところか。


 ともかく発動されたその風魔法。

 目に見えぬその攻撃は、しかし鬼が対抗する様に振るった刀の後、まるで勢いが無くなったかの様に微風を作っただけだった。


 な、なんだ?

 魔法を、斬ったのか?


「練られた闘気は魔法をも斬ります! 不意を突くか物量で押すしかありません!」


 と、相変わらずクロコが的確に敵の分析と対処を知らせてくれる。

 これがクロコが居てくれて助かる理由だ。

 レイラは言わずもがな回復役。

 俺達はそれぞれの役割がしっかりとある、今やパーティとも言える様な間柄だった。

 

 魔法が不発になったのは残念だが、端から牽制のつもりだ。

 何より二人が距離を取ってくれればそれでいい。

 だがクロコとレイラは左右別に避けていた。

 言わずとも一塊になってほしい意は伝わっているだろうから、俺がすべきはとにかく鬼の気を引く事だ。


「リョンリー! とにかく炎だ! リリリ―も急で済まないが俺を水で覆ってくれ!」


『おうよ!』


『承知しましたわ!』


 言いながら俺は駆ける。

 同時に広範囲に渡って広がる炎。

 そして俺を覆う様に絶えず発生する冷たい水。

 その中で俺は鬼と剣を打ち合った。


 物量で押すとなればリョンリーが適任だ。

 だがリョンリーとの連係はまだ不十分である。と言うよりは、俺がリョンリーを使い熟せてないと言った方が正しい。

 火属性魔法は強力だが技として繰り出すのが難しいし、リョンリー自身が良く言えば火力重視、悪く言えば雑である。

 故にこの炎はリョンリーが単体で出している炎となる。


 そしてリリリ―は今しがた仲間になったばかり。

 二人に劣らぬ強力な精霊らしいが、当然にまだリリリー経由の精霊魔法は使えないし、リリリー自身どんな芸当ができるか把握できていない。

 故の地味な、だが現状ではありがたい役を頼んだ。


「はあぁ!」


 俺は闘気を込めて剣を振るう。

 鋭い金属音を立てて相手の刀で止まる。

 まるで微動だにしない。俺の希薄過ぎる闘気ではまるで歯が立たない様だ。

 俺の現状の闘気適性は5。相手の13とは比べるまでもない。

 正面からでは叩き潰される相手だ。剣ごと胴体を切り離されても不思議ではない。


「『ウィンド・カッター』!」


 今度は詠唱を行い、牽制でないヒョーン経由の魔法を行使する。

 やはり、それは避けた。

 俺の剣技、と言うより俺は全く眼中にない様だが、精霊は警戒している。

 端から俺の力でどうにかできる相手でないのは分かっていたが、精霊たちと上手く連携しないと死はすぐに届く。


 二人が距離を保つだけの時間は稼いだ。

 リョンリーは広範囲の放火をやめ、俺のサポートに集中する。

 俺の剣技で足りない部分を風魔法、そしてリョンリーの炎でカバーする。


「くっ!」


 急接近。

 鬼が迫って鍔迫り合いと成る。

 同時にリョンリーが火力を上げ、リリリ―も水を大量にかけてくれる。

 だが鬼は怯まない!

 炎をまるで意に介していないかの様に、一歩踏みだし俺を追いつめる。


「くっそぉおう! 火力を上げろーー!!」


 リリリ―の水では誤魔化せないレベルの炎が舞う。

 視界が赤く染まり、熱が蒸発に追いつき肌が焼ける。


「チッ」


 炎で空気が揺れる中、鬼の舌打ちが聞こえた気がした。


「ぐっは!」


 直後に腹への衝撃。

 俺は数メートル吹き飛び、レイラが駆け寄る。


「鬼系統は再生力が強いです! 油断しないで!」


 そんなクロコの言葉を聞きながら、俺は立ち上がりながらレイラの治療を受ける。

 そして離れる二人。

 構える俺。


 見ると鬼の肌は爛れていたが、急激な新陳代謝がなされているかの様に、肌が再生し古い皮膚がぽろぽろと落ちている。

 一応、常時なら重症と言われる様な傷は負っていた様である。

 だがこいつ、痛みを感じないとでも言うのか、その顔は涼し気だった。

 俺が言うのもなんだが、戦い方が正気じゃない。


「はぁ、はぁ……っ。ひ、ヒョーン。相手のステータスはどれだけ減っている?」


 既に息が上がっている俺は絶え絶えながらも言葉を紡ぐ。

 いずれヒョーンが新たな敵のステータス情報を見せてくれた。


 種族名:ハイ・オーガ

 レベル:71

 魔力適性:9  魔力総量:601/601

 闘気適性:13 闘気総量:1203/1226

 状態:正常


 は?

 ほ、殆ど減ってないじゃないか……


 あの魔法を斬った時以外、一度も闘気を使ってないと言うのか?

 こ、これ程なのか? 力量差があると、闘気すら使われずに終わるのか……?


「こんな戦い方をする相手は始めてでな……。大人しくしていれば、楽に逝かせてやるが?」


「それはお気遣いどうも。だが生憎負ける気は無くてね」


 一瞬絶望しかけたが、相手の言葉に正気を取り戻した。

 苦しいのは嫌だ。

 だが抵抗もせずに負けるなんてのはもっと嫌だ。

 無論、勝つのがベスト。

 それは二人も同じ気持ちの筈だ。


「クロコ。奴のステータスは何も変わっていなかった。どうすべきだ?」


「炙りましょう。魔力、闘気を削るのは無視して体力その物を削るのです」


「了解。リリリ―は遊撃を頼む。自分の意思で動いてくれ」


『承知しましたわ』


 そんな会話をする間、レイラは俺に各種支援魔法を掛けてくれた。

 レイラの神聖力は然程多くはない。普段はしない奥の手だ。

 毎度相手が回復を待ってくれるとは限らない故、こちらに回すのは良い選択だろう。

 後が無くなるのは間違いないが。


 この支援バフ状態であるならば俺は魔力適性7、闘気適性6相当となる。

 俺一人なら焼石に水だろうが、魔力適性が上がってヒョーン達との連係が上手くなるのは大きい。


「勝つ気でいるのか……。その意気やよし。だが」


 言って、鬼は俺達を眺めていた。


「舐められたものだ」


「ッ!」


 気づくと目の前まで鬼が迫っていた。

 予備動作は十分にあった。構える所作を予備動作と呼ぶか、だが。ともかくその後が速すぎた。

 鬼は地を抉り勢いのみで滑空し、剣を揺らす程の隙しか与えずに目の前まで迫った。

 闘気だ。奴は漸く使ったのだ。


 そんなどうでもいい事を頭の隅の一割で理解すると共に、大半の九割で避ける事が叶わない事を、下段に溜められた刀を眺めて理解した。


 直後、俺達の間に氷の柱が形成される。

 リリリーだ。

 俺を守る様に分厚い氷の壁を作ってくれたんだ。


 ほぼ同時に上からの風。

 ヒョーンだ。

 珍しく自発的に発動されたその風で、俺は強制的に体を下げる事となる。


 そして炎。

 リョンリーだ。

 周囲に炎が浮かび、相手の視界を悪くする。


 三人の精霊が瞬時に俺を助ける為の行動を起こしてくれた。

 そして振るわれる。鬼の刀が。

 その一太刀にも闘気が練られていた。

 氷を破壊し、炎を吹き飛ばす。直線上にあった木々が余波で切り倒された。

 受けていたら間違いなく剣ごと体がバラバラになっていた。


「ふんっ!」


 転がった俺に縦に刀を振るう鬼。

 自分でも分かる余裕の無い顔で俺は転がるようにして避けた。

 斬撃が放たれ地面が割れる。


「『ファイア・ブレット』!」


 そして鬼の顔面に向けて基本的な火属性魔法を放つ。

 ウィンド・カットと同じく精霊独自の魔法ではないが、リョンリーの力を借りている。

 リョンリーとの連係ができないとは先ほどまでの話。

 今の魔力適性が7の状態なら多少は可能だった。

 

 急に顔面に飛んだ火の弾にさすがに怯んだ様子の鬼。

 振り下ろされた状態の刀と言い、少しは隙ができた。


(頼む! 成功してくれ!)


 嘗てない集中力とありったけの魔力を込めて、俺は魔法を行使した。


「『エクスプロージョン』!」



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