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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第四章 神殺し編
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88:火の精霊



「はははっ。めっちゃテンション高いじゃん。あんたが火の精霊って事でいいのか?」


『そうだぜー! 俺が火の精霊、リョンリーだ!』


 と、その精霊は元気良く言った。

 名前を自覚しているのか。

 ヒョーンの様な落ち着いた感じのばかりだと思っていたが、精霊にも個体差があるみたいだな。


「俺は坂末教一だ。よろしくな」


『おう! 人間と話すなんて久々だぜー! それに同族まで居るじゃねーか!』


「ん? ヒョーンの事か? 呼んでるぞ?」


『何ー?』


 と、相変わらずな気だるげなヒョーンの声が届く。


『おう! あんたは風の精霊だな! 精霊と話すのも久々だぜ!』


『そうだねー』


 特に感慨もない様子で応じているヒョーン。

 精霊相手でも相変わらずだな。


「で、えーと。俺達旅をしてるんだけど、良かったら一緒に来ないか?」


『旅か! そりゃいいな! 楽しそうだ!』


 お、好感触だな。

 もしかしてこれも『愛慕の祝福』のお陰なのか?


「ついて来てくれるって事か?」


『うーん。いいぜ! あんたら英雄らしいしな!』


「英雄? ああ、さっき村の人との会話聞いてたのか? そんな大層なもんじゃないけどな」


「何を仰いますか! 命を張って村を救ったのは事実でしょう!」


「ああ。ありがとう」


 と、レイラが言ってくれる。

 クロコもこくこく頷いている。

 レイラは元からだからともかく、クロコも少しは見直してくれたみたいだな。


『じゃあ英雄だな! 俺は英雄が好きだぜ! この銅像の奴を見てからずっとな!』


 と、リョンリーはそう言ってクルクルと銅像の周囲を回る。


「へぇ。だからこの銅像に住んでるって訳ね」


『ああ! ありゃすげぇ戦いだったぜぇ! あれがもう一度見れるなら、あんたについて行くぜ!』


「ははっ。この英雄様と同じ戦いができる自信はないけどな」


 俺は言いながら銅像に刻まれた文字を読むべく膝を折る。

 村の人曰く、ここは元々更地だったらしい。

 正確には、森が更地になってしまった。

 何でもAランク帯に踏み入っている様なマジの化け物級の魔物がここに住んでいたらしく、それをこの銅像の二人が討伐したらしい。

 だが男の方は相打ちとなって死に、村の人々は悲しみその雄姿を称えて二人の銅像を建てた。

 戦闘の余波で更地になった、つまりはここに。


「偉大なる魔法使いアウルと、偉大なる槍使いロイを称える……か」


 俺は刻まれた文字を読んで呟いた。

 聖暦870年っつうと、200年以上も前か。


「すげー綺麗な人だな」

 

 俺は改めて銅像を見て呟いた。

 緩く波打つ髪を流した女性の銅像は、銅像であるにも関わらず元の女性の美しさを感じさせるものだった。

 男性の方も凛々しく端正な顔立ちだったが、やっぱそっちに目が行く。


「なるほど。こういう女性がタイプなんですね」


「いや、あの……んまぁ、いいや」


 顎に手を当てて銅像を見上げるレイラだった。


「とにかくよろしくな。リョンリー」


『おう! キョウイチ!』


 と、元気良く応じてくれるリョンリーだった。









 それから数日経って街に寄り、俺達は一応討伐報告をするべく冒険者ギルドへと向かった。

 荒くれ共の視線が集まる。

 給仕姿の二人が居るから大分目立つんだよなぁ。

 さすがに慣れたけど。


「おおー。君ってば珍しいね。精霊が二人も憑いてるじゃないか」


 と、唐突に後ろから声を掛けられた。

 振り返ると一人の少女がこちらを見上げていた。

 小柄な少女で、輝く様な金髪をショートにしている。瞳はルビーを思わせる様な赤色。

 シャツにショートパンツと軽装な少女だった。


「すごいな、嬢ちゃん。見えるのか? 中々居ないんだぜ?」


「知ってるよ。にしても珍しい。相当に好かれる体質の様だね」


「ああ。ありがたい事にな」


 と、そんな会話をする間、その少女の連れと思われる女性が背後に寄る。

 黒いドレス姿の美しい女性だ。

 背中に流れる深紅の髪と、同じく深紅の瞳。

 この場には余りに不釣り合いだ。


「見なよ。精霊だよ。凄く珍しいんだ」


「何も見えないよ?」


「まぁ、見える方が稀だからね」


 俺の周囲を見回す深紅の髪の女性だった。


「お嬢ちゃんは一体どこで精霊を見たんだ? 良ければ教えてくれないか? 精霊の友達を探してるんだ」


「う~ん。今までで言えば何十回とあるけど、紹介できそうなので言えば……」


 そう腕を組んで唸る金髪の少女。

 何十回だなんて、大袈裟な。

 俺だって一年探し回ってやっと二人だけなのに。


「あ、そう言えばすごく強力な精霊を見かけたなぁ。でもあれは……う~ん」


「なんだ? 強力であればある程嬉しいが」


「いやぁ、闇の精霊だからなぁ。好かれる体質でもちょっと厳しいかも」


「そうか? じゃあ一応場所だけでも教えてくれないか? それに足る器を得た時に行ってみるよ」


「まぁ、いいけど」


 と、クロコから紙とペンを受け取りメモする少女。


「一応、他にも知ってる奴を書いといたよ。まだそこに居るかは分からないけどね」


「ああ。ありがとう。助かるよ」


 これは良い情報を手に入れた。

 格上を倒してレベルアップもしたし、アプロさんとも話せたし、リョンリーとも友達となって、何だか最近きている感じがする。


「俺はキョウイチだ。またどこかで会おう」


 言って俺は手を差し出す。


「うん。私はアリシアだよ。こっちは」


「スカーレット」


「だよ。次どこかで会ったら進捗を聞かせてね」


「おう」


 と、俺達は握手を交わしたのだった。









 偶然かは分からないが、元の世界と同じ発音で同じ様な意味を持つ言葉はいくつかある。

 スカーレットもその一つだな。

 そう言えば発音自体は違かったが、あの銅像の冒険者パーティの名も同じ様な言葉の組み合わせでできた単語だったな。

 ま、余談だ。


 俺は思うんだが、上手くいくだけの話なんてのは語るに値しない。

 そうなると、俺のここ最近の事も語るに値しない訳だ。

 一体本当にどうしたのか、ここ最近は本当に上手く行っている。

 闘気の扱いも掴めて来たし、ヒョーンの協力のお陰か精霊魔法だって扱えるようになってきた。

 きっとレベルアップとアプロさんの祝福によって上がっている、高い魔力適正による物だろう。


 極め付きはたった今の出来事だ。

 アリシアとか言った少女が教えてくれた場所は当たりだったのだ。

 またも森の奥深く、人々から忘れられた様な場所の祠にて、俺は水の精霊、リリリーと出会った。

 例の如く好感触で話も早く、リリリ―は仲間に加わった。


『まぁ! こんな賑やかな場所は久々ですわ!』


『よろしくな!』


『よろしくー』


 とまぁ、俺の周囲が精霊たちの井戸端みたいになってしまったが、仲間が増えるのは喜ばしい事だ。

 これからもっと修練を積んで、精霊たちを使い熟せる様になる。

 そうすれば俺も、より多くの人々を救える様になる。

 いつかは前線に行って、魔王軍との直接対決だってしていくんだ。


 ――そんなただ上手く行って、希望に満ちただけの話を何故したのか……だって?

 上手く行っていたのは、そこまでだったからさ。


 ザッ、と。

 草を踏む音が一際だって聞こえて来た。


 振り返ると一人の壮年の男が居た。

 青い髪、青い瞳。着物姿で、腰には一振りの刀と脇差が差してある。

 そしてその額から生えた二本の角が、人間でないと示していた。


 一匹の鬼が、そこに居た。



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