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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第三章 帝国消滅編
77/183

77:魔女VS魔術士



 何か今、すごく普通に『りょーかい』って返事しちゃったわね。


 そう思いながらアルラは気を利かせた様にヘルンと離れるハルの元へと向っていた。

 関わった時間などほんの僅かな筈なのに、何故だが妙に親しみを感じる赤い髪の悪鬼の人物をちらりと振り返る。

 勇者と対峙するその人物。さすがに勇者が相手ではただで済むとは思えない。

 恐らく一番最初に自分が戦闘を終えるだろう力量差がある為、なるべく早急に終わらせて手助けしたいと考える。


 アルラはこちらを見上げる黒いローブ姿の魔術士を見た。

 何かが違えば、自分はあちら側に居たのではと考える。


(私ったら嫌ねぇ。人間社会に未練なんてないの筈なのに)


 アルラは感傷に浸りそうだった自分をそう引き留めた。


「一応、名前……聞いても?」


「アルラよ……言っとくけど、普通に殺すから」


 その言葉にハルは杖を持つ両手が力んだ。

 しかしふっとそれも緩むと、据わった目で魔女を見上げた。


「あなたはどうしようもなく格上です……ですが、レベル差を技量で埋められるのは魔法も同じ。それを証明しましょう」


「私が言うのもなんだけど、その技量も相手が上だとは思わないの? こと技量に置いては魔法の方が経験が物を言うじゃない。小娘に劣るつもりなんて微塵もないんだけど」


「小娘、ですか……。見た目はそう変わらない筈ですが」


「あら? 一杯食わされちゃったのかしら? 確かに霊薬を用いて若返った姿を取ってるわ。つまりはあたなとは比べようのない経験差があるって事よ」


 特別隠してる訳ではない。だがこれを言ってしまえばひよっこ魔術士など絶望が深まるだけであろう、と。そう同情せざるを得ないアルラだった。

 特別相手を苦しめたい訳ではないアルラ。

 特に正義感溢れて勇者パーティに所属してしまった魔法使いの少女など、自分と会敵してしまった事すら可哀想である。

 そしてアルラが憐みの目を向ける中、俯いてしまっていたハルは顔を上げると一言返した。


「なんだババアか」


 え。この子口悪っ。


「べ、別に具体的な年数とかは言ってなくない? そう断じるのは良くないと思うわ」


 論点をずらし、そう大人な余裕を浮かべながら諭す様に言ったアルラ。


「ちなみに、『全知の祝福』は視ようと思えば相手の年齢まで知れ」


「『ファイア・ストーム』!」


 戦闘開始。









 あのババア、大人げねぇ!


 ハルは周囲を荒ぶる炎に包まれながら、そう内心で悪態吐いた。

 半球に展開した結界により身を守っている。

 結界はエネルギーの移動を阻害する為、魔法により生じた熱風、つまりは熱エネルギーの侵入も阻害する。

 故にハルは蒸し焼きにならずに済んでいた。

 また、火属性魔法は燃焼作用その物を魔力によって再現する魔法である為、酸欠を起こすことも無い。


 ハルは同じ魔法の使い手として、“紫髪モーブの魔女”を取り分け気に掛けていた。

 そして神聖国に滞在した際、実際に“紫髪モーブの魔女”と会敵した魔法使いから有効な魔法を学んでいた。

 若くして二重術者レイン・キャスターとなり、稀代の天才であると言われたハルは漸く最近それを自身の魔法へと昇華できていた。

 やはり、一人高みの見物をする様な態度は気に食わない。


「『アンチ・フロート・フィールド』」


「え。ちょっ」


 魔女の焦った様な声が聞こえる。

 魔法により浮遊の禁じられたアルラは炎に向けて自由落下を始める。

 空間転移で炎と魔法の範囲外へと移動しようかと思うアルラだったが、いっそ落下した方が楽だと判断する。

 これくらいの距離なら大した怪我にもならないし、自身の出した炎も抵抗レジストするなど造作も無い。


「えっぶ!」


(え! 泥!?)


 周囲の炎を消し去りながら地面に落下したアルラは、身を覆う感触に驚いた。

 地面は泥状になっていて、勢いよく落下したアルラは既に半分以上の体をその泥に沈めていた。


(ま、不味いんだけど! あの子戦い方上手いんだけど!)


 意思を持って絡みつく泥にアルラは焦る。

 格の違う魔法使いと言えど、この一瞬で対人戦の経験差が出たと言える。

 相手の特徴を理解し不意と弱点を突く、ある意味では当たり前の事をハルはしていた。


 ハルは『アンチ・フロート・フィールド』の発動と共にアルラの落下予測地点を泥状にした。

 故、結界は解除され、得意の抵抗レジストをするも魔法の副産物である熱気は身を襲ってくる。

 肌に火傷を負いつつもハルはアルラの元へと向かう。

 そして二人の抵抗レジストの範囲が繋がり、互いに視認する。


「『ソイル・」


「『ファイア・バレット』!」


 アルラの方が早かった。顔面に向けて放たれた火の弾にハルは結界を出す。

 咄嗟の事でハルは『アンチ・フロート・フィールド』を解除してしまう。


「あら、ご親切にどうも」


 案の定、アルラは泥から浮き上がる。

 魔法で操作されて泥が絡みついていたが、当然に抵抗レジストされている。

 解除してしまった以上、半球の結界の中でそれを眺めるハル。


「これじゃあ素直に転移しとくんだったわ」


 言いながら泥だらけになったローブと帽子を脱ぎ捨てたアルラ。

 その冷静な判断が下るまでに畳みかけるつもりであったが、やはり自力が違う。

 いずれ荒れ狂う炎も収まり、視界が開けた。結界も解除する。


「また同じ事されても嫌だし……『ハイ・フロスト』」


 アルラのその魔法により、広大な範囲で地面が凍結する。

 チッ、と舌打ちしたい気持ちになるハル。

 ハルは土属性魔法を得意とし、それを前提とした第二、第三の計画がご破算となった。


「まあまあやるわね。まぁ、私の方が強いけど」


 言いながら凍った地面に足を付けるアルラ。

 その言葉にアルラを睨むハル。


(あの子怖い……さっきから殺気増し増しでちょっと嫌なんだけど)


 ついそんな事を思うアルラだった。


(やはり強い。ヘルンには悪いが、私が倒すのは現実的じゃない)


 対してハルもそう考える。

 相手が未だ本気を出していないのは明らかだ。

 “紫髪モーブの魔女”打倒には戦士職が必須。

 つまり自分の勝利条件はヘルンかアランの戦闘が終わり、彼らの手助けを貰うまでの時間稼ぎ。

 当然、その思考にはヘルンも至っている。故に彼は早く戦闘を終わらせたい筈だ。

 そして相手の立場になって考えるなら、魔女もまた、この戦闘を早く終わらせて“赤髪の悪鬼”の手助けをしたい筈。


 次で決められる。

 その結論へと至る。

 そしてもし戦局が左右するなら、未だ強さが未知数の“赤髪の悪鬼”の動きである。


「“水銀の魔女”……は、あなたの師匠ですか?」


 時間稼ぎの為にハルは相手に関係のありそうな事を問いかける。


「あら、なんで知ってるの? 『全知の祝福』ってそんな事まで分かるの?」


「ええ」


「へぇー。……いや、嘘ね? だってそれじゃあ訊く必要ないもの。いいえ、そもそもこの会話も時間稼ぎの為。乗らないわよ」


「チッ」


 舌打ち一つ。

 意外と切れる。年の功か。


「次で決めるわよ?」


「仕方ない……覚悟を決めますか」


 とは言え、どうしたものか。

 そうハルが考えた時である。


「ぐあぁーっ!」


 そんな絶叫と共に、遠くで“赤髪の悪鬼”と戦闘をする筈のヘルンが吹き飛んで来たのは。


「「なっ」」


 つい言葉を零した両者。

 ヘルンは腰を不自然な方向に曲げ、致命傷である事は明らかだ。


「ふぅ……ちと飛ばし過ぎちゃったな」


 と、遠く、そんな事を言いながら歩いて来る人物が居る。

 無論、“赤髪の悪鬼”だ。


「ああ、失敬。邪魔してしまって」


 近くまで来るや、そうアルラに向けて言う“赤髪の悪鬼”。

 そのあまりに適当、いや余裕な態度。それがヘルンと戦っていたと言う事実と噛み合わないと共に、ハルは自身の立場を理解し、指先の冷たさを覚えた。


「ふぅ……勇者打倒も、止む無しか」


 そう言って、その悪鬼は拳で円を描いた。

 絶望は加速していく。



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