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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第三章 帝国消滅編
59/183

59:先代勇者の赤竜退治?



 ――どうしてこうなった……!?


 ガタガタと恐怖で震えながら俺は山道を登っていた。

 今日何度目かも知らぬ思いを心の中に零し、俺、レットは今までの経緯を思い起こしていた。









 思えばあの時から全てが変わってしまった。

 村にハウリア教の宣教師を名乗る男が現れたのだ。


『おお、これは!』


 俺が持ったペンダントが光り出すのを見て、その宣教師は声を上げた。

 どうやら俺は『聖杯の祝福』なるものを受けた真の勇者とされる存在だったらしい。

 その後はもうトントン拍子だ。


『おお、あの聖剣カリバンが主と認めた!』


 真の勇者にみが抜くとされる聖剣を抜いて。


『おお、勇者様が援軍に来てくださったぞ!』


 言われるまま戦場を駆け抜けて。


『おお、勇者様が敵将を討ってくださった!』


 そしたら色々上手くいって。


『勇者様ばんざいーい!』

『これでこの国も安泰だ!』

『勇者! 勇者! 勇者!』


 みたいな感じで持ち上げられて。


『ああ、勇者様よ。どうか我等をお救い下さい。この国の北の果てにて赤竜が暴れているのです。その討伐をお願いしたく』


『え? せ、せ、赤竜? 赤竜って、ヤバい奴でしたよね? お、俺まだそこまで強くな』


『おお、聞いたか皆の者! 勇者様はあの赤竜を『奴』や『強くない』等と言い切ったぞ! 詳しくは聞こえなかったが、なんと勇ましい!』


『さすがは勇者様だ! 赤竜とて恐るるに足らず!』


『いや、あの……や、やります』


 ってな感じで周りが盛り上がって引くに引けなくなって、俺は赤竜退治を引き受けたのだ。









「あーもー、なんで断れないかなぁ!?」


 誰も居ない事を良い事に俺は叫ぶ。

 俺は今まで運よくここまで来たに過ぎないのだ。

 赤竜と言えばAランク帯に踏み入った最強の存在。Aランク帯はレベル90以上が適正だというマジのバケモンだ。

 それに比べて俺はまだレベル40を超えたくらいの雑魚。いや、世間で言えばCランク帯の猛者である事は分かっているが、とてもじゃないが竜とはやり合えない。

 でも受けちまったし! 村の人すげー期待した目で見てたし! すごすご帰れないじゃん!

 きっと俺が帰ったらあの村の絶望は深まる。やってみるだけやるしかないのだ。









 ――どうしてこうなった……!?

 祝会を開く村の人たちを見て、俺は心の奥底でそう叫んだ。


「いやはやさすがは勇者様! 三日三晩にも渡る攻防の末、あの赤竜を跡形も無く消し飛ばしてしまうとは! 何と言う壮絶なお力なのでしょう!」


 いや、知らない! 寧ろ遭難して何とか帰って来れた矢先なんだけど! なんで俺が退治したみたいになってるの!?

 確かにどっか遠くの方で大きな音が終始なってるなぁ、とは思ってたけど!

 一体どこの誰だよ! 跡形も無く赤竜を消し飛ばした奴!


「ようレット」


「お、お前は」


 と、この村の者ではない壮年の男が現れる。

 濃い青の髪。整った顔立ちの男だ。腰には一振りの刀を差して、剣士である事が分かる。

 ラゼルとか言う腐れ縁、と言うか勝手に俺をライバル視して追って来ている男だ。

 何かいつもと違う雰囲気に俺はぴんと来た。


(そうか! さては赤竜を討伐したのはこいつだな!? ラゼルであればやってしまいそうな雰囲気がある!)


「赤竜を単騎で討伐したようだな……。くっ、認めるよ。俺はお前に敵わねぇ。どうやら最初っから勝ち目なんて無かったみたいだ。お前に先んじて討とうとした敵将も、結局いつもお前が倒しちまうしな」


 こいつも勘違いしてたー!

 つかそれ、多分お前が弱らせてくれてたのを偶々俺が倒してただけだから!


「頼む! 俺とパーティを組んでくれ! 俺はお前の力になりたいんだ!」


「えぇ!?」


「くっ。驚くのは分かる。何せ俺はまだレベル60そこらだ。お前の足元にも及ばないだろう」


 いや俺より全然高けぇって。

 つかお前祝福も何も掛かって無かったよな? その年でレベル60代って、一体どんなハードなレベリングしてきたんだよ。


「だが俺は必ずお前に追いつく! だからパーティを組んでくれ!」


「いや、何度も言ってるがお前の方がずっと強いんだって」


「な、なんて奴だ……。赤竜を討伐してなおその謙遜。これが本当の勇者って奴か」


「いや、あの」


「勇者レットに、かんぱーい!」


『かんぱーい!』


 村の人の音頭により俺の声は掻き消える。


「ささ、勇者様も遠慮なさらず。かんぱーい!」


「かんぱーい。……はい。もう俺が倒しました。うん」


 こんな楽しそうな姿見せられては、もう否定もできないと言う物です。









 結局ラゼルの熱い思いも無下にできず、俺達はパーティを組んだ。

 戦線の要所や武器を揃える旅をしていく内。


『かの雷名轟く勇者様とパーティを組めるなど! とても光栄でございます!』


 と、言って満面の笑みを向ける神官の少女や。


『ほう。魔王退治ね。悪くない。力を貸すよ』


 と、言って不敵に笑う年齢不詳の魔法使いのお姉さんもパーティに加わり、いつの間にか立派なパーティが出来ていた。

 成り行きと勘違いで加わった強力過ぎる仲間に追いつけるよう、俺も必死で戦った結果、俺のレベルは70代にはなんとか届いた。

 だが思うにこれは『聖杯の祝福』のお陰。ドーピング無しで同じ70代に至ったラゼルとは自力が違い過ぎる。

 それでも祝福のステータス向上のお陰でラゼルとは五分だろう。

 今の方がライバルらしくあるのだが、多分本人は認めないんだろう。


 思うに、祝福にも欠点はある。

 常にドーピングを続けて成長した祝福持ちはその他の同格とは練度が劣る。

 蓄積する練度に開きが出て来るのである。

 まぁ、ステータスの同格ってのは祝福持ちにとってレベル差的には格上なので、それが当たり前ではあるのだが。

 結局何が言いたいかと言うと、自力でレベルが50に達した者と、祝福持ちがレベル50に達したのとでは、蓄積した実戦経験と技術がまるで違う、という事だ。


 もし、仮に。

 レベル、ステータス、実戦経験とそれによる練度、それら全てが上の本物の強者が居た場合、今までとは違って祝福の力では誤魔化し様が無くなる。

 格上が勝つ。それは本来どうしようもない事実であり、極自然的な回帰。

 それを祝福ドーピングにより誤魔化し続けていたツケが回って来るかのように、その時は負けるべくして負けるだろう。


 ――そして、そう……

 ――その日、その時に、()()はやって来たのである……









 パーティメンバーの四人で草原と山の風景広がる、辺境の地を歩いていた時の事である。

 それは唐突にやって来た。

 向かいからやって来る一人の女性。

 何故疑問に思わなかった。色々とヒントはあった筈なのに、この場の誰一人その存在に疑問を抱かなかった。

 素晴らしい域に達した気配の消し方。自身の存在の大きさの操作。

 空気に溶け、その存在を認知しながら気にも留めさせない一種の技術。


「御機嫌よう」


 そして十メートル程度の距離に来て、ただそう一言女は言った。

 とても綺麗な声音。

 黒に近い藍色のドレスを身に纏う、色白の美しい女性。体の線が細く、顔は小さく、鼻筋は通って、目は優し気。美人と可愛らしさの両立である。

 髪は黒い。()()()()()()も黒く、ドレスから出た白い肌が際立つ。

 瞳は深い藍色。そして後ろに付いたこちらを向くもう一つの首の瞳は白く幻想的。

 そう、その女性は首が二つあった。

 うなじの部分から後ろ向きに生えたもう一つの頭。瓜二つの美しい顔立ちだ。

 そしてその二つの頭を飾るかの様に生える、山羊の様に捻じれた二本の角。濃い藍色のそれが人間でないと示している。


「な、何者だ! お前!」


 躊躇なくラゼルが刀を抜く。

 その見た目からではない。相手の存在を認めると共に理解した巨大すぎる存在感にだ。


「あらまぁ。ご挨拶しただけですのに。いけませんわぁ、礼儀がなってなくって」


「お姉様。そう言っては相手方が可哀そうでございます。きっと脆弱な生物なりの生存本能でございます」


「あらそうなの? でもそれはおかしいわぁ。だって生存を優先するなら、逃げの一手が最善だもの」


「ですから、愚かにも立ち向かう彼らは進化論に基づき、淘汰されるのです。今ここで」


「ああ、なるほど。それは納得だわ」


 と、そんなやり取りをする二つの頭、いや二人。


「ま、魔王軍、なのか?」


 分かっていながら絞り出すように訊いた。


「申し遅れました。わたくし、魔王軍幹部が一人、“双頭姫”のラ=ロア」


「ラ=ルア」


「ですわぁ」


 そう、二人は言っていた。



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