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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第三章 帝国消滅編
73/183

73:敗北の味



「たった、四発か……。いや、最初も合わせると五発か。まぁ、妥協点だろう」


 死屍累々。

 かの様に転がる四人。

 生きてはいるが最早藻掻く事も苦痛なヘルン達四人であった。

 周囲は斬撃の跡により荒れ果てている。


「ああ、そうだ。一つ、礼を言いたい事があるんだった」


 と、ヘルンに向けてフルハは言う。


「バランを討ったそうだな。あいつはいつまでも執拗しつこくて、煩わしくて、面倒な奴だったからな」


「な、仲間だったんじゃないのか?」


「まぁ……な。魔王軍に入る前の話さ。じじぃに拾われてから幾度もあいつは俺達にちょっかいを掛けていた。俺からすりゃ、毎度勇ましく戦っている様に見えてたんだがな……。その実、御互いに己を殺して欲しいくて決着が付きそうになっても止めを刺さずに持ち越しの繰り返しだ。今思うと本当に気落ちが悪いよ」


 何も聞かされていないヘルンとしては呆然と見上げる他ない。


「あいつらは一種、共依存だったんだ。パーティメンバーを一人残らず殺された挙句、自分だけ見逃された存在と、伴侶に先立たれた存在。御互いが自責の中で生きていた。仇を討ちたいと言う思いよりも、自身も跡を追うべきだという思いが強い程に……。そして御互いに愛憎を感じていたのさ」


 フルハ一度言葉を止めると、呆然とするヘルンの方を向いて。


「な? きもいだろ?」


 そう問いかけた。

 最早言葉を失くす。


「ハッハ! にしても、じじぃの最後は中々一杯食わせた物だったな! 散々愛憎を培ってきた相手がまさかの目の前で自害! あの時のバランの表情を見れなかったのが残念だよ!」


 先ほどから物言いに怒りが沸いてこないのは、ヘルン自身その話にどこか納得しているからだろう。


「俺の考えだが、あそこでバランは死ぬつもりだったのかも知れねぇな……。あいつはずっと死にたがってた訳だが、じじぃすら失ったあいつが討たれるのはある意味当然だったろうな。……ああ、そういや、『愛を知った悪鬼は間もなく死ぬ』なんてことわざみたいなのがあったっけ? あいつは愛憎を知って因果が回ったのかもな」


 そう呟く様に語るフルハ。


「だからこの礼は仲間の想いとしてもちゃんとあるんだぜ? あいつを開放してくれたな。あいつも伴侶を討った者と同じ魂を持つ者に討たれて本望だったろう」


 ヘルンは話を聞く間に少しは余裕ができた体で上体を起こす。


「結局何が言いたい? さっきからちぐはぐだぞ」


「そうだな……俺も愛憎を感じてたんだろう。だが言いたいことならハッキリしてる」


 と、フルハは真っ直ぐに剣先を向ける。


「図に乗るな。バランが死んだのは事故か自殺みたいなもんだ。お前の力じゃない」


 何も言い返せないヘルン。

 それもまた、納得している部分であった。


「これが本来の幹部級の力だ。そして俺に勝てない様では、無論魔王打倒など永久の先。ヘルン、お前は弱いんだよ。その祝福だって使い熟せてねぇじゃねーか。レベルも技量も何もかも、勇者としての全てが俺より劣っている」


 くっ、と零すと歯を食いしばり、ヘルンは顔を俯かせて拳をきつく握る。


「お前は一つ間違っている」


 そしてそう零すと、怒りに震えながらヘルンは勢いよく顔を上げた。


「祝福がどうした! レベルがどうした! そんなのは関係ない! 勇者とは勇ましき者! 人々の先頭に立ち、希望となり、慕われてこその勇者だ! 祝福なんか序でに過ぎない! お前は屈したんだ! そのレベルになるまで一体何をしていた? 本当に師匠の方針だけが全てか? お前が人の為に動きそのレベルに達したのだと言うのなら、必ずその名が轟いた筈だ! 挙句魔王軍に浴した分際で、その口で勇者を名乗るなー!」


 そう怒りのまま、勢いのままにヘルンは叫んだ。まるで竜の怒号かの様な気迫だ。それを正面から受け、半ば茫然としていた様に黙っていたフルハは。


「ふっ」


 笑った。


「何が面白い……」


「別に」


 睨みつけるヘルンにフルハは顔を逸らす。

 いよいよ正義感からではなく、自身の中から易怒性イライラが湧き出て来るヘルンだった。


「まぁ、いい。俺はそろそろ」


 と言って剣を鞘に収めたフルハだったが、不意にヘルン達が来た方向を見て動きを止める。


「おいおい、マジかよ……俺の動きを読んだのか?」


 そう目を見開いて呟くフルハ。

 ヘルンも意識を向け、凄まじい速度で近づく存在がある事に気づく。

 次第、それは到着した。

 ヘルン達を庇う様に、そしてフルハと対峙する様に立つ一人の騎士。


「す、スフィルさん」


 呆然と、ヘルンは呟いた。









「あまり、いい成長はなさらなかったようですね」


 そうフルハに向けて言うスフィル。


「あんたはあまり変わらないな」


「おや。覚えていただけているとは光栄です」


 そうやり取りする二人。

 穏やかな声音に反してスフィルの剣を既に抜かれている。

 距離は約七メートル。

 闘気を使う達人同士、当然に間合いの範囲内だ。


(既に先手を打たれてる様なものか……。大分相手は消耗してる様だが、ちと分が悪いな)


 そうフルハは考える。


「俺は立場的に危ない橋渡るべきじゃなんでね。この辺で失礼させてもらうよ」


「おや? 逃げるのですか?」


「好きに捉えるといい」


 煽りには応じず背を向けるフルハ。


「またな。ヘルン。次は会う時は決着を付ける時だ。ああ、それと」


 と、フルハはミティアの方に横顔を向ける。


「79個……これでチャラな」


「え?」


 話の分からないミティア。

 次の瞬間にはその姿が掻き消えていた。空間転移だ。

 乱れを感知してヘルンは察する。

 それも無詠唱。


「あいつ、全然本気じゃなかったな……」


 そう思わず零すヘルンだった。

 悔しさに地面を握りしめ、歯を食いしばると『じゃりっ』と嫌な音がした。敗北の味は、土の味がした。









「全員無事な様で何よりです」


 一通りの治療を終え、そうスフィルは言う。

 水薬ポーションによる治癒で各自疲労が溜まっている。

 一番体力の無いミティアは伸びたままだ。


「助かりました。スフィルさん。にしても、どうしてここに? 前線に居る筈では」


「皇帝陛下の密命で参りました」


「レルが?」


「おお! あいつやるなぁ!」


 スフィルの返事に反応を示すヘルンとアレンだった。


(敵の動きを読んだのか……? それとも最初から分かっていて、俺達はその囮……? さすがに考えすぎか?)


 そう思考を巡らすヘルン。


「どうして相手は私たちの事が分かったのでしょう? いえ、と言うより、何故相手が分かっていると、陛下は分かったのでしょうか?」


 と、ヘルンのその先の思考に一人たどり着き、そうスフィルに向けて問いかけたハル。

 その視線を受け、暫しスフィルは無言になる。


「えーと。言えないと言う事ですか?」


「主の御心を差し測るなど、我々には過ぎた事でしょう」


「は、はぁ」


 と、お堅く答えたスフィルにハルは困惑しつつも応じた。


「って言うか、向こうはあんたが居なくて大丈夫なのかよ? すげーえー姉ちゃんの相手はあんたしか勤まらないんだろ?」


「光栄な事に私にしか興味がないみたいでしてね。まぁ、今頃は探してるかも知れませんが……」


 そうアレンの問いにスフィルが応えた時だった。

 突如としてこの場に現れた集団があった。

 空間転移だ。

 ヘルンはその集団を視認する前に空間転移を知覚し、その今までにない規模である事を理解した。

 そしてその理解を一瞬にして塗りつぶすだけの巨大な気配。


 なんて事はない。規模が大きいと言っても、見てみればたったの四人だった。

 だがこの状況。感じる気配。

 逆にこの場に選ばれた四人は選りすぐりだと理解できる。


 反応の間も無い様な時間でヘルンは現れた集団を認識した。

 中央に立つ赤と青の髪を持つ女は『魔王軍幹部序列六位“六花竜”ラ・フレシア』を名乗った個体。

 その側に立つ青髪の少年。今回の戦争で現れ既に“人狼”の通り名が付いている強力な個体。

 他にも“紫髪モーブの魔女”並びに“赤髪の悪鬼”と思われる個体まで要る。


 と、フレシアを名乗る個体は堂々と一人歩くとスフィルの方を見て笑顔を向ける。


「来ちゃった」


 そして嬉しそうに言った。



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