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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第三章 帝国消滅編
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69:とある道場の門弟③



 結論から言って、道場内でアウラ陣営が嫌われたのは魔女アルラのやらかしが後押しとなっている。

 そもそも“水銀の魔女”と“獅子師”は魔王軍幹部でも末席の序列十二位と十一位。互いに魔王軍とは距離がある関係でもあり、主も弟子も、得意とするのは魔法と体術という対局。

 言ってしまえばライバル視が一番起こりやすい。


 そんな中での集団行為の未熟だったアドラの立ち回りと、アウラ陣営であるという噂が重なる。

 それでも所詮は噂だった。そんな事でアウラ陣営そのものが嫌われる様な事はない。

 だが魔女アルラの勝手な行動により、軍に属する道場の者達にとっては覚えが悪くなった。

 勇者と相対するのは本来、参謀本部での慎重な人員の選定と許可が必要なのである。

 一部アルラの事を面白い奴だとか大物になるぞだとか、揶揄いつつも好意的に言う者も居たが。


 そしてこれがきっかけか、魔女アルラは魔王軍との関わりを徐々に持つ様になる。

 同時にその使い走りであり、同じくアウラ陣営であるアドラの存在も関係者には知られるようになった。

 その存在はやはり件の男と同一視され、ダメ押しの様に道場内でのアウラ陣営の評判を悪くした。

 身勝手な動きをした者と、身勝手に利用だけした者が陣営の者となれば当然だ。


 こう見ると意外と嫌われるべくして嫌われた節があるな、と。そう思うベイパスだった。

 とは言え、さすがに態度に出すのは如何なものかと思うベイパス。

 魔女アルラが魔王軍のお偉いさんから説教を受けているところを自分も参加し、半泣きにしてやったと自慢していた道場出身の先輩方。

 その話を聞いて皆の溜飲も下がればいいが、アウラ陣営を嫌う事がこの道場の文化として定着してしまう可能性もある。


 そして実際、そうなってしまった。

 頻度は非常に低いが、“水銀の魔女”アウラは何かと用があって魔王城を訪れる。そしてそれに毎度の如く引っ付いて来る魔女アルラ。

 それを見かけると睨みつけると言う程度の事だが、確かに嫌な文化が根ずいてしまった。


 月日が経ち、師範代を勤めながら軍人としても働くベイパスは、いずれはその文化を絶ちたいと思っていた。

 どうにか直接会って今までの非礼を詫びたい。だが会う方法が無い。そう頭を悩ましていた。

 そしてある日に、自身の取り纏める道場にて手紙が届いている事にベイパスは気づく。

 師範であるリオウからだ。


『今度会議がある。来たい奴は俺の道場に来る様に。早い者勝ちだ』


 それを読み、ベイパスは駆け出した。









 話では幹部会が開かれる時、魔女アルラは“水銀の魔女”アウラの従者として会議に顔を出す。

 接点を持つならここしかない。


 という考えもあるにはあるが、道場出身にとってはリオウの従者として付いていく事が非常に自慢となる。

 主な理由はそれであった。

 極稀にこの各地の師範代に向けた手紙が出され、唐突に始まる駆けっこ。

 今回たまたま早くに手紙に気づけたベイパスが一番乗りとなった。


「おっ。来たな。じゃあ今回はよろしくな! ベイパス!」


「は、はっ!」


 息を切らし、滝の様な汗を流し、鼓動が絶え間なく鳴り響く中、ベイパスはそうリオウに応じた。









 ベイパスは嘗てない程の猛者たちに囲まれ、緊張の極みに達していた。

 いや、囲まれている訳ではない。だがとてつもない存在感を肌で感じるほどの猛者と同じ空間要る事は、まるで竜に囲まれているかの様な錯覚をベイパスに与えた。

 そして実際は竜をも下してしまう様な者達である。


 下位幹部会。

 ベイパスが現在要るのはその会合のある場だ。

 序列十一位であるリオウの後ろに立ち、緊張から微動だにしない。

 明らかに場違いである事を自覚する。


 ベイパスはリオウから認められるだけはあって、軍人となってそれなりの戦果を上げている。

 しかしこの場に居るのは例え従者であってもAランク代。特に序列七位のバランの従者である“地獄の悪魔”アラン。

 人間の都市一つを壊滅させ、バランの勧誘にていきなり側近を任されている悪魔。

 魔王軍の中でも名が通り恐れられている猛者だ。


 ベイパスはここ最近で少し調子に乗ってしまっていた部分を否応なく改める事となる。

 と、ベイパスはいつの間にか集合時間ぎりぎりになっている事に気づく。

 残る空席は序列九位の“夜王”メラゾセフ様の席と、序列十二位の“水銀の魔女”アウラ様の席だ。

 せっかく来たのに欠席か? そう思っていた矢先、その方は来た。


「ふむ。漸く来たか。まぁ、時間通りではあるが」


「バラン様。並びに皆さまも、御機嫌よう」


 序列七位のバラン様の小言は受け流し、というか無視し、その方はローブを摘まむと優雅にお辞儀した。

 ベイパスはその姿に暫し呼吸も忘れた。


(う、美しい……!)


 背中まで流れる銀の髪。こちらを魅了する様な体つき。流し目の中の宝石の様な碧眼。

 色白で造形が整っていて、まるで一流の職人が作った人形の様だが、ふっくらと柔らかそうな頬が生気を出している。

 

 そして後ろに続く、同じくお辞儀をした一人の若い女性。

 背中に流れる紫色モーブの髪。それはアウラの緩い癖毛と違って真っ直ぐに伸びる。


(あの人が魔女アルラか)


 と、大きな帽子に阻まれて見えなかったその顔が、体がこちらを向くと共に見えた。

 ベイパスそれを見て息を飲む。

 胸の高鳴りを感じる。

 何故か眩しく感じて目を逸らす。だが気になって仕方なく、また視線を寄越す。


 と、アルラはベイパスからの視線に気づいた。

 目を合わせたアルラはむっと少し眉を寄せ、不快そうな目を向ける。

 それに慌てて視線を逸らすベイパス。

 まるで『何よ? あなたも私に何か文句がある訳?』と言う様な声が聞こえるかの様な目であった。


 そうだ。最早勇者に勝手に喧嘩を売った魔女アルラのやらかしは十年近く前であり、もはや魔王軍でもわざわざ話題になる様な出来事でない。

 にも拘らず未だに道場出身の者から嫌われている魔女アルラからすれば、そちらが根に持ち過ぎという様な思いだろう。

 これはもはや嫌な思いを一身に受ける魔女アルラとっての方が、根深い事の様である。

 そう今更認識の甘さを自覚するベイパスだった。


「よう、アウラ。聞いたぜ! 体力回復水薬(ポーション)を開発したそうだな! お前ってすげーな!」


 と、アウラが席に着く中、リオウがそう声を掛ける。


「ふふっ。ありがとう。っと言っても、まだ治験が終わってないけどね」


「そうなのか? それってすごい時間が掛かるんだろう? 早速試したかったんだがなぁ」


「そう? じゃあ試験運用を一任してもらえるよう、声を掛けとくわ」


「おう! ありがとう! 皆も喜ぶぜ!」


「無茶な使い方しちゃダメよ? ちゃんと注意事項読むのよ?」


「お、おう……ま、任せろ!」


 そんな会話をする二人。

 絶対読まないな、と思うベイパスだった。

 魔女アウラによって齎された体力を回復すると言う夢の様な水薬ポーションを使い、生命の限界を試す様な修行が待ってそうである。

 普段道場内では『建物が壊れる』と言う至極当然な理由から闘気の使用は禁じられ、技術を磨く事に専念している。

 だが時折リオウの気まぐれで開催される合宿は殆どの制限が取り払われ、死人こそ出ないものの生命の境目を彷徨う事請け合いな猛特訓なのである。

 それが体力回復水薬(ポーション)なんて物を手にしたらどうなるのか……

 門弟たちに幸あれ、と黙祷を捧げるベイパスだった。彼は卒業してるから関係ないのだ。


 結局メラゾセフは欠席という扱いで会議は進み、その間ベイパスは最初とは別の緊張感を得ていた。

 隣の魔女アルラが気になって仕方がない。

 それは気まずさや謝罪を伝えられないもどかしさから来るのか、いっそ関係ない事をベイパスは自覚していた。


「お、ほほほっ。当然でございますわ。何せ私はアウラ様の弟子ですもの」


「ほうほう。それは頼もしいな! あの、アウラの子飼いの者が動くのだ。これは期待が持てるというもの」


 と、アルラがバランに煽られて、この会議の議題である作戦に参加する事が決定された。

 どこか呆れた様な目をバランに向けるアランと、アウラは周囲を気にせず紅茶を飲んでいる。

 ちらりちらりと気になって視線を向けていたベイパスであるが、気のせいか魔女アルラも意識している様であった。

 このしわ寄せがどこかの使い走りに来るのは別の話だ。


(結局、魔女アルラとはゆっくり話せそうにないな……。にしても、王都陥落作戦か。今回は無理でも、いずれ作戦で一緒になれば話す機会もあるか)


 謝罪をすると言う趣旨から少しずつずれている事を自覚しつつも、そう思うベイパスであった。



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