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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第三章 帝国消滅編
75/183

75:パシられる側を知った今日この頃



 むむっ。

 むかつく、むかつく。


「もう殺す事に躊躇なんかしないんだから! 『ハイ・ファイア・ストーム』!」


 私は荒れ狂う炎の魔法を地上に放ち、私を煽っていた愚か者共をこんがりと炙る。

 風を読んで熱気を避ける様に私は空中を飛んだ。

 火の海と化した一帯。優に帝国軍百人は巻き込んだ筈だ。

 人間は体表面積の三割以上の火傷で死はほぼ確実な物になる。この全方位から炎が舞う魔法を受けて常人が生き延びる事などほぼ不可能である。


「あちちっ。っつ!」


 と、そんな余裕のある声が炎の端の方で聞こえ、私はそちらへと向かう。

 味方が居ないのは確認してたし、私の戦い方を見て近づく事は自殺行為だと味方にも板についてる。


(運が良いか、久々に生き抜いた個体か……。それとも戦闘中の私に近づいた味方アホか……。にしても、まるでアドラの声みたいだったわね)


 と、ここに居る筈のない人物を思って、私は考えを払う様に頭を振る。


(全く、まるで私が寂しがってるみたいじゃない! 赤の他人の声がアドラの声に聞こえ始めるなんて!)


 でも家族の事を想うのは出兵中の軍人にとって尚更普通よね。と、そうも思う。

 まだアドラが幼くて、師匠と共に三人で住んでいた頃を思い出す。

 今の生活が嫌という訳じゃないが、あの頃が一番楽しかった気がする。

 多分あの生活が合ってたんだろうなぁと、正直思う。


 アドラも昔は素直で可愛かったのに、今じゃあんなに生意気になっちゃって。

 どこで育て方間違えたのかしら? まぁ、間違えたなんて言い方しちゃ可哀想だし、そんなつもりもほんとはあまりないけど。

 でも今回の事も、なんだかんだ結局来てくれると思ったんだけどなぁ。

 さすがのアドラも私の我が儘に嫌気が差しちゃったかしら?

 

 と、そんな風に思いつつ、私は炎から逃げた人物を視認する。

 赤髪赤目。黒い軍服に身を包んだ偉丈夫。

 それは先日助けていただいた恩のあるア・ドーラさんだった。


「あわわっ! ご、ごめんなさい!」


 私は慌ててドーラさんの側へと降下する。


「いえ、気配を消してたあっし、じゃなくて私が悪いので」


 と、そう朗らかに笑うドーラさん。

 大人な対応のできる方で良かった。


「ところで、少々折り入って頼みたい事があるのですが」


「頼み? 私にですか?」


 なんだろう!

 ここ三か月戦場では関わる事無かったし、移動中や休息中でも気が引けて話かけられなかったから、現状殆ど彼との接点は無い。

 というのも上級武官を名乗る明らかに上位大幹部だろうと噂されている方が居るのだが、その方との橋渡し役を仰せつかってる様で一介の者としては話かけづらかったのだ。

 故にわざわざ向こうから、それも私を頼った様子で話しかけられてちょっと胸が躍る。


「ええ。結構頼みづらい事ではあるんですがね……」


 と、話を要約すると帝国軍の“聖人”へと至った騎士、通名はまんま“聖人”と識別される個体が最近見かけないらしく、それを探すのを手伝って欲しいと言う願いだった。


「まぁ、危険な立ち回りなので無理にとは」


「やりますわ!」


「……で、すか」


 ふふん。やる気ありますよ~、私。アピール、アピール♪

 何故かドーラさんは肩を落としていた気がするが、さすがに気のせいだ。

 ま、実際あれだけ派手に連日戦ってたのだから“聖人”の気配は把握してるし、自分の気配を消す事は言わずもがなだ。

 強さと空間転移を込みで考えた場合、中々私にうってつけの役の筈だ。


「名前を……で……という事なので、何卒……」


「ふむふむ。仕方がないなぁ。ドーラ、君♪」


 二人で上級武官を名乗る女性の元へ向い、ドーラさんが何やら小声で話しかける。

 気の強そうな美人な方だが、何やら親し気に話している様子だ。


 にしても謎の多い上位大幹部とも接点を持つなどさすがはドーラさんだ。

 不凋花アスポデロスでは謎の上級武官の次点くらいでドーラさんの事も何者だと話題になっている。

 確かにドーラさんは強さの割に名を聞かないし、きっと魔王軍の中でも秘密な立ち位置なのだろう。

 もしかして諜報員なのかな? 凄いなぁ。私諜報員とか絶対向いてないだろうなぁ。


「あ、アルラですわ。よろしくお願いしますぅ」


「うむ。フレシアだ。よろしくな。役職は上級武官となっているが、あまり気にするな。そしてこいつは私の直轄の部下、グルーシーだ」


 と、話が終わった様でこちらを向いた時に頭を下げて言い、それにフレシア様も応じる。

 紹介をいただいたグルーシー様も頭を下げる。


「今回は頼んだぞ。ところで、アドラーは元気してるのか?」


「ふえ? あ、アドラですか?」


「フレシア様……!」


 と、唐突な話題に問い返し、何故かドーラさんが反応する。

 ドーラさんの咎める様な視線に対し、フレシア様はニコニコと笑顔で、と言うよりニヤニヤ?返していた。


「ま、まぁ、今頃のんびりしてると思いますけど……。お知り合いですか?」


「まぁな。奴とは私、友達なのだよ」


「あら、そうだったんですね! いつもお世話になっておりますわ」


「うむ。世話してやってるぞ」


 呆れ顔のドーラさんに横目で見つめられる中、そうフレシア様は尊大に応えた。

 そう言えばこの前、意外と友達が多いみたいで安心した、とか師匠がアドラの事に関して言ってたっけ。

 アドラってば、またいつの間にか変なところで友達作ってる。

 バラン様の時もびっくりしたし、何かあの子は気付くと裏でこそこそと動いてる感じがするのよねぇ~。


「と言うか、異性として付き合っているな」


「まぁ!」


「「ちょっ!」」


 と、フレシア様の爆弾発言に反応を示す各自。

 私は両手で口元を覆って驚き、ドーラさんとグルーシー様は何か言いたげである。


「あの子ってばいつの間に……。それもこんな綺麗な方を」


「いや、ちょっと! あの……!」


「まぁ、今のは嘘だが」


「あら? そうなんですか?」


 さらっと言うフレシア様。

 それに何か言いそうだったドーラさんも落ち着く。

 むぅ。面白い話聞けたと思ったんだけどなぁ。

 にしてもフレシア様は案外気さくな方みたいだ。


 その後、私は“聖人”を探す任務に当たる事となる。









「見つけました……が、現在凄まじい速度で移動しているようです。時期見失います」


 駐屯地にて空中から降りて来た私はそう三人に向けて言う。

 喋りながらも意識の端では遠くの“聖人”の気配を捉えている。


 漸く尻尾を出した、そう思ったのも束の間“聖人”は見つかる事を承知で移動している様だった。

 これは何か優先する物がある動きだ。

 このまま動かなければ、単純に距離の問題で気配を見失うだろう。

 にしてもこう堂々と動かれては逆に追いつくのが大変となる。向こうが本気で振り切ろうと思えば大半の者が見失うだろう。

 さてはこちらの気配には気づいていて、態と何かの次期を見計らっての動きか?


 だとしたら一杯食わされた。

 向こうの軍師は中々の切れ者だ。


「助かったよ。アルラ。私は探索系が苦手だからな」


「いえ、こうも堂々と動いていては、フレシア様でも安易に気づけたかと」


「ん? ああ。苦手とは面倒で嫌いと言う意味の苦手だ」


「あ、はぁ」


 え? 雑用させられた? 私。

 別にいいけど……


 と、とんっと同情した目でドーラさんに肩を置かれた。

 なんだろう。嬉しさとは別でなんかちょっとイラッと来る。

 本当に何故だか分からないが。

 っていうか、この感じ何処かで……


「して、聖人の個体は何故にその様な動きをしてるのでしょうな」


 と、手を退けるとそう皆に向けて言うドーラさん。


「十中八九勇者の助太刀だろうな。こちらの、と言うより失踪した参謀の動きを読んだのなら驚きだが……。……。まぁ、いい。ともかく騎士スフィルを追うとするか」


 そう応じるフレシア様。

 失踪したという謎の参謀。その動きは不確定要素である為、帝国軍に読む事は不可能だと思うのだけれど……

 ま、難しい事はよく分かんないしいいか。

 頭の良い人達が戦略を読み合って、私たちはそれに従えばいい。


「と言う事で、引き続きアルラは聖人の個体を追ってくれ。ここを離れてしまって構わんぞ? それなら見失わないだろう。そしてお前は召喚術が得意らしいな? 機を見て我等を向こうに召喚し給え」


「ん? え、え? 召喚するのは構いませんが、勇者パーティの相手はどうするんです?」


「ん? そんなのは決まっておろう」


 私は嫌な予感がしつつも訊いた。

 何も話を聞いていなかった様で、ドーラさんも驚いた表情をしている。

 そしてフレシア様は然も有りなんと答えた。


「お前たちが相手するんだよ」


 え。ヤダ。



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