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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第三章 帝国消滅編
57/183

57:恋する魔女



 アウラの住む小屋は一見普通の家である。

 一階には居間があり、調理場もある。

 窓際のテーブルに頬杖を突いて、アルラは外の景色を眺めていた。


「はぁ」


 溜め息を吐くアルラ。

 分かりやすく黄昏るアルラにアウラが紅茶持って来る。


「あ、ありがとうございます」


「お疲れのようね。ゆっくりしなさい」


「いえ、お望みとあらば、またどこへでも」


 お使い帰りの数日間。アルラとしても遠慮なくアウラのアトリエでゆっくりする事が可能な休憩のひと時である。

 それでもアウラの言葉に従者としての返事をするアルラ。一見いつものアルラに見えるが、アルラがこの時間を楽しみにしている事を知っているアウラにはその変化に気づけた。

 疑念が確信に変わる。


「何か悩み事?」


 ピクッと、アルラの指が動く。


「な、悩みって程の事ではぁ~」


「ふーん」


 紅茶を口元に持って来ながらアウラはアルラを眺める。


「恋ね」


「げほっ、げほ! ごふっ!」


 ずばりと言われてアルラは紅茶が咽る。


「こ、恋なんて……そんな大それた事では」


「隠さなくたっていいのよ? 大いに恋愛しなさい。私の元を離れて自分の幸せを見つけるのも私は祝福するわ」


「は、離れませんよ! ここ以上の居場所はありません!」


「あら、そう。ふふっ」


 長い銀のまつ毛を垂らしてアウラは笑う。

 アルラは恥ずかしくって顔を隠す様に両手でカップを近付けた。


「あ、あの……私こういった事久々で。……一体どうしたらいいのか」


「それで私に訊いちゃう? 私だって百年単位でしてないわよ」


「はは……ですよね」


(ですよねも失礼か)


 言った後反省するアルラ。

 でもアウラと出会ってから自分とアドラ以外の者と話すアウラの姿は滅多に見た事がないアルラだった。


「あら、最近はめっきりだけど。これでも私、若い頃は結構モテたのよ?」


「き、聞きたいです! 師匠のコイバナ!」


 普段自分語りをしない上、恋愛関係のイメージが掴めないアウラの話題にアルラは身を乗り出す。

 それに無言で頬を掻くアウラ。


「…………う~ん。恥ずかしいからダメ」


「え~~。いいじゃないですかぁ~」


 アルラからの熱い視線に耐えかねアウラは零した。

 それにアルラはテーブルへ腕を伸ばしつつ言った。


「隠されたら気になっちゃうな~っ」


「好奇心は身を滅ぼすのよ?」


「え、急に怖」


 他愛ない冗談を言い合い、あははとアルラは笑い、アウラも微笑む。


「にしても相手の名前も分かってないのはどうしたものか……。あ、そうだ!師匠知りません!? 真っ赤な髪の人で、体術メインで。あとは、え~と~。あ、凄く強い!心臓刺されても平気な顔してたました!」


「え。それって」


「心当たりあります!?」


「……いいえ。ごめんなさい」


(色んな意味で)


 そう心の中で謝罪に添えるアウラ。


「そっかぁ。アドラが探してくれるって言うものだからお願いしてるんですけど……。ほら、最近会えてなくてどうなったか分からないんですよ」


「あーねぇ。すれ違いだったものね」


「はいぃ。お見舞いの一つくらいしたかったんですけどねぇ。戻ってきたら任務で遠くへ行ったっていうし」


 色々嚙み合わない最近にそう零しつつ、アルラは肘を突いて窓から景色を眺める。


「今頃何してるんだろう」


 アルラは自分の中で話題の赤髪の人物とアドラの両方を思って呟いたのだった。









 あっしは北の果てにある魔族の国家へと入った。

 十九代目北の魔王が収める国家。

 正直興味も無いので町にも極力寄っていない。

 あっしの体が食事を必要としなくて助かった。


 種族によっては自然のエネルギーだけで代謝を賄う事ができる者もいる。

 あっしにはそう言った種族の血が入っているらしい。

 食事は必須ではなく娯楽だ。


「あ~~、でもみぃ~」


 雪山を登りながら零した言葉は吹雪に紛れて消えてってしまう。

 一面白い世界だ。

 肉体的に環境の変化には強い筈だが、さすがに堪える。

 防寒着くらいは素直に買いに行くべきだったやもしれぬ。


 魔王国にも冬はあるが、これ程の雪は始めて見る。

 人間より遥かに優れた動体視力で降り積もる雪をよく見ると、それは美しく六角形に結晶化していた。

 確か、六花とか言うんだったか。

 どうでもいいが、それくらい寒いと言いたい。


「つかなんつーとこ居るんや。ほんま幹部連中は変っとるわ」


 そんな愚痴を零しつつ指輪により感じる方向を目指す。

 そろそろ近い筈だが……

 と、ちょうど吹雪を凌げそうな洞穴を見つける。

 怪しいな。


 あっしはその洞穴を目指して歩いた。









 暗い洞穴の中を進んだ。

 吹雪に当たらず空気が変わったのを感じる。


『ガルルルル……』


 と、獣の唸り声が届く。

 狼か?

 と思った次の瞬間、奥から高スピードで迫ってくる人影が。


「ッ……随分粋なご挨拶で」


 鉤爪のある獣の腕を受け止める。

 腕の一つだけが濃い藍色の体毛で覆われているが、見た目は青年である。

 黒に近い藍色の髪。目の下に黒い割れ目のような痣がある。


 強がってはいるが、余裕はない。

 拳一つ受けただけで感じる力量。

 只者ではない。

 この者がラフレシア様か。


「やめろグルーシー。やり合えばどちらかが死ぬ」


 と、奥から女性の声が届いた。

 それにふっと青年の力は抜ける。

 その声の主はつかつかと踵の音を響かせて、奥から出てきた。


 寒さとは別のものにぶるりと体が震える。

 巨大な存在感だ。

 自分の勘違いをすぐに悟る。

 その人物こそ序列六位のレフレシア様だ。間違えようなどない。下位幹部のどれと比べても上。


「お客だ。……いや、使者か。魔王の奴が私の力を欲しているのだろう?」


 そうこちらを真っ直ぐに見る若い女性。

 長い赤の髪。一部青の髪に染まっている。奇抜な髪色だがその美貌により美しさに昇華される。

 出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ、スタイルの良い女性である。

 何より威厳を感じさせるその佇まい。歩き方もそうだ。自信に満ちた強者の姿勢。

 そしてこちらを射抜く紫の瞳。神秘的だ。


「よく来たな。私がフレシアだ」


 そうその方は尊大な態度で言った。









「お初にお目にかかります。アドラーであります。魔王様の命により御迎えに参りました」


「うむ。よろしくな」


 あっしは恭しく頭を下げる。


「部下が粗相をしたな。すまなんだ」


「いえ」


 その部下とやらは気の強そうな視線をこちらに向ける。

 青年というより少年に近い見た目だな。


「して、ラフレシア様は」


「ラ・フレシアだ。魔王がそう勝手に呼んでるだけだ」


「これは失敬を」


「構わん」


 豪快な方だな。


「フレシア様は何故このような場所に?」


「ん? 旅行だが?」


 えぇ……

 絶対観光スポットじゃないだろここ。

 寒いんだけど。


「旅行っていうか旅だな。金、時間、力全てが揃ってると結構暇なんだよ」

 

「ああ、なるほど」


 それは若干分かる気がする。

 寿命の制限が取り払われた幹部連中は何か没頭する物がないと暇で仕方ないだろう。


「まぁ、いい。それも飽きて来てたところだ。魔王が呼んでるなら向かうとするか」


「おお。それはありがたい」


 なんだ話の分かる人ではないか。

 最早目標を達成した様なもので気分が浮かれる。


「ただ最後に魔王の奴に挨拶くらいはしておくとするか。世話になったしな」


「ん? 魔王様に? えっと、一体どういう」


「ああ、魔王と言っても、こっちの魔王だよ」


「こっち……?」


 あっしはフレシア様の言ってる意味が分からず問い返す。


「だから、北の魔王の事さ」


 え。ダルっ。









 どうやらフレシア様は北の魔王とも友達らしい。

 ある意味我ら魔王軍との橋渡し役でもあるようだ。

 魔王軍と北の魔王軍との交流は表向きないし、裏もない。と言うよりは、互いに存在に文句を言わないでおこうね、と言う約束はしているらしい。

 つまりは不干渉。

 戦争を起こす魔王軍に何も言わないし、そちらも何もしない北の魔王軍に何も言うなと、つまりはそういう事だ。


 そしてフレシア様は元々勝手にここらをうろついていたら北の魔王の方から何者だと接触してきたらしい。

 そしたら仲良くなって、成り行きで両魔王軍の橋渡し役になったと。

 出来事がその場のノリ過ぎてよく分からないが、ともかく世話にはなったから挨拶くらいはしておくと。

 あっし達は北の魔王に会いに王都へと向かうのだった。



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