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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第三章 帝国消滅編
68/183

68:とある道場の門弟②



「おい、アドラ。お前の信念は何だ?」


 免許を言い渡されて数日、未だ行き先が決まってないかの様に道場に残る男に向けて、そうベイパスは問うた。


「きゅ、急ですね。信念なんて大それた事……」


「いいや、何かある筈だ。何故お前は武道に足を踏み入れた?」


 ベイパスは確信を持って聞く。

 何せ、『道を極める者は何か信念がある筈だ。あいつもそうだろうよ。まぁ本人から訊いた訳ではないが……そういう目をしている』とはリオウの言葉であり、ベイパスにとっては自分の常識よりも優先される絶対の正解なのである。


「まぁ、強いて言うのであれば、護身用ですかね?」


「納得できん。利己的な欲望から来る目標の達成には限度がある。お前も必ず何か非利己的な原動力がある筈だ。それは何だ? 気になるんだ。教えてくれ」


「今日は随分と仲良くしてくださいますね」


 と、チクリと刺す様な言葉にベイパスは己の愚かさを知る。


「すまない。虫のいい話だったな。お前への非礼を詫びよう。すまなかった」


「え? いや、そういうつもりじゃなかったんですが」


 深々と頭を下げるベイパスに困惑する男。

 特別嫌味という訳では無かったようだが、他の門弟たちが男の陰口を言うのを見過ごし、自身も距離を置いていたベイパスとしてはそう聞こえてしまった。

 いや、そもそも嫌味と受け取ってしまう時点でやましい気持ちがあった証拠。ベイパスは己がまだまだであると理解する。


「そうか。度々すまない。だがお前が理不尽に嫌われている中、何もしてやらなかったのは事実だ。先輩として恥ずべき行為だと自覚している」


「え? 俺って嫌われてるんですか?」


「あっ」


 条件反射的に声を零すベイパス。だが思う。


(こいつ気づかずに五年も過ごしてたのか? もしかしてこいつが浮いてたのってこいつ自身の問題か……? いやいや、そんな事ない筈だ。ともかく申し訳ない事をしてしまった。このフォローはまた今度するとしよう)


「いやぁ、実は私集団生活って初めてだったんですよねぇ。それも同性に慣れてないものだったので、こんなものかと……」


「あ、ああ。そうか。……いや、うん。さっきのはまた今度詳しく話すから。うん」


 何かマジでごめん、そう思うベイパスだった。


「で、お前の持つ固い意志はどこからくるんだ? 夢や目標は? 誰かを守りたいとかか?」


「そう急に言われましてもなぁ」


 頭を悩ます男。


(さすがに唐突過ぎたか。俺に明かしてくれる物とも限らんしな。話を変えるか)


「少し不躾だったな。すまない。ところで、お前はこれからどうするつもりだ? 師範の下で修練を続けるのか?」


「いえ、さすがに卒業を言い渡されてるので近いうちには出ようかと……。師範にレベリングについて相談したところ、目立たずに修練したいのであれば迷宮がお勧めだと言われたので、一時は各地の迷宮を回ろうかとは考えてますが」


「お前は現状に満足せず、さらなるレベルを追い求めるんだな」


「買い被りですよ」


 その謙遜には最早動じないベイパス。

 何と言おうとこいつは誤魔化すのだろう。そう思うベイパスだった。

 何より話してみると意外と話し易いし、力を追い求める姿勢その物には同じく武道を行くものとして尊敬に値する。

 何故もっと早く腹を割って話そうとしなかったのだと、ベイパスは少し後悔する。


「まぁ、あれだ。気は早いが、元気にしろよ」


「ええ。ベイパス様も、長年お世話になりました」


 そう言って二人は握手を交わした。

 組み手の時以外では初めてであった。









 とある日の自主稽古中、談笑をしながら入って来る門弟たちにベイパスは気づく。


「ハハハッ、ざまぁねぇってんだよ。恩知らずの上あんな恰好で来やがって。あんな奴を通せる訳がねぇ」


「どうかしたのか?」


「あ、ベイパス先輩。いや、さっきアドラー……先輩を名乗る奴が来てたんですが、さすがに通せないと思って」


「アドラの奴が? というか、何故門前払いをした?」


「い、いや、だって師範に会わせろって言うんですよ? いきなり来て、それもバカみたいな恰好で……んな失礼な奴師範に会わせられません」


「馬鹿者! 失礼はどっちだ! せめて俺に話を通せ!」


「ッ! す、すみません!」


 ベイパスの怒声に慌てて膝を突き頭を垂れる門弟たち。

 浮いていた奴だが態々そんな非礼をしに来る様な奴ではない、そう分かっているベイパス。

 ベイパスには理不尽に門前払いをした様に映っていた。

 ともかくその門弟たちと共に道場を出て、件の男を探すベイパス。


 まだそう遠くへは行っていない、そう考えて一人町を走る。

 と、遠く一人の男と目が合った。

 そいつは趣味の悪い道化の様な恰好をした奴で、仮面を付けて顔は分からない。

 そんな奴がこちらに気づくと一礼をしてきた。


(誰だ? あんな体格の奴は知らないが、同じ門弟だよな? まさかアドラな訳もあるまいし)


 先輩か後輩かも判断の付かなかったベイパスは一先ず同じように頭を下げる。

 今は急ぎである為、知り合いかどうかも微妙な変人は放っておいて捜索を再開するベイパスだった。

 角を曲がる時に目の端でその男を見ると、男も去り際であった。


(身の熟しに隙が無いな……やはり同じ門弟。それも免許は言い渡されてるだろうな)


 まともな挨拶ができなかった事を悔いつつ、そう思うベイパスだった。

 その後も捜索は続けたが、結局目的の男は見つけられなかった。









「“水銀の魔女”アウラ様の陣営か……」


 道場の端、休息中にベイパスは後輩たちから件の男の話を聞いていた。

 噂程度の事であるのだが、道場内では件の男が魔王軍幹部である“水銀の魔女”アウラの子飼い者であるという話が出回っていた。

 本人は隠していたようだが、やはり噂というのは何処からか出回る。

 “水銀の魔女”アウラと言えば、長年魔王軍に貢献する謎多き人物だ。

 少なくともこの国が出来た頃には魔王軍との関わりがあったと言われいているが、噂に聞くその特徴的な見た目に反して目撃情報は皆無に等しく、その居場所もよく分かっていない。

 空間転移が基本の移動方法の様で、そのお姿を見るのは魔王城に勤める重鎮たちでも滅多な事ではないとされる。


 だが魔王国に住んでいると時折その存在を感じざるを得なくなる。

 要所に設置された各種魔法陣、水薬ポーション類や霊薬の研究、魔導具などの製造も。

 権利関係や製作者を詳しく調べると必ず何処かで目にするのが『アウラ』の名だ。

 最近だと子飼いの者の為に作った『若返りの霊薬』が余ったと言う理由でたまたま市場に出たらしく、その時はすぐに競売に掛けられ値段は天井知らずに跳ね上がったと言う。


 弟子を志願する魔族の魔法使いも数多要るが、その全てを断っているようだ。

 というより、“水銀の魔女”アウラとのパイプを持つ者など限られるので、一介の者では志願の声すら届かないと言ったところか。

 そんな“水銀の魔女”アウラも噂ではほんの一人か二人か気まぐれに子飼いの者を作っているらしく、それが結構な嫉妬の対象になったりもしている。

 そう、件の男もその一人だと噂されていた。


「お前等そんな根も葉もない様な噂を……。まぁ、いい。とにかく、あいつのとの連絡手段を持ってる奴は居ないんだな?」


 ダメ元で訊いてみた事ではるが、やはり件の男と関わっている奴は居なかった。

 それどころか途中から“水銀の魔女”の話で持ち切りになってしまった。


「なぁ、知ってるか? 噂じゃアウラ様の弟子である女も非常に見目麗しいって話だ」


「らしいな。強い美人にこき使われたいものだ」


「いやいや、魔女とは言えそれが人間とか御免だわ」


「ハハハッ、確かに」


「そうか? 強いなら人間でも仕方なくね?」


 と、その場の会話はその弟子の話へと変わる。

 まぁ、ここで件の男の愚痴にならない分、多少は改善されてきてるのかなとも思うベイパスであった。


 そして丁度その時期であった。

 魔女アルラが幼き勇者と交戦し、魔王軍でも問題児扱いされる様になるのは。



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