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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第四章 神殺し編
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86:チャネリング



 淡い色の空間。

 居心地良い。


 ――夢か……


 何処までも続くかの様な空間で俺は思った。

 明晰夢って言うんだっけ? にしても意識がハッキリしている。


「聞こえますか? キョウイチさん」


 と、俺の名を呼ぶ女性の声。

 気づくと目の前に一人の麗しき女神が居た。そしていつの間にか俺も立っている感覚を覚える。

 夢らしくいつの間にか状況が変わる。

 にしても誰だったかと思っていると、俺を異世界に呼んだ女神であるアプロさんだった。


「結婚してください」


「えぇ!? 第一声それ!?」


 と、アプロさんは驚いている様子。

 驚いた姿も麗しい。


「あ。夢なら何してもいいのか」


「よ、良くないです! いや個人の自由は尊重しますけど、って、そうじゃなくてっ! こ、これは夢の様で夢でないんです!」


 手をぶんぶんと振って言うアプロさん。

 はて? 夢にしては何かリアルと言うか、俺自身意識も大分ハッキリしてると言うか……

 ま、いいか。せっかく夢なら楽しまないと。


「え。ちょっ。な、なんで無言で寄るんですか? 本当ですよ? ちゃ、チャネリングってやつです! あなたと今精神世界で繋がっているのです! わ、私は貴方の夢の存在ではなく、私、アプロディーテー本人の精神が来ているのです!」


「……え?」


 そんな説明をされて俺は冷静になる。

 そんな事が可能かは一旦置いといて、夢の中の人がこんなメタ的な説明するものだろうか?

 冷静、と言うか……なんか冷めて来た。


「な、なんかめっちゃガッカリしてる……。あの、夢の中で好きな妄想をするのは特別咎めませんから、今は話を聞いてもらってもいいですか?」


「はぁ~~~~……そりゃ好きな夢いつでも見れたら苦労しませんよ!?」


「え。ご、ごめんなさい」


 俺は大~きな溜め息と共に言い、アプロさんも面喰っていた。


「ああ。すみません。でも俺まだ17っすよ? 女の子二人とずっと一緒に行動して、夜も監視の名目で付かず離れずの生殺し状態……。ああー! せっかく夢の中くらい自分を開放できると思ったのにー!」


「な、なんかごめんなさい」


 頭を抱える俺をアプロさんは微妙な表情で見ていた。


「はぁ。すみません。愚痴を言う相手も居ないもので……。で、えーと。チャネリングでしたっけ? マジっすか?」


「あ、はい。マジっす。そ、そろそろ受け入れられましたかね?」


「まぁ、現状こうなっている以上は」


 恐る恐る窺うアプロさんに頷く。

 俺は自分の手を握ったり開いたりしてみる。

 不思議だ。体の感覚は夢の中みたいに軽いと言うか、薄い感じだ。

 でも意識はハッキリしている。


「今、貴方と私で精神的に繋がっています。これは貴方に私の『愛慕の祝福』が掛かっている故可能な事です。魔法と言うよりは技術ですかね? すごく難しくて、何度も挑戦してたんですが、今漸く成功しました」


「はぁ。おめでとうございます」


「ありがとうございます。で、えーと。今日は御互いに近況報告をしようと思いまして」


「なるほど」


 一年以上経って漸くか。

 そりゃもう色々ありましたとも。


「あ、超近況で良ければ、今死にかけてますね。多分昏睡状態です」


「えぇ!? た、大変じゃないですか!」


「まぁ。でもこうやって話せてるし大丈夫でしょう」


「か、軽いですね……。にしても、昏睡状態ですか。チャネリングが成功したのはそのお陰でしょうね。精神世界に深く突入しているようです」


「なるほど。なーんだ。これで定期的に会えるのかと思ったのに、死にかけの時限定か。あ、でも死んだは死んだで向こうで会えるのか」


「ぶ、物騒な事言わないでください!」


「へへっ。冗談っすよ」


 へらへらと笑ってみせるとぷんぷんしていたアプロさんも力を抜く。


「にしても、死にかけなんて一体何があったんですか?」


「いやぁー、ちょっと調子に乗って身の丈に合わない敵に挑んでしまって……。ソーン・ヘヴィ・ウォリアーって言うCランクの魔物だったんですけど、いいようにやられちゃいまして」


「Cランク!? たった一年で挑んで良い相手ではありません!」


「で、でしたねぇ。まぁ、何とか勝てたんですが」


「か、勝ったんですか!?」


「ええ、まぁ。つって、ヒョーン頼りでしたけど」


「ヒョーン?」


 と、首を傾げるアプロさん。

 ああ、そりゃそうか。そっから説明しなきゃな。

 俺は異世界に行ってからの事を話した。

 レベルが7になった事や、闘気とやらの扱いを学び始めた事も。


「ってな訳で、今は噂の火の精霊を追って村に立ち寄ってる訳です。いやぁ、今回は期待持てるんですよねぇ」


「なるほど。何だか上手くやってる様で安心しました」


 そう微笑むアプロさん。

 やはりお美しい。


「ではこちらとしてもできる限りの情報をお伝えしますね」


 と、そう前置きしてアプロさんが話したのは、神界の勢力が本格的に魔王討伐に向けての軍を派遣する事が決定されたとの話だった。


「え、マジっすか? それもう楽勝じゃありません? しかも神様の王様まで出るんでしょう?」


「ええ。話の流れでご本人が仰っていただけなので、確定とは言いづらいですが、何分私もこんな事態は初めてなもので」


 マジかぁ。

 じゃあもう任せる感じで良くないか?

 創造主が負ける道理なんて無い訳だし。


「そして、楽勝かどうかなんですが、あまり楽観視するのだけは、あの、控えて欲しいと言いますか……」


「え? でも神様が出るんでしょう? しかもその王様が。負ける訳ないじゃないですか」


「ま、まぁ、もちろん、私も偉大なる父を信じているのですが……。な、何が起こるか分かりませんからね!」


 そう作った様な笑顔を向けるアプロさんは、なんだか勢いで誤魔化した様に俺には思えた。

 んー。この世界を作ったとされる神様なら、ぱぱっと編集するみたいな感じで終わらないのか?


「ちなみに、この全宇宙の創造主があなた方神々であるってのは、マジっすか?」


「え? あー……あははっ」


 そう困った様に笑い、頬を掻くアプロさん。


「あー、なんか、はい。分かりました。もうちょっと危機感持ちます」


 超常的存在かと思っていたが、一応はこの世界の生物って事でいいんだろう。

 どういう経緯で“神”と呼ばれる存在になったかは分からないが、そこは触らぬ神に祟りなしだろう。


「あ、そうだ。重要な事伝え忘れてました。もし、私にどうしても伝えたい事とかありましたら、それを紙に書いて暫しじっと見ていてください」


「え? な、なんすかそれ? それだけでいいんですか?」


「はい。それだけでいいです。なるべく全体を見る様に、じっくりと」


「はぁ。分かりました」


「はい。お願いしますね。あ、時間も決めましょうか。私に見せたい……じゃなくて、伝えたい時の時間を」


 ああ、なるほど?


「もしかして、俺の見た物や風景をアプロさんも見れるって事ですか?」


 と、若干に引き攣らせた顔で微笑むアプロさん。

 この人は嘘がつけないらしい。

 って言うか、触れちゃいけなかったのかな?


「と、とにかく、お願いします」


「はい」


 ってな訳で、朝昼晩と時間を適当に決めた。

 その時間はアプロさんも必ずこちらを見ているって事だし、下手な事できないな。


「ふぅ。まぁ、こんなところですかね」


 と、あらかた用は終えた様で、アプロさんは一息吐いた。


「何かご質問等無ければここで終わりますが……と言うか、私の方も集中力がそろそろ限界でして」


「あ、はい。大変そうっすもんね」


 チャネリング。めちゃくちゃ使い勝手が良いって訳でもなさそうだな。

 なんだか最初よりアプロさんとの距離が遠い気がする。

 それに声も小さくなったと言うか、薄くなっている。


「あ、そうだ。ちなみになんすけど、ここって精神世界なんですよね?」


「はい。一種の別世界です」


 なるほど。では現実の法律も通用しない訳だ。


「セクハラしてもお咎め無しって解釈でおけ?」


「おけ、じゃありません! 集中して損しました!」


 と、集中が乱れたのだろう、その怒った声と共に本格的にアプロさんの存在その物が薄くなった様に感じる。


「も、もう終わりますからね!? これほんとに大変なんですよ!?」


「へへっ。さーせん」


「まったく……女神を揶揄わないでください! ではキョウイチさん。次会う時が魔王討伐の報である事を期待しています。あ、でも無理はしなくていいので!」


「はーい」


 俺自身の感覚も遠くなっていく中、どんどんと薄く離れていくアプロさんの声に応じた。


「ちなみに本物の夢で会ったらセクハラしていいですかー?」


「す、す、す、好きにしてください!」


 なんて慈愛に満ちた女神様なんだ……

 そんな満足感と共に、俺は暗くて深い、眠りと言う意識の底へと落ちて行った。



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