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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第三章 帝国消滅編
83/183

83:笑顔



「この服を可愛いって言ってくれた人が居るんですよ。もう本人は覚えちゃいないんでしょうがね。悪魔は変な拘りを持ちがちなんて言いますが、その血が入っているあっしもその例に漏れないんでしょうな」


「ふーん。なるほどなぁ」


 とある飲食店の個室にて、そう対面座る師範が言った。

 中央の七輪で肉を焼き、煙が立ち上る。


「にしても、臭い付きそう」


「なぁ、呪いが残ってる時はどうやって洗濯してたんだ?」


「自分ごと洗濯し、自分ごと天日干ししてましたな」


「ハッハッハッ! そりゃ大変だな!」


 そんな会話をしながら師範の皿に焼けた肉をよそう。


「ところで師範。ずっと気になってたんですが、何故あの時あっしを師範代に勧誘したんですか?」


「ん? それ別の奴からも訊かれた気がするなぁ。あの時はなんて答えたんだっけか……。ああ、そうだ」


 と、師範は思い出した様に言ってこちらを向く。


「お前、意地汚いだろ?」


「え? すみません」


「ああ、いや。一応、褒めてる」


「はぁ」


 それにはつい空返事してしまう。


「何と言うか、お前の持つ信念はかなり強い物に見える。その為ならプライドなんかすぐに捨てて、最後の時まで抗い、生を諦めない……。まぁ、それが理由かな?」


「諦めない、ですか……」


 そう呟いたあっしの頭には、“銀月の騎士”との戦いの事が浮かんでいた。









 自分でも気付けていなかった様なところを見抜くとは、さすがは師範である。

 諦めないという言葉を聞いて、一番に浮かんだのが“銀月の騎士”との戦いだった。


 あの時、あっしは姐さんを逃がす為に騎士レフトへと交渉を持ちかけた。

 自分の事はどうなっても構わないから、姐さんの事を見逃す様にと。


 で、一見自分の命の事を諦めてしまっているかの様に見えるが、実際のところ全然大人しく負ける気なんか無かった。

 計画では会話で時間を稼ぐ間に自身のダーク・ウェイトを少しでも同調させ、せめて立ち上がれるくらいにはなりたかった。

 そしてあっしには心臓が二つある。首を刎ねられるか心臓を貫かれるかは正直賭けだったが、後者であれば“軌跡の騎士”との戦いで決め手となった様に、ほぼ確実な不意を突ける。


 まぁ多分、その上で負けてたんだろうなとは思うが。

 それに立ち上がれる様になるまで“銀月の騎士”が待ってくれるなんてのは現実的じゃない。


 そしてあの時の姐さんだ。

 姐さんはあっしだけの死を選ぶくらいなら共に死ぬ事を選択した。

 あれにはさすがに参った。

 だからあの時ばかりは、正直言って諦めた感じだ。

 それでも一泡吹かせられるならそうしてただろう。

 主には死んだ振りを続けて、同調もした後に隙を突く……とか。


 それに姐さんの選択を見てあっしの気が変わったのもある。

 心臓が二つある以上、あの時串刺しにされていてもあっしはきっと死なない。

 つまりは、姐さんがあっしの死に様を見る事はない。姐さんが拒絶した、あっしが先に逝くと言う事を回避できる訳だ。

 故に、あの時ばかりは無抵抗を選んだのである。

 反撃はその後でいい。


 無論、“銀月の騎士”を倒してしまうのが理想なのだがな。

 当然にそんな選択の余地はなかった。

 姐さんがあっしだけの死よりも共に死ぬ事を選んだ以上、あっしはそれを演出しなければならない。


 そして、姐さんを置いてあっしだけが死ぬなんて事は、あってはならないのである。



 少し話は変るが、“軌跡の騎士”との戦いで、あっしは心臓を貫かれた。

 体のど真ん中だ。

 あの時あっしは吐血した。ど真ん中に剣が突き刺している様に見えて、肺も傷ついていたのである。

 いや、実際にど真ん中だった。どうしようもなくな。


 ただ肺が傷ついたのも事実。これには理由がある。

 説明すると、あっしの二つ目の心臓と言うのは右の肺と肩甲骨の間にある。

 そしてそれにより右の肺は少し左にずれる事となる。

 故、ど真ん中を貫いたにも関わらず、肺も傷ついて吐血した訳だ。


 で、だ……


 その様に肺がずれている以上、当然に心臓もずれる事となる。

 ここで言う心臓とは真ん中の一つ目の事だ。

 ただでさえ左向きに付いている心臓が、更に左側に少しずれる。

 別に普段は何の支障も利益ももたらさない体の特徴なのだが、強いて言うのであれば……

 本当に強いて言うのであれば……だが。


 ――もし心臓を貫こうとする剣が少し右手側にずれてくれれば、心臓を貫かれている様に見えても、その最悪を回避できるのである……









 と言う事で。


「いやー! 死んだ振り作戦、上手くいきましたな!」


 生きてます。


「「……は?」」


 暫しフリーズしてた姐さんとグルーシーは漸く脳が情報を処理した様に遅れて零す。

 駐屯地にて、粛々としてしまった雰囲気を跳ね返すべく、努めて明るく言ったのだが、唖然と固まるばかりだった。


「ぷっ。ククッ……あっははははは!」


 と、堪え切れないと言った様子で大笑いするフレシア様。

 やはりあの人は気付いていたか……

 立ち回りがあっしにとってすごくありがたいものばかりだったからな。


「え、ちょ。え、何? どういう事? おかしいの? 私がおかしいの? 私がズレてるの? え、え。待って、ほんとに分からない。アドラなの?」


「アドラです」


「バカなの?」


「バカです」


 と、側で座り込んだまま、泣きはらした目を向けて言う姐さん。


「うわぁーん! 良かったようぅぅー! もうバカバカバカぁ! 何で勝手に死ぬのよぉー!」


「いや、生きて……ちょっ、く、苦しい。姐さん、ほんとに死んじゃうっ」


「バカぁ! 心配したんだからー!」


 と、強めに抱き着かれて傷が痛む。

 一応片腕も無くて瀕死なのは間違いなんだけれど。


「もう! もうもう! やめてよね! あんなの!」


「あ、ははっ」


 参ったなぁ。

 怒られるとは思っていたけど、こんな反応は予想外だ。


「やめてやれ。アルラ。一応瀕死だぞ」


 と、フレシア様の声で姐さんも名残惜しそうながらも力を緩めてくれる。抱き寄せたままだったが。

 ほんとに苦しかったので助かる。


 にしても、今回は本当に出し切った感じがするな。

 あの不意打ちも勇者、いやヘルン相手に二度目は通じなそうだし、これ以上の隠し玉は本当にもうない。

 一歩違えば死んでいたと言う様な事の連続だった。

 いい具合の場所に剣が刺さる様調整するのだって簡単じゃない。

 リベンジなんて考えたくもないな。


「ところで、そろそろ出てきたらどうだ?」


 と、上空に向けて言ったフレシア様。

 すると滑る様な所作で空中から降りて来る者が一人。

 靡く銀髪。

 アウラ様だった。


「あら、気づいてたの?」


「私にだけ気づくよう気配を調整しといてよく言う」


「ふふっ。酷いじゃない。気づいてたのに置いていくなんて」


 肩を竦めるフレシア様。


「し、師匠! どうしてここに!?」


「あら、あなたの魔力が二割を切ったからだけど?」


「え。やだっ。私ったらいつの間に……!」


 と、そうやり取りする姐さんとアウラ様。

 この様子じゃ、結構前から居たみたいだな。

 介入しなかったのはあっしの覚悟を汲んでくれた形か。

 まぁ、ヘルン達を騙してたんだけれど。


「にしてもアドラ。ぼろぼろね」


「え、ええ。お恥ずかしい限りです」


「無理して喋らなくていいわ。一時私のところで療養ね」


 ありがたやぁ。そしてまたかぁ。

 嬉しい反面情けないな。


「え、えぇっと。わ、私も一時いいですか?」


「ん? もちろん。ゆっくりしなさい」


「え、へへっ。やったぁ」


 と、そう朗らかに笑う姐さん。

 うん。やっぱこの人には泣き顔より笑顔の方が似合う。


「やっぱ肉って重いわねぇ」


 なんて言いながらフレシア様が凍らせといてくれた腕をアウラ様が受け取る。

 何か情けないし恥ずかしい。


「さてと、意識を保つのも辛そうだし、そろそろ行こうかしら。アルラも来るでしょう?」


「え? あーー、でもアドラが行っちゃう以上、私は残った方が良いかなって」


「そう?」


「す、すぐに追いつきますよ!」


「そっか」


 そう微笑むアウラ様。

 姐さんに支えてもらい、せめて座った状態になる。

 おんぶに抱っこなんて醜態だけは御免だ。

 と、アウラ様が来た以上、もう安心しきって気を抜いていたのだが、姐さんの方はまだ何か言いたそうにこちらを向いていた。


「え、えーと。アドラ。あのー、べ、別にこの一言で終わらせるつもりはないんだけどね? ちゃんとお礼もするよ! でもね、やっぱ言葉にすべきだと思うから、改めて言うね!」


 そう、恥ずかしさよりも伝えたい気持ちが勝った様に、姐さんは言っていた。

 そしてあっしとしてはそれで全てが報われる様な笑みを向けて、言った。


「ありがとう!」



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