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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第三章 帝国消滅編
58/183

58:第十九代目北の魔王



 移動と言っても、この場に居るのは世界でも上位の存在。

 空間転移でひとっ飛びだ。

 基本初めて訪れる場所には行きずらい。練度の高い者なら地図を見て距離感や座標を掴んで行けるだろうが、あっしはまだその域には達していない。

 それは姐さんレベルでないと難しい。


 という事で、フレシア様に三人まとめて送ってもらう事に。

 眩い光に包まれて、あっし達は北の魔王城のある王都を目指す。


「な、何奴!」


 着いた途端、そんな驚く声が聞こえる。

 見るとすぐ目の前に巨大な王城があった。

 ……って、超目の前に飛んで来たな。てっきり王都前に飛ぶのかと思っていたが。

 今叫んだのも正門の衛兵だ。

 ハルバードの剣先を向けて警戒する。


「ま、待てい! その方には絶対に手を出すな!」


 と、城の方から翼を広げて文字通りに飛んでくる者が居た。

 その人物の登場に起立の姿勢を取る衛兵。


「フレシア様! 王城への直接の転移は辞めるようあれ程……!」


「む? すまん。今度は王城前だからいいかと思った」


「ダメです! びっくりします!」


「……ケチ」


 高官らしき魔族の男に文句を言われ、フレシア様は不服気に唇を尖らせていた。

 美人だから様になるな。


「はぁ。貴女はいつも急ですな。こういうのは先ずアポイントを取って」


「諄い。とりあえず魔王に合わせろ」


「まだ言い始めたばかりなのですが……。もういいです」


 高官らしき男は肩を落としていた。

 まぁ、いろいろあったが北の魔王との面会が通った。









「相変わらず貴様は急だな。フレシアよ。あまり部下をイジメてやらんでくれ」


 我等が魔王城に負けず劣らずな厳粛なる北の魔王城の謁見の間にて、その声音だけで場を制すかの様な威厳ある声が届いた。

 あっしとグルーシーというフレシア様の部下は跪く。

 目の前の玉座にて腰を深く座るのは、今の声の主にして現北の魔王、グロア=ドロフ様だ。

 体格の良い中年の男。赤黒い髪と猛禽類の様な鋭い瞳。毛皮のある黒いマントを羽織り、その見た目だけでも威圧感に溢れている。

 魔王然とした御方だ。

 正直、うちの魔王様より魔王っぽい。


「友に会いに行くのに何故予約が要る。気兼ねなく戸を叩く事のできるのが友情だ」


「立場があるのだよ。大人の事情を酌んでくれ」


「私は子供心を忘れていないのさ」


「そうか。絶交だ」


「ちょ!す、すまん! 許せ!」


 と、そんなやり取りをするフレシア様とグロア=ドロフ様。

 あっしが若干呆れた目をフレシア様に向けていると、横からグルーシー様の視線が刺さった。

 グルーシー様は大分フレシア様にご執心の様だ。


「して、漸くアルブレインへと帰るのだな。これで魔物の移動に悩まずに済む」


「酷い言い方だなぁ。迷惑かけた以上の手助けはやっただろう?」


「まぁ、な」


 弱い魔物程レベル差に敏感である。

 かつてフレシア様が山岳地帯に滞在した事によって、魔物の生態系や生存圏が変わってしまったらしい。

 原因不明のそれに町は大混乱。北の魔王軍まで動いて原因を究明していくうち、アリシア様の存在が判明する。

 そしてグロア=ドロフ様が直接出向き、二人は友となった。

 最終的には不法入国や迷惑かけた事を不問とする代わりに魔物の処理を任せたようだ。

 更には今後同じ事が起こらないよう、魔物の生存圏を考えて立ち入ってもよい場所を記した地図を特別に作成、それを北の魔王軍はフレシア様にプレゼントしたらしい。

 これは確かに大分お世話になってるな。


「バランが死んだそうだな」


「ん? え! そうなのか!?」


 フレシア様が驚いてあっしの方を振り返る。


「え、ええ。魂ごと」


「そうだったのか。世情には興味がなくて知らなんだな。私のたったひとつ下の序列の者がやられたのか」


「八位に続いて七位か。迷信を信じる質ではないが、不思議なものだな」


 と、グロア=ドロフ様の発言に疑問を抱きつつ見る。


「いえ、空席は十位と七位の席でしたので……」


 視線を返されたのでそう答えた。


「貴様は従軍して間もないのか?」


「アルブレインの歴史で言ってしまえば」


「ふむ。かつて勇者に討たれたのは序列八位のロア・ルアだった。そしてその者は元はこの北の魔王軍の一員だった」


「え!?」


 思わず声を出して驚く。

 曰く、嘗てフレシア様と同じような魔王軍同士の橋渡し役を北の魔王軍からも出す事になり、それがロア・ルア様だった。

 そしてうちの魔王様と出会ったロア・ルア様はその考えや行動理念に感銘を受け、魔王軍に吸収された。

 亡命というよりは円満にそうなったらしい。

 そんな話は聞いた事がないが、大して幹部に興味が無かったせいか。

 いや、基本幹部は公の情報が無いからな。


「まぁ、昔話はもうよい。いつまで公務の邪魔をするつもりだ。さっさと行け」


「そうだな。そろそろ行くとしよう。……茶ぐらい出してくれてもいいと思うのだが」


「早く行け」


 しっし、と手を払うグロア=ドロフ様と、口を尖らせるフレシア様を見るに、二人が友人というのは本当の様だった。……たぶん。











「やあ、ご苦労だったね」


「勿体なきお言葉です」


 魔王城に戻るやそう労って下さる魔王様。

 あっしは恭しく頭を垂れる。


「久しいなラーよ」


「久しぶりだね。ラフレシア」


「だから繋げるなって」


「ふふふっ。何十年言い続けたら君が折れるのか楽しみだ」


「趣味悪いなお前」


 魔王様に呆れた目を向けるフレシア様。


「で、どいつをぶっ殺せばいいんだ?」


「お、やる気満々じゃーん」


「当たり前だ。私を呼ぶくらいだから期待しているぞ?」


 やはり幹部連中は強さの高見に達した以上、元々戦闘が好きな類がある。そう最近あっしは思っていた。


「帝国で聖人に至ったと思われる者が居る。というか、ずっと前から噂されていた事なんだけどね。今回帝国とドンパチする事に決まったから、万全を期して君を呼んだのさ」


「ほう。人間の上位個体か。神聖力は天上の者が独占しているから珍しいな」


「そうだね。あんま舐めてかかんない方がいいかも」


 帝国とドンパチかぁ。興味ないな。

 アウラ様のアトリエでゆっくりしてよ。

 あ、でも姐さん帰って来てるよな? また出かけてる可能性もあるが。

 頼まれていた人探しはどうしたものか……


「一先ず長期任務の遂行ご苦労だった。アドラー君。また何かあったら頼むよ」


「はっ。では失礼します」


 この場に居る理由も権限もないのであっしは客室を出る。

 ああ、また何か頼まれるのかなぁ。拒否できなかったなぁ。なんて思いながら扉を開くと、ちょうど今入ろうとしていたらしき人物が居た。

 金髪の中年の男性だ。

 どこかで見たと思ったら、大幹部会に居た上位大幹部の代理の人だ。


 ついジロジロ見てしまっていると、その者はこちらを青の瞳でじろりと睨んできた。

 瞬間総毛立つのを感じる。

 少し前の自分であればきっと声を漏らしてしまっていた。本物の強者に慣れた今だから耐えられた。


(こいつ強い……!)


 そして強さとは別の何か本能を刺激する物がある。直感で分かる。こいつは天敵だ。本人の強さ以上にその相性とも呼べる何かが脊髄を撫でるように体を震わせた。


「どけ」


「……し、失敬っ」


 ぶっきら棒に言われて道を譲る。

 男はまるでこちらに興味が無さそうに横切った。


「おい魔王。面白い話を聞いたぞ」


 そう全く敬う気配の無い男の声を最後に、扉は閉まった。









「ふーん。なるほどね。精霊使いか……。毛色を変えて来たね」


 魔王ラーは金髪の男が齎した『面白い話』とやらを聞いて呟いた。

 一応他の者には掃けてもらい、今は魔王とその男のみだ。


「天上の奴らが態々選んだ者である以上、その能力は未知数だ。成長する前に摘んでしまおう」


「でもどうするつもりだ? さすがに居場所までは分からんぞ」


「情報を収集しつつ、専任の者を用意しよう。機動性を重視して猛者を一人だ。そいつは精霊を集めているのだろう? だったら痕跡をしらみつぶしだ」


「一応助言しとくと、精霊は素で見える奴がいいだろうな」


「ふむ。それなら適任者が一人要るなぁ」


「ほう?」


 魔王の発言に片眉を上げて面白がる男。


「北にある大森林を統治してしまった面白い奴さ。そいつは妖精や精霊から知識を学んで群れの教養の向上を図っていたらしい。当然、精霊は見えるし話もできる。森で生まれ育った存在なだけはあるね。元は妖精の親戚だったゴブリンだって言うし」


 つい最近も祝福持ちを討つ武功を上げたその鬼を魔王は思う。


「今は『不凋花アスポデロス』の遊撃隊に所属してるからちょうど引き抜きやすい。その異世界人とやらの首、この鬼に任せるとしよう」


 これ以上ない人選に、満足気に言う魔王だった。



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