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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第三章 帝国消滅編
56/183

56:風の精霊



 とある森の中。

 灰色の毛を血に染めながら、俺は止めを刺すべく剣に体重を乗せる。

 次第藻掻き苦しんでいた狼は息絶える。


「くっ」


 それを見届けて地面に膝を突く。


「キョウイチ様!」


 と、俺の名を呼びながらすぐにレイラが駆け寄って来る。その後ろにはクロコも。


「大丈夫ですか?」


「ああ、ちょっと疲れただけだ」


 クロコに応え、暑さから来たものとは違う嫌な汗を拭う。

 手を取って立ち上がり、動物のそれよりずっと大きな狼を踏みつけて剣を抜いた。


「主よ、彼に安らかな眠りを」


 レイラが狼に向けて祈りを捧げるの見届ける。

 普通魔物に向けてする事じゃないらしいが、元々俺が殺生をする度合掌してたらこうなった。

 レイラは修道女でもあり、せっかくなら本職の人に追悼を任せている。

 魔物に対する同情が拭えない俺は二人からしたら相当変わってるんだろうな。


「大分慣れてきましたね」


「そうか? まぁ、恐怖で向かえもしなかった頃と比べちまえばな」


 旅に出て早二か月が経った。

 最初は殺生その物に慣れていない事や魔物に対する恐怖で足も竦んだが、今じゃまともに戦えるようにはなっている。

 クロコによる心理カウンセリングと、レイラによる宗教カウンセリングのサポートのお陰だ。

 他にもクロコが勉強して初心者に最適な魔物の討伐依頼を選定。知性も力も低い魔物で慣らしていった。

 今じゃ人間大もする狼型の魔物を一人で倒せるくらいにはなった。まぁ、これもアプロさんの祝福のお陰なんだけど。

 おんぶにだっこって感じだな。俺の力なんて微々たるものだ。

 ちなみに最近冒険者ギルドなる組織で測ってもらった俺のステータスがこちら。


 レベル:3

 魔力適正:5 魔力総量:134

 闘気適正:4 闘気総量: 94


 レベルとかステータスとか元居た世界にない概念で大分驚いたが、俺にも適応するって事は案外前の世界でも通用するのかもな。

 ステータスの種類自体は大分シンプルだな。

 適正が馬力で総量がガソリンって事だろう。大体合ってる。うん。

 で、大分雑魚ステータスな訳だが、レベルでみたらやっぱかなり高いらしい。アプロ様様です。

 レベル的にはFランクらしいが、ステータス的にはDにも引けを取らないらしい。

 早くステータスを使い熟せるくらいには技量を上げたい所だな。

 ちなみに適正は何の修練も積んでいない者に3もあれば先ず先ず良い方らしい。適正が一つ上がるだけでも大変な事なのだとか。

 俺が既に4や5もあるのは無論アプロさんのお陰だ。世間じゃ適正が4以上あって産まれると非常に才能がある扱いを受けるらしい。

 Bランク代の超人みたいな人達で漸く10を超えるとの話だ。


「村の人が言ってた通り大分危険だな。やっぱり二人は付いて来ない方がよかったと思うんだが……」


「逃げないように監視です。監視は私に与えられた最上位の役目です」


「逃げないように監視です。私の元を離れて他の女だけいい思いするなんて言語道断です」


 と、俺の願望ありきの呟きに同じようで全く違う答えを返す二人。

 大分信用が無いみたいで泣きそうです。

 まぁ、二人の存在には大分助けられている。レイラは神聖術とやらが使えて傷を癒してくれるし、クロコも豊富な知識で俺をサポートしてくれる。

 二人のお陰で効率的なレベリングが出来ていた。


「にしても、精霊様の祠ってのはどこだ?」


「今度は本物だといいですね」


「きっと今までのだって本物さ。人が気持ちを込めて作ったものなんだから。たまたま精霊は留守だっただけだよ」


「なるほど。いい方考えですね」


 レイラに応えた俺に、更にクロコが応じる。

 精霊を尊んだり崇拝する宗教的な文化は一定数ある。故に精霊を祀った祠的なのを探し回る旅に出ているのだ。


「問題なのが今までも本当は精霊が居て、私たちが見えていないという線ですね。そうなったらいくら精霊に好かれる体質だろうと関係なく詰むかもしれません。……というか、その線の方が本来はずっと高い。私も冒険に浮かれて都合の悪い部分に蓋をしていたのでしょうね」


「それなんだよな~。っていうか、あれで浮かれてる方だったの?」


「言葉の綾です」


 相変わらずクロコは塩めである。

 と、森を歩き続けていると小さな石碑の様な物があった。


「お、やっと見つけた。ああ~、せっかくのお家なのに。どこもこうだな」


 俺はしゃがんで祠に巻き付く植物の蔓を剥ぎ取る。


『人間が来るのは珍しいね』


「狼が山から降りてきて人が離れていったって聞いたぞ? まぁ、それ以上に時間の流れってやつだろうけどなぁ~」


 俺はそんな風に応じながら蔓を剥ぎ続け。


「ん? 今のどっちが言ったの?」


 そう後ろを振り返りると、呆然と空中に視線を向ける二人が居た。

 俺もその視線の方へと振り返る。


「うお!?」


 思わず声が出た。

 その先には空中に浮遊する謎の光があったのだ。

 不思議だ。実体が今一掴めない程の光の塊なのに、眩しい訳じゃない。

 拳大も無いくらの大きさだ。


「おお! もしかして精霊!?」


『君たちはそう呼ぶね。見える上に声まで聞こえるなんて珍しいね』


 頭に直接届く様な声で精霊は答えた。空気の振動で喋ってる訳じゃないと感覚で分かる。


「すっげ! 初めて見た! ケサランパサランみたいだな!」


『ケサランパサラン? ああ、親戚にいるよ』


「マジで!? 有名人の親戚に会った気分だわ」


 知らんけど。


「す、すごい。というか、全員見えているのですね。精霊は心の綺麗な者にしか見えないと言われ、滅多な事ではないのですが」


「じゃ、全員綺麗なんだろう」


 クロコに応えつつ間近で精霊を見た。


「名前なんて言うんだ?」


『そんなのないよー』


「無いのか? まぁ、人も昔は付けなかったっていうしなぁ。じゃあなんて呼べばいい?」


『なんでもいいよー』


「じゃあとりあえず精霊で。精霊はずっとここに居るのか?」


『そうだね。人間が後から来たね』


「すげーな。暇じゃないの?」


『暇ってどういう状態なのか分からないんだよね。前にも訊かれた気がするなぁ』


「ふーん」


 肉体を持たないから欲求が欠如してるんだろうな。欲求が無ければ毎日暇だろうが、暇その物に苦痛を感じなくなる。快楽がなく不快もない。可も無く不可も無いゼロの状態、とでも言うべきか。


「友達になってよ。俺今精霊の友達探してんだ。仲良くしようぜ」


『いいよー』


 よしよし。思ってた百倍くらいスムーズにいった。


「で、えーとー、精霊術士ってのになるには、こっからどうすんの?」


「具体的な方法までは……話では気に入られると勝手に付いて来るそうですが」


「よし。精霊、俺達と一緒に冒険しよう!」


『いいよー』


「ノリめっちゃ軽……」


 俺達のやり取りにさすがのレイラも呟いていた。

 多分俺の体質のお陰でしょ。


「精霊術士は精霊との契約や友好により力を借り受け、精霊独自の魔法や精霊経由で魔法を使ったりすることが可能な者を指します。これから魔法の勉強ですね」


「魔法かぁ~。ワクワクするわぁ~」


 でもそんな甘くないんだろうなぁ。

 魔法使いとして使えるようになるまで五年掛かるっていうしなぁ。

 まぁ、気長にやるか。


「ところで、この祠?はどういう経緯で立ったんだ?」


『それはね……ちょうどあの時みたいになったね』


「ん?」


 ほんの雑談程度に訊いて、その答えに首を捻っていると、近くから気配を感じた。

 その瞬間茂みの奥から狼が飛び出してきた!

 心臓が張り裂けそうな程驚く。

 二人を庇うように体を広げ、右手は腰の剣へと伸ばし。


 ――ズバンッ……!


 と、何かが破裂する様な音。それも耳が遠くなるような轟音が響く。

 空中で体を伸ばしていた狼の体が一瞬ぶれ、直後に縦に真っ二つに切れて地面に落ちる。


「ひぃぃ~」


 悲鳴を上げてレイラが俺の腕に抱き着く。

 クロコも思考が固まった様子で服の裾を摘まんでいた。

 無理も無い。俺も目を見開き呆然としている。


 目の前には血や内臓をぶちまけ転がる肉塊。

 何かの余波か一直線に地面が抉れ、パラパラと枝が落ちる。

 そして肌を撫でる微風。

 現実離れし過ぎたグロテスクな光景に吐き気も来ない。


『あの時もこんな風に人を助けたんだ。気まぐれでね』


 と、そう精霊が言っていた。


「れ、レイラ」


 座り込むレイラの肩を持つ。

 と、しゃがんだ拍子に祠に目が行き、文字が書かれている事に気づく。

 何かヒントは無いかと近くで読み込んだ。


「風の精霊、ヒョーンをここに祀る……」


『ああ、そういば勝手に人間がそう呼んでたね』


「ははっ、名前あるじゃん」


 こ、この精霊の気まぐれが人間に向いてくれて良かった。

 完全に生物の上位存在として俯瞰して見ているのだろう。

 人間だって子猫が烏に食べられそうになっていたら助ける筈だ。それが食物連鎖の本来の姿であると分かって居ながら邪魔をするは、人間のエゴであり気まぐれだ。

 もしかしたら精霊とは、そう言った存在なのかも知れない。


「と、とりあえずよろしくな。ヒョーン……さん」


 思わず態度が変わってしまうのは、仕方がないと思うのだ。



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