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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第三章 帝国消滅編
78/183

78:赤髪の悪鬼VS勇者&聖女



 まぁ、やると意外と楽しいって事はよくある事だよなぁ。


 と、そうヘルンと攻防を繰り広げながら思うアドラ。

 戦闘は極力したくない平和主義者を謳っていた訳だが、自分も意外と戦闘好きな面があった様である。


「ぐっ!」


 打ち抜いた踵を出す横蹴りを受け、ヘルンが吹き飛ぶ。

 合わせた様に居たミティアからの治療を受けるヘルン。


(やっぱ先に女の方を殺すべきかぁ)


 眺めながらそう思うアドラ。


「何故追撃しない?」


「ん? いやぁ、いつか尽きんのかなぁって」


 ヘルンに問われて答えるアドラ。

 聖女ミティアから感じる変わらない神聖さを見て、やはり殺すべきだと決める。


「しっかし、アラン様が討たれるとはなぁ」


「アラン? さては“地獄の悪魔”の事か?」


「ええ。手強かったでしょう? あの方は空間魔法まで使いますからな」


「ああ」


 油断なく剣を構えるヘルン。

 無駄話に乗る気は無い……と。

 やはりあっしなどサクッと殺して魔法使いの手助けをしたいみたいだな。


 しかしアラン様との戦いぶりから何かヒントが貰えないかなと思ったんだがなぁ。

 特に空間魔法への対処が知りたい所だ。

 ここに召喚で飛んで来た時に“聖人”の次点で勇者ヘルンが反応していたのは強者の気配にか、それとも空間魔法特有の魔力の乱れを察知しての事なのか。それであっしの行動も変わってくる。

 気はまったく乗らないが、一度試してみるか。


「『テレポート』」


 アドラは会話中に準備を済ませていたその魔法を発動させ、直線状に三人が並ぶようミティアの近くへと移動した。

 視覚ではなく魔力の動きにより位置を把握したヘルンは反射的にその方向へと向かう。


「ッ!」


 息を飲むヘルン。

 ミティアの位置は当然に把握していたヘルンであったが、反射的な動きであった分視認して漸く気づいた。

 直線状だ。斬撃を放てばミティアが巻き込まれる位置に転移している。


「『プレア・スラッシュ』!」


 一瞬躊躇したが、ミティアにギリギリ()()()()()へと斬撃を放つヘルン。

 同時にその逆方向へと受け身を無視して回避するミティア。


「くっ」


 アドラは避け切れず、二の腕に神聖な力の籠った斬撃が掠る。

 次いで距離を詰めるヘルンに、後ろへ飛んでアドラは距離を取った。

 ミティアを守る事を優先し、ヘルンは追撃をしない。


「あー、くっそ。やっぱてぇわ」


 アドラは二の腕の痛みにそう零す。

 この体に沁みる様な痛み。体が拒絶してるのが分かる。まるで塩か化学薬品でも付いてるかの様だった。


(やっぱ、偶然じゃないよなぁ……。先ほどから間合いが聖女から外れる距離までは移動していない。さっきの動きも位置が分かっていた様だし、光栄な事に警戒されてるみたいだな)


 立ち上がるミティアの側で油断なく剣を構えるヘルンを見ながら、そう思うアドラ。

 対してヘルンも内心では驚いていた。


(やはり空間転移を使う……。嫌な予測が当たってしまったな)


 そう思うヘルン。

 警戒している個体の特徴を理解するのは基本中の基本。

 聖都陥落時の極少ない目撃証言と、帝国軍との戦闘の記録から“赤髪の悪鬼”が空間転移を使う可能性はほぼ確実な物となっていた。

 更にハルにより把握したステータスでは若干の闘気寄りであり、少なくとも魔力を消費する奥の手があるのは確実だった。


 故の反応である。

 ヘルンがミティアと離れ過ぎないのも。ミティアが咄嗟に避けたのも。そしてそれを込みでミティアがギリギリ()()()()()()()に斬撃を放ったのも。


(一応、避けられる前提の動きだったんやがなぁ。やっぱ連携が他と違うな。これが格上や危機的状況を跳ね返してきた、レベル差を埋める数字に表せない勇者パーティの真価か……。ここは掠り傷で済んだと見ておくとしよう)


 そう思うアドラ。


「はぁ~」


 そして大きく溜め息を零す。

 あれを使うしかないかぁ……


「お前の動きは既に見切っている。その武術を使う奴と戦ったのは一度や二度ではないからな」


「ん? ああ、そう」


 と、ヘルンに適当に応えるアドラ。

 なら尚更かぁ。そう思うアドラ。

 一応これでも、努力家なつもりである。

 前回の戦いで学んだことを活かし、昇華できる様には努めているのだ。

 特に激戦や格上、生死を彷徨った様な戦いは例え一回だとしても学ぶ事が多い。


 聖都での戦いで、天使の一人が空間転移を使った不意打ちを仕掛けて来た。

 あれをあっしは自分ができるからこそ読む事ができ、逆手に取って攻撃し返す事が出来ていた。

 勇者は空間転移は使えない様でやり方こそ違えど、空間転移を読んで返り討ちにすると言う事はできている。

 故に技術的に並んでいる。


 あっしら二人にとって、空間転移の不意打ちと、それを予測した返り討ち(カウンター)が一連の物として前提となってしまっているのだ。

 それにまた不意打ちを重ねて、返り討ち(カウンター)への不意打ちに昇華するにはどうすればよいか?


 答えがこれだ。


「『テレポート』」









 何がしたい?

 目の前の悪鬼が空間転移で飛んで、つい疑問に思ったヘルンだった。

 先ほどの動きを見切っていると言う発言は嘘ではないし、無論それは空間転移の事もそうだ。そしてこれ程の武芸の達人ならば当然に嘘ではないと理解している筈。

 まさか自棄にでもなったのか? そんな思考が頭をよぎりつつも、油断なく知覚した方向へと向き、案の定そこに居た悪鬼へと足を踏み出し――


「『テレポート』!」


「なっ」


 ――まずい! こいつ、二重術者レイン・キャスターか……!


 再度掻き消えた姿に、途端高まる緊張と焦りで心臓が一際伸縮する感覚を覚える。

 そして明らかに足を踏み出した、片足が微妙に定まらない位置の瞬間を見計らっての転移だ。

 咄嗟に振り返れない。

 焦りが天上知らずに跳ね上がるのは、悪鬼がすぐ後ろに転移したのを知覚しているからである。


 知覚に体が追いつかない……


「ぐあぁーっ!」


 背骨を砕かれたのはその後すぐだ。









「ふぅ……ちと飛ばし過ぎちゃったな」


 そう呟きながらあっしは勇者が飛んだ方へと向かう。

 さくっと聖女を殺すべきか迷ったが、飛んだ方向が姐さんの近くだと気づいてそちらに向かう事にした。

 勇者は何をしでかすか分からない。一瞬も目を離したくない所だ。


 にしても、上手くいって良かった。

 二つの魔法の枠で空間転移の準備をするのは非常に骨が折れる。

 使い慣れた空間転移とは言え、まだまだ二重術士レイン・キャスターとして未熟なあっしでは負担が大きい。

 それに単純に距離感が分からなくなって、二つ目の転移を上手くできなかったりするのだ。


 恐らくは姐さんレベルの空間魔法の使い手ではないと難しい。完全に自分の位置を俯瞰して見てないと無理だ。まぁ、遠距離攻撃がメインの姐さんがやってもあまり意味が無いだろうが。

 これは格闘術等の接近戦だからこそ真価を発揮する。あっしはアウラ様のお陰で空間魔法にも目覚めているが、本来なら格闘術と空間魔法を組み合わせる者などそう居ない。単純に難しいから。


 あっしも中々練習は頑張ったが、まだ自分中心にしか距離を測れないあっしでは成功率四割と言った所である。

 故に奥の手中の奥の手。実戦でやったのは始めてだし、多分ミスったら死んでた。

 が、成功すればほぼ確実に不意を突ける。


 敢えてもう一度言おう。天使の不意打ちは自分もできるからこそ読めたのだ。

 故、勇者が返り討ち(カウンター)をする事も、自分ができた以上当然想定内。

 そしてその一連の一歩先を行く、更なる不意打ちの事は当然に考える。


 それがこの二連での空間転移だ。

 空間転移を知覚できるからこそ引っ掛かる、性格の悪い不意打ちだ。

 まぁ、性格の良い不意打ちがあるかは分からんが。


「ああ、失敬。邪魔してしまって」


 と、こちらを唖然と見ている姐さんに向けて言う。

 姐さんの事だ。戦闘を邪魔されるのは気に食わないだろう。


 あっしは腰を曲げて転がる勇者を見る。

 下半身は痙攣し、踠く事も苦痛だろう。歯を食い縛って上半身は硬直させている。

 最早殺す事も情けだ。

 

 ここまで上手くいくとは思わなかったが、相手が疲弊していて助かった。

 ここで止めを刺さなければ、きっと勇者様の不思議な力で逆転されるのだろう。

 そんな爪の甘さは演じない。


「ふぅ……勇者打倒も、止む無しか」


 こうなった以上は仕方ない。

 あっしはそう言って、拳で円を描いた。



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